自転車で登山口まで行ってみよう!「チャリ登」始めました
山形県をホームグラウンドにロングトレイルを歩き続ける斉藤正史さんは、海外のロングトレイルを歩くかたわら、東京都心の超低山巡りを続けています。これまで電車・バスなどの公共交通機関を利用して登っていた山ですが、バス区間を自転車に置き換えるだけで、楽しみ方が大きく変わることに気づきました。たとえば、バス時間に制限されない自由。ちょっと帰りに寄り道して、サイクリング気分も楽しめます。せっかくの休日、山だけ、自転車だけ楽しむのはもったいない。自転車×登山、略して「チャリ登」の楽しみをご紹介します。
文・写真=斉藤正史
チャリ登とは?
私は山形在住ですが、都心での取材が増え、電車で移動しながら都内の超低山を巡っていました。しかし、東西の路線は結構あるのですが、意外と南北を通る路線があまりありません。しかたなく山手線の駅まで戻り、また西へ東へ。
「あー、歩いたほうが早いのかな……。ん?自転車で行った方が効率よいのでは?」と、ふと思い、車庫に20年ほど眠っている、もはや粗大ごみ寸前と化したマウンテンバイクやら折り畳み自転車があることを思い出しました。
これを活用できないかな? とメンテナンスしたのが始まりでした。とりあえず、20年分の埃にまみれた自転車を洗い、ブレーキ周りやチェーンを交換。20年ほど前の自転車とは思えないくらい結構きれいになりました。よし、と輪行バッグを買って、いざ東京へ。
自転車で取材を始めると、大きな時間短縮になるだけでなく、移動途中、気になるところへ足を延ばしてみたり、裏道を通ってみたりと、徒歩ではなかなか寄り道する余裕はなかったのですが、自転車だと行くかという気になれました。そうです、今までになかったおもしろさを発見することができたのでした。これ、おもしろいかも???
自転車のおもしろさ
復活した自転車は、今まで東京に来て電車移動しかなかった僕の行動範囲をずいぶん広げてくれました。地方住みの僕にとって、東京の路線バスはそもそもハードルが高めです。電車だけの移動だと地下鉄の場合、景色が見えなかったりします。特に、朝・晩の時間帯の移動は、地方住み人間にとってはあり得ないほどの混雑ぶりです。そんな悩みも自転車はみごとに解決してくれました。
また、都内を自転車で移動していると、都内を立体的に見ることができます。渋谷は地名の通り谷底だったんだとか、皇居は城の分類で平山城(丘や山に造られた城)に分類されていると頭ではわかっていたのですが、自転車を使うと、間違いなく皇居に向かって坂道になっていたりと、今まで電車移動では気付かなかった東京の地形を体感できます。また、歩いていると緩い坂は気にならなかったのですが、自転車で通ると、この道って少し傾斜しているんだとか気付くこともできました。そうすると、3Dで東京を見ることができるのです。不思議なもので、地形がわかると今まで見向きもしなかった、史跡や歴史にもいっそう興味が湧いてきます。
バスを自転車に置き換える、チャリ×登山
東京の山を行くとき、やはり知らない地方の路線バスに乗るのはハードルが高い。なら、このバス区間を自転車に置き換えたらハードルが下がり、僕でも東京の山を登れるのではないかと思いついたわけです。
自転車で山に行く動機としてはただそれだけではちょっと弱いのですが、そもそも23区以外の東京の山を登ったことがない僕にとって、奥多摩や相模湖方面はテレビでの情報しかありません。駅を中心に登山口までのルートを思い描き、グーグルマップを見ると、地元のお菓子屋さんや日帰り温泉、史跡なども見つけることができました。じゃあ、この駅からスタートして、帰りはこの駅まで来れば銭湯に行けるか……なんて考え始めると、あれ? なんか楽しいぞ。
まるで遠足の前の日のようです。電車の時間にも縛りがないので、朝早く山の最寄り駅まで行って自転車で移動し、山に登って帰ってくると、都心起点で半日で終わる山もありそうです。じゃ、帰りはサイクリングを兼ねて少し自転車を走らせてみるか。アプローチを自転車に変えるだけで、いろいろ楽しいことがありそうです。
トレイルを歩くハイカーである私にとってなじみ深い、自由度の高い山登りになっていきそうな予感がします。
自転車を利用する登山、略して「自転車登山」いや違うな……。「山チャリ」、うーん、マウンテンバイクみたいだな。自転車では山を登らないしな。もっとカジュアルなネーミングがないかな? と数日考えて思いついたのが、「チャリ登」でした。つまり、自転車=チャリ、登山=登です。自転車ならなんでもOK。気軽に多くの方が始められるように。そんな思いを込めてあえて「チャリ」にしました。こうして「チャリ登」が誕生したのでした。
マウンテンバイクから折り畳み自転車へ
東京に住んでいるのならマウンテンバイクでもいいのですが、山形から毎回マウンテンバイクを持ってくるとなると、新幹線の荷物置き場に収まらないサイズのマウンテンバイクではどうも気が引ける。そこで、自宅に眠っていた折り畳み自転車を活用することにしました。折り畳み自転車はおおむね20インチ以下の車両が多いのでマウンテンバイクよりは小さいし、そこそこ走れます。これもまた、ブレーキまわりやチェーンの交換。せっかくなので塗装やら乗りやすいようにサドルやらを変えてみます。実は始めてみるとこのプチカスタムもこれはこれでちょっと楽しかったり。
こうして、チャリ登に使うべく、折り畳み自転車の再生を行ったのでした。
都内で走らせてみると、マウンテンバイクよりスピードは出ないものの、結構な速さで移動できます。しかも、ロードバイクのような速度は出ないので止まりやすい。気になるお店があると立ち止まって見学したり、ちょっと公園で休憩したり、小径車ならではの楽しみ方ができます。立ち止まれるスピードでの移動は、トレイルを歩くようでもあります。これはこれで、より好きかもしれないと思ったのでした。
さて、実際にチャリ登を始めるにはなにを準備するといいでしょうか? まずは、チャリ選びから。
チャリ登に向いた自転車
電車に自転車を乗せるので、輪行袋に入れられる自転車が好ましいです。たとえばマウンテンバイクやロードバイク、小径の折り畳み自転車などです。なかでも20インチ以下の折り畳み自転車が個人的におすすめです。朝早い時間帯の移動なら大きなマウンテンバイクやロードバイクでもよいのですが、鉄道が込み合う日中の時間に遭遇することを考えると、自転車はできるだけコンパクトに収納できたほうが気分的にも楽です。おすすめは
- 20インチ以下の小径折り畳み自転車
- 軽い車両
- 6段程度のギア
- 噴コンパクトに畳める
折り畳み自転車だと、電車に乗っているときも旅感が増し増しです。
山を登るためにきつい階段を登ったり走ったりと、ストイックにトレーニングされている人は意外と多いのではないでしょうか? 実は、自転車で走ると効率よくトレーニングできたりします。自転車は有酸素運動ですし、サドルに体重がかかりますので、足の筋力でペダルを漕ぐことになります。ひざや足首など関節に痛みのある方でも、歩いたり走ったりするより関節に負担をかけずにトレーニングできるのです。しかも、しっかり心肺機能を鍛えることもできるので、山登りのトレーニングには最適です。ちなみに、歩くより運動効率もいいので、消費カロリーも増えます。普段のトレーニングにもチャリは最適だったりします(正しい自転車の乗り方をしないと効果がない場合があります)。
きっとみなさんの自宅や実家にも、私のように何回かの自転車ブームで車両を購入し、今は車庫の肥やしになっている自転車があるのではないでしょうか? そんな自転車があるのなら、使わないのはもったいない。自転車(サイクル)を再整備して活用するリサイクル。おやじギャグみたいですが、この機会に移動も楽しみつつ、山を楽しみませんか。まずはREサイクル(自転車に戻る)でチャリ登を始めてみませんか?
プロフィール
斉藤正史(さいとうまさふみ)
1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成した。日本国内でロングトレイル文化の普及に努め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行なっている。
自転車 × 登山
自転車と登山を組み合わせると、クルマや公共交通機関とはひと味違った風景が見えてきます。自転車のサドルにまたがって、あの山めざしてペダルを踏めば、新しい楽しみに出合えます。
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