タイワンリス、最近増えている帰化動物。かわいいけれどワルイヤツ。
神奈川県の三浦半島の山々を歩いていると、リスの姿を目撃するのは珍しいことではない。この多くはタイワンリスという帰化動物で、生態系や自然環境に悪い影響を与え始めている。
文・写真=髙橋修
現在三浦半島にはタイワンリス(クリハラリスの亜種)が多数生息している。名前のとおり台湾原産の帰化動物である。動物園や個人で飼っていたタイワンリスが逃げ出して、日本の森で繁殖して増殖している。帰化の生き物は、在来の生き物に大きな悪影響を及ぼす。タイワンリスもそうである。どのような悪影響があるのだろうか。
三浦半島の低山を歩いていると、「ギチギチ」など今まで聞いたことのないような鳥のような声が聞こえることがある。これがタイワンリスだ。「ギチギチ」(ゲコゲコゲコとも聞こえる)という鳴き声は求愛の声のようだ。ほかにも多彩な鳴き声でタイワンリスどうしが会話しているように聞こえる。木の上を注意しながら歩いていると、枝を渡る、ふさふさした尻尾のタイワンリスの姿を見ることができる。

タイワンリスの生息域の森を歩いていると、ちょっと変な木を見ることがある。木の皮にミミズばれのような模様が付いている木だ。はじめは変わった植物だと思っていたが、この模様は色々な木に付いており、ヤブツバキ、マテバシイなど色々な樹種に、この模様が付いている。


若い木にも古い木にも模様がついていた。若い木には小さな模様、古い木には古く大きな模様。どうやら成長とともにこの模様はわずかに大きくなっているようだ。
このミミズが這ったような少し不気味な模様は、タイワンリスが付けたものだった。樹皮に傷をつけて、そこから出る樹液をタイワンリスが舐めるために、傷をつけたのだ。樹液は栄養満点である。傷つけられた木は生き残ることもあるが、枯れることもあるので、木にとっては迷惑な話である。

タイワンリスの被害はこれだけではなかった。この時期、鎌倉周辺の山ではヤマザクラなどの花が咲いている。満開のヤマザクラの枝でタイワンリスが何かを食べていた。どうやら花を食べているようだ。落下した花を見ると、花蜜がある栄養豊富な花弁の付け根の子房部分だけを食べているようだった。だから花びらがヒラヒラ散るのではなく、ぽたりと5弁の花ごと落ちる。地面にはたくさんのヤマザクラの花が落ちていた。



最近はタイワンリスによる農作物や庭の果樹にも被害があるようだ。タイワンリスはどんどん増加して、生息域を広げている。タイワンリスには罪はないのだが、あまりに増えると悪影響が大きくなってしまうだろう。かわいい動物なのだが・・・。

プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。
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