良薬口に苦し。何回煎じても苦い薬草の話
すっかり秋も深まり、低山歩きのシーズンになりました。今回は、秋の低山(しかも晴れた日限定!)でしか見つけられない意外と有名な植物について、植物写真家の高橋修さんが教えてくれました。
古くから薬草として有名なセンブリは、今でも胃腸薬として使われている。薬草として利用するには、乾燥したセンブリの茎葉を煎じて飲む。センブリは全体に苦みが強い。煎じても、煎じてもなんと千回振り出しても、まだ苦いということでセンブリ(千振)と名付けられた。別名はトウヤク(当薬)。まさに薬であるという意味であろう。
名前は薬効ばかりが目につくが、花を詳しく観察するとこれもなかなかおもしろい。花びらは切れ込みが深く、5枚あるように見えるが、実は根本でくっついていて、ひとつの冠状になっている。5つに深く切れ込んでいるものが多いが、時々4つに分かれて見えるものもあり、このあたりはかなりいいかげんだ。
さらに花に近づいて細かく観察すると、花びらの根元付近に毛がたくさん生えており、その根元には黄緑色をした部分があるのに気が付くだろう。これは腺体と呼ばれる器官で、ここから蜜を出している。この毛は蜜を守るためのもののようだ。
センブリの花の観察は晴れた日に限る。曇った日にセンブリを探そうとしてもなかなか見つからない。センブリは晴れてお日様が当たらないと、花を開かないからだ。花が閉じてしまうと雑草に紛れて見つからない。天気がよいとセンブリの花は朝開き、夕方閉じる。このような花の動きはセンブリが属するリンドウ科の植物の特徴のひとつ。
センブリは海岸近くから低山まで、幅広い環境の日当たりのよい草地に生える。それほど珍しい植物ではないので、晴れた暖かい日に、低山歩きをしながら探してみるときっとセンブリが見つかるだろう。

プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。
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