南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑭完結・まとめに代えて
弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。
写真・文=岸田 明 トップ写真=別格第二番童学寺。山門がかわいらしい
筆者にとっての遍路とは
前回のコラムで、遍路結願寺・第八十八番大窪寺への登り口の前山ダムにはおへんろ交流サロンがあると述べた。ほとんどの歩き、もしくは自転車遍路は訪れていると思われるが、そこのスタッフに聞いたところ、コロナ禍以降で年間約1700名ほどに「遍路大使任命書」(結願証明)を交付しているそうだ。また、ある遍路宿のご主人の話だが、情報を集めて総合的に推定した結果、結願の人数は年間約7000人だそうだ。
さて遍路の魅力に関しては初回のコラムで述べているが、結願後の感想としてはまさに期待した通り、いやそれ以上であった。もちろんそのすべてが大切なものであるが、これまで歩き遍路を3回経験した筆者にとって、日々のいろいろな経験や感動のなかで、その魅力の重要度は変化してきている。
現在、もっとも大切に感じるのは「お接待」だ。遍路でのお接待というと、差入れや陣中見舞いのようなニュアンスで理解されているが、その本質は実はもっと深い。遍路では、ミカンやお菓子をいただくことが多いが、現金のこともある。そしてなかには私に対して手を合わせる方もおられる。最初は自分はそんな偉い人間ではない、と手を解いていただくようお願いしていたが、そのうち、手を合わせられる意味はまったく違った所にあることに気がついた。それはまさに「同行二人」なのである。地元の方は、自分の後ろにおられる大師様に手を合わせているのだ。その意味を理解した今の自分にとっては、大師信仰の根付いている大師修行の地・四国を「弘法大師とともに歩く」ことが、遍路の最も重要な柱となっている。
ただこれは筆者個人にとっての遍路であって、遍路の意味は各人各様であるべきだ。遍路は何番からスタートしてもよいし、通しでも区切っても、あるいは順不同でもよい。また歩きでもマイカーでもバスでも、結局なんでもよくて、それが遍路の懐の深さなのだろう。ただ遍路は、一つのことに集中した自分だけの時間の中で、一期一会の経験をする、ということに大きな意味があるのではないだろうか。
最後になるが、読者の皆さまにはこれまで14回の長きにわたって連載にお付き合いいただき、心より感謝する。筆者のコラムによって、皆さんが遍路に出てみたいと少しでも思っていただき、実際に歩くにあたって参考にしてもらえれば大変幸いだ。そして皆さまの旅の安全と無事結願を、心よりお祈り申し上げる次第だ。
プロフィール
岸田 明(きしだ・あきら)
東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。
四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/歩き遍路旅の魅力と計画アドバイス
登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスと、その記録
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