人の夢を背負い、世界の山をガイドする近藤謙司さん。新たに開発したコロンビアのアタックウェアで仲間と共に6年ぶりとなるエベレスト登頂
2024年5月、国際山岳ガイド・近藤謙司さん率いるアドベンチャーガイズ隊はエベレストに登頂を果たした。今回、近藤さんとコロンビアスポーツウェアジャパンが11年ぶりに共同開発したアタックウェアを身にまとい、エベレストに挑戦。9月3日にはエベレスト遠征試写・報告会が開かれ、その道のりを報告した。
文=山と溪谷オンライン、写真=コロンビアスポーツウェアジャパン
コロナ禍で前回の計画の中止を経て、6年ぶりの挑戦

2024年4月11日、近藤さんとエベレスト公募登山隊はネパールの首都カトマンズに到着。この地から全行程50日をかけてエベレストを踏破する計画だ。エベレスト登山はベースキャンプ(BC)から登頂、下山まで往復7日間。それ以外は、高所順応とトレッキング訓練に費やされる。エベレスト登山は2018年以来の公募となる。およそ6年ぶりだが、実は2020年にも一度計画が立てられていた。
「2020年4月にエベレスト登山を計画していたのですが、世間はコロナ禍で、緊急事態宣言が発表された時期。直前で計画は中止になり、それから数年は高所登山ができない状況でした。やはりメンバーにとって、エベレスト登山は大きな目標のひとつ。今回の登山隊の参加者には、2020年の計画に参加予定だった方も。そういった登山隊のメンバーにとってもやっとの思いで挑戦できる機会だったと思います」
今回の登山隊は何度か高所登山を共に経験したメンバーだ。
「登山隊のメンバーは過去にも私のガイドに応募してくれて、一緒に高所登山を経験した仲間です。初めて会う方はいなくて、みんな気心知れたメンバー。最高齢は65歳の方だったかと思います」
現地でまん延した風邪を乗り越え、エベレスト登頂。隊員の夢の達成の瞬間に立ち会うために

自然への対応だけでなく、普段とは異なる環境下での生活への対応も必要。だからこそ、高度順応やトレッキング訓練を計画的に行う。それでも、想定外のことは起こるもの。今回のアタックで最も大きな障壁だったのは、現地で流行した風邪だった。
「高所登山にも慣れているメンバーかつお互いのことを知っている関係性なので、いつも通り淡々とエベレスト登頂のための準備を進めていきました。しかし、エベレスト街道に入り、ディンボチェからロブチェBCに到着したあたりで問題発生。現地で流行る風邪で隊員、スタッフたちに体調不良者が続出したのです。10日間ほど喉の痛みや発熱といった症状が続くもので、予定していたロブチェピークへの登頂に黄色信号が灯りました。私自身も体調が芳しくなく、登頂できるかも不安な状態。ロブチェのタームを終えるまで4~5日間はありましたが、ロブチェに登頂するために参加したメンバーもいたため、そこで離脱するのは登山隊のモチベーションに関わってくると感じていました。そのため、何とか気力と意地で登りきりました」
ロブチェピークから無事に帰還できたものの、その後は満身創痍だった。
「ロブチェBCに戻ったころには放心状態になるほど疲弊していて、ロブチェを登り終えた疲労困憊の隊員にもついていけないほど。BCに戻って、酸素を吸わせてもらっても体調が回復することはありませんでした。
登山隊が2~3日BCに滞在する期間を利用して、一度ヘリで離脱し、検査を受ける判断をしました。8000m級は21回登っていますが、ヘリを使って病院に検査しにいくのは初めての経験。ここで一度しっかり検査をしないとエベレストBCに体調を崩した状態を引きずったまま向かうことになっていたと思います。結果的に検査は異常なく、1日しっかり休養を取ることもできたため、翌日にはヘリでBCに帰還。そして、5月21日、私を含めた登山隊7名が無事に山頂に立ち、世界最高峰からの景色を分かち合うことができました」
山が好きなだけで、ガイドをやっているわけではないと語る近藤さん。人と人との関わり、メンバーが一つの夢を達成させる瞬間をサポートする。その責任と想いこそが登頂請負人といわれる所以なのかもしれない。
アタックウェアに最新テクノロジー「オムニヒートインフィニティ」を採用
今回のエベレスト登頂をサポートしたのは、コロンビアと共同開発したアタックウェアだ。2013年から始まったプロジェクト「WIN THE SUMMIT」で開発されたウェアをバージョンアップさせたものだ。
「前回開発したウェアは概ね満足したものでした。しかし、かなり使い込んだこともあり、今回の登頂で使用するのは厳しいかなと思っていました。そこでコロンビアと共同で、11年ぶりに新たなウェアを開発することに。基本的には前回のものを踏襲しつつ、細かい部分を改良。大きなところだとコロンビアの独自技術である「OMNI-HEAT(オムニヒート)」を、反射蓄熱テクノロジー「OMNI-HEAT INFINITY(オムニヒートインフィニティ)」に変更したところでしょうか。実際に使ってみて、保温力が格段にアップしていましたね。氷点下30℃にもなるエベレスト山頂付近でも冷えを感じることはありませんでした」
一緒にモノづくりができる楽しさを改めて実感。コロンビアは近藤さんの細部にわたる提案にも応え続けた。
「完成したのは出発前ギリギリ。細かい要望にも付き合ってくれたコロンビアには感謝しています。お互いが一つの製品に対して突き詰めてモノづくりができるのは、その過程も含めてわくわくしますよね。今回、ほかの隊員からこのウェアほしいという声もあるほど好評でしたが、絶対あげないですよ! これは私の想い出なんですから」
2013年に開発したウェアは、16年、18年と3度のエベレストを登頂した。今回のウェアは近藤さんたちとどんな冒険を共にするのだろうか。
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