残雪多い7月中旬の北アルプス北部の稜線・朝日岳~白馬岳は、困難も多いが行く価値のある場所

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北アルプスに本格的な登山シーズが始まるのは梅雨が開けてからとなるが、とくに残雪の多い北部の山々、朝日岳・雪倉岳・白馬岳あたりでは、まだ少し早いかもしれない。しかし、残雪が多い時期だからこそ、楽しめることも多い。

 

朝日岳山頂付近より朝日平、朝日小屋を見下ろす(写真=奥谷 晶)

7月初旬から中旬ころ、梅雨が開けるかどうかという時期、北アルプスの北端に近いの稜線、朝日岳・雪倉岳・白馬岳のあたりは、高山植物の宝庫の時期となる。

まだ登山道には多くの残雪が残り、一般的な登山時期とはいい難い時期かもしれない。夏道はまだ雪の下で、天気が悪ければ道迷いの危険性もある。アイゼンは必ず携行する必要があるだけではなく、残雪状況や通るコースによってはピッケルの携行も必要だ。加えて、梅雨前線が活発に活動する時期なので、天気が期待できないだけではなく、荒天となるケースも考慮しなければならない。

そうした困難が予想されても、この時期の北アルプス北端の稜線は魅力的で、行く価値が高い場所だ。そんな時期に、奥谷晶氏が訪れたレポートを紹介する。

 

厳しい”登り返し”の道も花の宝庫に癒やされる

2017月7月15日、梅雨明け前の不安定な天候の予報でしたが、蓮華温泉より朝日岳、雪倉岳、白馬岳を周回する計画で入山しました。この日は予想に反して次第に晴れ、そして気温が上がっていきました。蓮華温泉から兵馬の平へと進む道は、いったん300mほど高度を下げてから1300mを登り返すという行程のため、かなり体力を消耗させられます。

それでも、花の宝庫と言われるにふさわしく、ヒオウギアヤメ、ショウキラン、ムシトリスミレ、オオサクラソウ、ハクサンコザクラ、ミヤマムラサキ、シラネアオイ、キヌガサソウ、サンカヨウなど、高度に応じて次々と花々が現れ、そのたびに足をとめることになり、コースタイムを大幅に超える結果となってしまいました。

朝日岳南面の斜面にはキヌガサソウの群落が咲き誇る(写真=奥谷 晶)

途中の登山道では雪渓は何箇所か出てきますが、ステップができていて、登りではアイゼンは使用しませんでした。

翌日は昼前より大荒れの天気となるという予報を得て、朝日小屋周辺の散策にとどめて停滞することにしましたが、雨の降り出しは早く、10時過ぎには暴風雨の吹き荒れる荒天が終日続きました。

 

通行止めの白馬水平道は使えず、再び厳しい登り返し

朝方は霧が立ちこめ、視界がきかないなか、朝日岳を登り返して、雪倉岳へと向かいます。この時期の白馬水平道は残雪が多く通行止めとなります。例年、開通は7月中旬~下旬です。水平道の開通については朝日小屋に確認してください。

朝日岳を過ぎたあともいったん高度1900mまで下り、雪倉岳、白馬岳とピークを越えていかなければならず、累積高低差は1700mほどになり、予想外に時間がかかります。

ガスが切れてはじめて、雪渓をまとった白馬岳山頂が姿を見せた(写真=奥谷 晶)

雪渓は、朝日岳より水平道分岐の手前で、短いが急峻な箇所、雪渓上部の雪のブロックが残った所など、注意するところがありました。アイゼンは出さなかったものの雪倉岳避難小屋から先の雪渓は長くて見通しが悪く、まだステップが刻まれていなかったので、迷わず積極的にアイゼンを使用して正解でした。さもなければ急傾斜になった雪面のところでアイゼンをつけざるえなくなるという危険な状態に陥るところだったからです。

このコースも高山植物は百花繚乱で、ミズバショウやハクサンコザクラ、シナノキンバイにイブキジャコウソウ、ヒメウスユキソウ、ウルップソウ、コマクサなど、その多種多様さに驚くほどでした。この日は時間切れで、納得のいく写真が撮れたとは言い難いのが残念です。

雪倉岳南面の斜面より風雨に耐えたコマクサ越しに白馬杓子岳を望む(写真=奥谷 晶)

夕刻から再びガスと強風が吹き始め、夜半から朝方にかけてさらに猛烈な風となりました。結局、最終日は白馬岳山頂から蓮華岳・白馬大池手前の船越の頭へと続く稜線上は強風が吹き荒れ、ときどき体をぐらつかせるほどの突風も混じり、慎重に行動せざるを得ませんでした。

荒天の中を歩いた疲れは、蓮華温泉の野天風呂でゆっくり癒すことができ、無事に下山できたことを実感できました。

この年は、停滞、長い雪渓、烈風凄まじい稜線と厳しい山行となりましたが、花の宝庫の稜線で風雪に耐える花たちを見ることができて満足感の高い4日間となりました。

 

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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