山岳・風景写真の教科書 第15回 白馬岳のお花畑を撮る

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季節の題材を取り入れた一枚を撮る連載。今回は、白馬岳で見ることができる色とりどりのお花畑をテーマに、夏の標高が高い山ならではの作品について解説します。

文・写真=菊池哲男


標高の高い山で夏にしか出会えないものを考えるとまず頭に浮かぶのは高山植物です。高山植物とは一般的に森林限界より高い高山帯に生えている植物を指します。もちろん東北や北海道では森林限界が低いため、それほど標高が高くなくても高山植物に出会えますが……。この高山植物が初夏から晩夏まで場所や標高、残雪の量などで咲く花の種類、時期を変えながら咲き乱れる場所を“お花畑”と呼んでいます。私が足しげく通う北アルプスの白馬岳(しろうまだけ、はくばだけ)はまさに日本を代表する高山植物の宝庫で、このお花畑があちこち見られる雲上の楽園と言えます。テーマを「白馬岳のお花畑を撮る」として4作品を紹介します。

さまざまな高山植物が咲き乱れる白馬岳(7月中旬)

大雪渓の稜線直下に雪解けとともに咲いたミヤマタンポポやシロウマタンポポ、シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲなど多種多様な高山植物を白馬岳と一緒に撮影。縦構図にすることで高度感と奥行きを表現した。

撮影データ

Nikon Z 7 
焦点距離25.5mm 
F11 
シャッタースピード1/200秒 
ISO200

ツクモグサと旭岳(7月上旬)

クリーム色のツクモグサは白馬岳と八ヶ岳・横岳周辺にしか咲かない花で、白馬岳では山頂付近の稜線で6月下旬から7月上旬に咲く。梅雨時になるため、山と一緒に撮るのはなかなか難しい花でもある。

撮影データ

Nikon Z 7 
焦点距離24.5mm 
F14 
シャッタースピード1/320秒 
ISO250

ウルップソウと白馬鑓ヶ岳、剱岳遠望(7月上旬)

ウルップソウも本州で見られるところは白馬岳から五竜岳と、八ヶ岳・横岳周辺に限られる。7月上旬から下旬にかけて咲くが、やはり梅雨時であるため、山とお花畑を撮るのが難しい。

撮影データ

Nikon Z 7 
焦点距離24mm 
F14 
シャッタースピード1/160秒 
ISO250

コバイケイソウと剱岳遠望(7月下旬)

約4年に1度、当たり年があるというコバイケイソウは群落をつくり、白色系で大きいので、遠くからでも目立つ。当たり年にも大当たりや小当たりなど差がある。

撮影データ

Nikon Z 7 
焦点距離46mm 
F14 
シャッタースピード1/160秒 
ISO200

技術的には第4回で述べたようにフルサイズのカメラでは絞りをF11~14に絞り、ピントの位置を画面の上下1/3~1/2辺りに合わせることで被写界深度を深くします。F16以上にすると回折の影響でシャープ感が失われるので注意が必要です。APS-CサイズではF11までに止めておいたほうがよいでしょう。またシャッタースピードによっては風などで手前の花の動きが大きくて止まらないので、風が止まるタイミングに合わせてシャッターを切るか、ISO感度を上げることで、ある程度シャッタースピードを速くして撮影します。

『山と溪谷』2025年7月号より転載)

プロフィール

菊池哲男(きくち・てつお)

写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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山岳・風景写真の教科書

『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。

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