北海道・アポイ岳は高山植物の宝庫。“アポイ”の名が付く固有種が非常に多い理由は?
アポイ岳は、北海道・襟裳岬の突端からそう遠くはない場所、海からもほど近い位置にそびえる山だ。標高810mと決して高い山ではないが、高山植物が咲き誇り特別天然記念物にも指定される。その魅力を高橋修氏が紹介する。
北海道の日高山脈の南部に位置するアポイ岳は高山植物の多い山だ。春から秋まで、そして山麓から山頂近くまで、たくさんの花が咲く。
初夏には、アポイタチツボスミレやアポイアズマギク、アポイキンバイなど、アポイの名がある固有種が咲く。ほかにもアポイカラマツやアポイハハコグサ、アポイマンテマ、アポイヤマブキショウマなど、山の名が付く固有種が非常に多いのが特長だ。

アポイ岳の山頂に立つと、眼下には青い海が広がり、アポイ岳からは海が近いことがわかる。山頂の標高は810mと、高山植物が生える山としてはとても低い。なぜ標高が低い山なのに、これほど高山植物が豊富なのだろうか。これには理由がある。
アポイ岳はカンラン岩という珍しい岩石でできた山で、貴重な地質が見られる場所に認定されたジオパークにも認定されている。カンラン岩はマグネシウムやカドミウムのような金属成分が多いため、木が大きくなるのに適していない。このため背が低い高山植物が生息しやすいのだ。
もうひとつ高山植物が多い理由のひとつが、日高山脈の南端という地理的な位置だ。周りの海との気温差で、霧が出やすい。晴れていても、アポイ岳の山頂付近は基本的に霧に巻かれて、気温が上がらない。これらの理由により、アポイ岳は高山植物の宝庫になっている。
5月の下旬にアポイ岳に登った。麓からたくさんの花に迎えられ、とてもうれしかった。
最初に迎えてくれたのはエゾオオサクラソウの群落。五合目の避難小屋からはアポイアズマギクやアポイタチツボスミレが咲いていた。


馬の背が近くなるとサマニユキワリが出てくる。馬の背を越えると日高小桜やエゾキスミレが出てきた。サクラソウにスミレ。花また花。これがアポイ岳のフラワートレッキングだ。


アポイ岳の高山植物は、これから秋までどんどん花が咲いていく。アポイ岳は何度登ってもすばらしい山なのである。また行きたい思いが残る、懐深い山なのだ。
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プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。
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