ベシャ、ベチャ・・・魔の山・谷川岳をさまよう謎の足音とは
自分の死に気づいていないのか・・・
翌日、まだ雨が残るなか、滑る岩肌に四苦八苦しながら衝立岩の三級ルートを登攀していると、
「横にその、例のルートが見えるんですが・・・そこで“ああ、あるわ・・・”って」
岩肌に真新しい残置ロープが2本、ぶら下がっていた。
それは、逆Vの字を描くように延びきっている。片方の先端はブッシュのなかへ、もう片方は崖下のほうへ向かったまま見えなくなっていた。
「私の勝手な想像ですが、あの音は、激しく人がグラウンドフォールした音かもしれません」
グラウンドフォールとは、登攀あるいは下降中に滑落してそのまま地面へ落下・激突することを意味する用語だ。最悪、死に至る重大かつ危険なアクシデントである。
「あの人はきっと、事務室を歩き回ってなにかしら記事や記録を探していたんだと思うんです。もしかしたら自分が事故で亡くなったことに気づいていなかったのかも・・・。それで記録を見つけ、ようやく自分が死んだことに気づいて・・・フッと、あちらの世界に行ったのだと思います」
――山ではこんな不思議なこともあるんですね。Tさんはそう話を終えた。
山の心霊体験・不思議な体験に関するアンケート
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プロフィール
成瀬魚交(なるせ・うこう)
1990年生まれ。東海大学探検会OB。学生時代はスリランカ密林遺跡踏査、秋田県民間信仰調査などの活動を行なった。現在は編集者・ライターとして各地の渓谷や不思議スポットを訪れたり、聞き書きなどで実話怪談を手がける。
登山者たちの怪異体験
太古の時代から、山は人ならざるものが息づく異界だった。そうした空間へ踏み込んでいく登山では、ときとして不可思議な体験をすることがある。そんな怪異体験を紹介しよう。
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