南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑩愛媛県の遍路道 区間ごとのアドバイス

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弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

写真・文=岸田 明 トップ写真=国道56号・内子線喜多山駅付近の景色。やはり春が遍路のベストシーズンであることに間違いはない

目次

【区間2】第五十二番太山寺~第六十三番吉祥寺  3泊4日
公共交通の区切り:伊予和気駅~伊予氷見駅

第五十二番太山寺(たいさんじ)の本堂は国宝でドッシリした姿がすばらしい。太山寺から第五十三番圓明寺(えんみょうじ)はミカン畑の丘越えの方が気持ちがよいだろう。圓明寺はかわいらしい中門(ちゅうもん)が特徴。和気町からは単調な道が続くが、伊予北条からは気分転換に峠越えの鎌大師(かまだいし)ルートを行こう。峠からは久しぶりのパノラマが楽しめる。

浅海(あさなみ)に下った後に再び山に入る旧遍路道がある。途中1つ目の峠まではミカン畑の中を行く雰囲気のある道で楽しいが、登り返し点から先の2つ目の峠はゴルフ場のアクセスの急勾配のアスファルト道路なので、そこは登らずに海岸に出て、菊間に向かう方が楽だろう。

高縄(たかなわ)半島をぐるりと回りこむ形で今治(いまばり)市街に入り、第五十四番延命寺(えんめいじ)から、四天王の山門がみごとな第五十五番南光坊(なんこうぼう)、第五十六番泰山寺(たいさんじ)とお参りする。続いての第五十七番栄福寺はご住職が遍路本も出版されていて、遍路の普及に力を入れている霊場だ。山の方を見上げるとなにやら建物が確認できるが、それは第五十八番仙遊寺(せんゆうじ)の宿坊である。

小一時間、最後には強烈な石段を登ると(2024年秋崩落により通行止め)仙遊寺で、境内や宿坊からの今治方面やしまなみ海道方面のパノラマがすばらしい。なお仙遊寺の宿坊は天然温泉がある。宿坊に泊まれば、温泉とともにご住職との会話も楽しめるだろう。美しい竹林の五郎兵衛坂の遍路道を通って、第五十九番国分寺(こくぶんじ)に向かう。

〉仙遊寺宿坊から今治・しまなみ海道方向のパノラマ
仙遊寺宿坊から今治・しまなみ海道方向のパノラマ。昼間もよいが、夜景はさらにすばらしい

第六十番横峰寺(よこみねじ)まではまた長いロードがある。途中の世田薬師・栴檀寺(せたやくし・せんだんじ)付近から、石鎚山が初めて真正面に見えてくる。横峰寺へは完全な登山なので、麓で前泊する。

大頭(おおと)交差点から舗装された林道で懐の湯浪(ゆなみ)休憩所まで入れるが、そこから先は石畳区間もある深山の登山道だ。なお山道区間は沢沿いで増水時は通れない(第3回コラム表紙写真、および第6回コラム本文参照)ので、里からの進入ポイントである大頭交差点の先で、早めに妙谷川(みょうのたにがわ)の水量を確認する。徒渉の困難が予想される場合は、先に第六十一番香園寺(こうおんじ)付近の霊場にお参りした後、車道を歩いて横峰寺を往復することになる。

仁王門に着いたら、晴れていれば迷わず星ガ森まで往復して、石鎚山を遙拝しよう(第9回コラム写真参照)。横峰寺は全境内がシャクナゲで埋め尽くされた、すばらしい霊場だ(第9回コラム表紙写真参照)。

横峰寺から長い尾根道を下り、第六十一番香園寺、第六十二番宝寿寺(ほうじゅじ)、第六十三番吉祥寺(きちじょうじ)とお参りする。今回の打ち止めポイントである伊予氷見駅は、吉祥寺山門からまっすぐ行ったすぐ先だ。

●アドバイス
松山駅から先は一部離れる区間はあるものの、JRに沿って遍路道がある区間が長い。ここは上述したように、区切り地点は自身の都合で決められる自由度がある。

なお宿探しだが、松山以降、香川県の第八十六番志度寺(しどじ)まで含めて遍路道周辺に人家が多いものの、遍路宿がそこかしこにあるというわけではない。この対応策として、松山以降はその日の打ち切り場所と宿を別に考え、予約できた宿との往復に鉄道を利用すれば、宿の場所によってその日の行程の制約を受けることが少なくなる。愛媛県での宿泊候補地としては、松山駅、今治駅(ただしその先、伊予三芳<いよみよし>駅伊予小松駅間は遍路道はJRから離れて内陸に入る)、伊予西条駅、次の第3区になるが新居浜駅伊予三島駅あたりだろう。中萩<なかはぎ>駅伊予土居駅間は遍路道からJRが海側へやや離れる。

〉瓦の町・菊間の美しい瓦が葺かれた新しい菊間駅駅舎
瓦の町・菊間の美しい瓦が葺かれた新しい菊間駅駅舎。松山駅~今治駅中間にあって、その日の区切りの候補になる駅だ

JRと離れた区間での遍路宿探しでの注意としては、まずは前述のように横峰寺越えで、この区間は登山なので朝一番での入山が必要で麓での前泊となるが、幸い麓の入口点である大頭(おおと)付近に遍路宿が複数軒ある。

MAP&DATA

高低図
最適日数:3泊4日
コースタイム: 27時間40分
行程:【1日目】
伊予和気駅・・・太山寺仁王門・・・第五十二番太山寺本堂・・・太山寺仁王門・・・新勝池・・・第五十三番圓明寺・・・堀江駅入口・・・粟井坂大師堂・・・柳原駅入口・・・立岩川・・・浅海駅入口(周辺宿泊想定)

【2日目】
浅海駅入口・・・菊間駅入口・・・青木地蔵・・・大西町別府旧道分岐・・・井出家屋敷・・・第五十四番延命寺・・・第五十五番南光坊・・・第五十六番泰山寺・・・第五十七番栄福寺・・・仙遊寺仁王門・・・第五十八番仙遊寺(周辺宿泊想定)

【3日目】
第五十八番仙遊寺・・・仙遊寺仁王門・・・吉祥禅寺・・・第五十九番国分寺・・・今治湯ノ浦道の駅・・・世田薬師・・・日切大師・・・県道150号線と155号線T字交差点・・・丹原郵便局・・・大頭交差点(周辺宿泊想定)

【4日目】
大頭交差点・・・大郷休憩所・・・湯浪休憩所・・・古坊・・・横峰寺仁王門・・・星ヶ森・・・横峰寺仁王門・・・第六十番横峰寺・・・香園寺一里十六丁標柱・・・横峰寺遍路道出口・・・香園寺奥ノ院・・・第六十一番香園寺・・・第六十二番宝寿寺・・・第六十三番吉祥寺・・・伊予氷見駅
総歩行距離:約102,448m
累積標高差:上り 約1721m 下り 約1709m
コース定数:99
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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。

四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/

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