このエントリーをはてなブックマークに追加

「春山」シーズン突入! 入山しやすくなる残雪期の「雪崩リスク」を考えよう

山の天気を知って安全に登山を楽しもう!
基礎知識 2020年03月06日

気象の世界では3月から5月までが春。長野県警の山岳安全対策課のように、4月からを「春山」として集計する場合もありますが、3月の山は「冬山」というよりも「春山」だと感じる場面が多くなります。ただ、まだ大量の雪が積もった雪山であることには変わりなく、雪崩のリスクがついてまわります。今回は、登山者を脅かす雪崩のリスクについて解説します。

 

入山しやすくなる春 注意点は


今年の冬は例年に比べて冬型の気圧配置が持続せず、冬なのに「冬らしくない天気」になることが少なくありませんでした。ただ、例年であれば1月や2月の厳冬期は日本海側の雪山は晴れる日数が少ないため、天候が比較的安定してくる3月以降に入山する登山者が増える傾向があります。

春山という言葉からは、冬山に比べて暖かく、環境も穏やかであるような印象を受けます。日没が日に日に遅くなって行動時間が長くなることや、雪がしまって歩きやすくなることも味方して、雪山を始めたばかりの初心者でも、より山の奥へと踏み込めるチャンスがやってきます。冬山に比べると、入山へのハードルが低いと感じられるでしょう。

ただし、3月はまだまだ積雪が増える可能性がある上、雪崩の発生シーズンであることを忘れてはいけません。国土交通省の資料によると、集落を対象とした雪崩は1月と2月の発生件数が最も多いものの、3月にもたびたび発生しています。人が住んでいないような険しい山地に範囲を広げれば、より多くの雪崩が発生していることが推察できます。

 

雪崩リスクが高まる条件


深く積もった雪は、よく観察すると地層のようにいくつもの層が積み重なってできています。この層の表面にあたる新雪部分が破壊されて流下するものを「表層雪崩」といい、地面の上に乗っている積雪の層がすべて破壊されてしまったものを「全層雪崩」といいます。

気温が上がる春先には、雪解け水や雨水が雪と地面の間に流れることで引き起こされる全層雪崩が多く発生しますが、古い積雪面の上に積もった新雪が崩れる表層雪崩も発生しています。

それでは、どのようなときに雪崩のリスクが高まるのでしょうか。気象庁の雪崩注意報の発表基準を参考にすると、市町村ごとに発表基準が異なることがありますが、雪崩リスクを高めるいくつかの要素が組み合わされていることがわかります。


各地の注意報・警報については、tenki.jpからも確認することができます。ただ、雪崩注意報は人が住む集落を対象としているので、険しい山岳では雪崩注意報の発表の有無にかかわらず雪崩に注意を払う必要があります。

今はウェブ上でも、山地の雪を含め直前に降った雪の量の解析値が公開されているため、上手く活用ですると良いでしょう。前24時間の降雪が30cmを超えてくると積雪が不安定になっている可能性が高いといわれていますので、ひとつの指標にしてみてください。

また、一度にたくさんの雪が降っていなくても、強い風が吹き続ければ雪が動いて局地的に積雪が深くなる可能性があります。このようにして積もった層が一枚の板のようになったものはウィンドスラブと呼ばれ、雪崩のリスクが高いことが知られています。

 

「春一番」からリスクの高い天気変化を知ろう

春一番が吹くような気象条件では、先ほど紹介した雪崩リスクを高める要素の多くを満たす確率が高くなるため特に注意が必要です。

どのような天気変化をたどるのか、具体的に見てみましょう。今年の2月22日は、低気圧が発達しながら日本海を進む典型的な気圧配置で、関東地方では春一番が吹きました。翌23日には発達した低気圧がオホーツク海に達し、日本付近は等圧線の間隔が狭い冬型の気圧配置になりました。北陸から北の日本海側では暴風雪になった所があります。この間の、山形県の月山や朝日連峰にほど近い大井沢の気温と積雪の深さの推移は次のようになっています。


関東で春一番が吹いた22日は東北南部にも暖気が流れ込み、大井沢の最高気温は9.4度を観測しました。昇温とともに雪が解けていることがわかります。

一方、冬型の気圧配置になった翌23日は寒気が流れ込んだ影響で日中も気温が上がらず、今度は新たに雪が積もりました。大井沢の観測点では23日の降雪量は25cmでしたが、山の上ではもっと多くの雪が降ったと推察できるため、入山は慎重になるべきです。

気温が急激に上がる
 →雨が降る
 →気温が急激に下がる
 →湿った雪面に新たな雪が降る


春一番が吹くような気圧配置になるときはこのような天気の経過をたどり、雪崩リスクが高まる場合が多いと考えられます。嵐が去った後もしばらくは不安定な状態が続く可能性があり、十分な注意が必要です。このように、ある程度は積雪の状態が不安定になると予想できるケースもありますが、深い層から崩れてしまう場合など、直近の天気からは雪崩のリスクが判断しづらいケースも存在しています。入山前には必ず雪崩に関する情報を確認するようにしてください。

 

日本の山
教えてくれた人

宮田雄一朗

日本気象協会所属の気象予報士。普段はtenki.jpの日直予報士として天気ニュースの記事も執筆。
山の空気が好きで1年を通してよく登る。予報士の視点から、登山中にちょっと役立つ知識をお届けしたいと考えている。

日本気象協会

日本の気象コンサルティングサービスのパイオニアとして1950年に創立。以来、気象・環境・防災などに関わる調査解析や情報提供を行っている。
近年ではAIやIoT、気象ビッグデータの活用を通じ気象の調査解析、情報提供の精度を向上させ、気候変動への適応など持続可能な世界を実現する活動を支援している。
 ⇒tenki.jp

同じテーマの記事
これから冬山登山に挑戦する方へ!安全に楽しむための天気のポイントを解説
冬山の知識はなかなか得ることができない一方で、遭難事件の恐ろしい話はたびたび耳にする。どうすれば雪の積もった山でも安全に登ることができるのか。山好きの気象予報士が、天気に焦点を絞って解説。
山頂で初日の出を見よう!天気の注目ポイントは?
関東の人気のご来光スポット・筑波山で、プレ初日の出ご来光登山に挑戦! 予想に反して拝めなかった理由を検証! 初日の出だ見られる条件を探る。
初日の出は山頂から見たい! ご来光登山を成功させるポイント
太陽は毎日欠かすことなく昇るものの、やはり1年の最初の日の出は特別な意味を持つものだ。元旦は山頂からの特別な朝を迎えてみては? ぜひ、ご来光登山の参考にしてみよう。
冬の山の特徴を知ろう! ベストシーズンとなる低山を登る際の注意点とは?
本格的な冬に向かうと、日本の山は日本海側を中心に、深い雪に包まれます。一方、太平洋側の標高の低い山は、好天に恵まれベストシーズンとなります。そんな太平洋側の低山を楽しむために知っておくべき、山岳気象情報をお伝えします。
記事一覧 ≫
最新の記事
記事一覧 ≫
こんにちは、ゲストさん
◆東京の天気予報[山域を変更]
明日

明後日

曇時々晴
(日本気象協会提供:2020年4月9日 17時00分発表)
[ログイン]
ユーザ登録・ログインすることで、山頂天気予報を見たり、登山履歴を登録・整理・分析して、確認できます。
NEW グレゴリーの中・大型ザック「スタウト&アンバー」モニター募集!
グレゴリーの中・大型ザック「スタウト&アンバー」モニター募集! 背面長が無段階に調整できる「スタウト&アンバー」がアップデートにより快適性が向上!モニター4名を募集します
NEW 好日山荘で聞いた! グレゴリーバックパックの選びかた
好日山荘で聞いた! グレゴリーバックパックの選びかた 銀座 好日山荘のスタッフに、グレゴリーの登山用ザックについて、それぞれの特徴を聞きました。ザック選びの参考に!
NEW 新しい「トレントシェル」をフィールドテスト
新しい「トレントシェル」をフィールドテスト パタゴニアの定番レインウェア「トレントシェル」が、3層生地で耐久性アップ! 山岳ガイド佐藤勇介さんがフィールドでテスト
NEW マウンテンハードウェアの最新ウェアを試す!
マウンテンハードウェアの最新ウェアを試す! 高橋庄太郎さんの「山MONO語り」。今回はアクティブインサレーション「コアシラスハイブリッドフーディ」をレポート
NEW 海を渡り、山に登ろう。いざ、島の山へ
海を渡り、山に登ろう。いざ、島の山へ 全国各地の島の山から6山を厳選して紹介! いざ、海を渡り、山へ。
登山は「下山」してからが楽しい!?
登山は「下山」してからが楽しい!? 登山後、すなわち下山後の楽しみの1つが山麓グルメ。ご当地名物料理から、鄙びた食堂の普通の料理まで、その楽しみ方を指南!
安全登山に向けて、これからの登山情報収集術
安全登山に向けて、これからの登山情報収集術 ITジャーナリスト、山岳ガイド、書籍の著者の方々に話を聞きながら、安全に山を登るための情報収集の方法について、改めて考え...
サクラ咲く山で花見登山! オススメ桜の名所の山
サクラ咲く山で花見登山! オススメ桜の名所の山 街でサクラが散るころに始まるサクラの花見登山。山の斜面をピンク色に染める、桜の名所の登山ポイントを紹介
花の季節の前奏曲、カタクリの花が咲く山へ
花の季節の前奏曲、カタクリの花が咲く山へ 種から7年目でようやく花咲く、春を告げる山の妖精――。ひたむきで美しいカタクリの群落がある山を紹介!
何度登っても魅力な秩父・奥武蔵の山
何度登っても魅力な秩父・奥武蔵の山 のどかな里山を囲むように山々が連なる、埼玉県南西部・秩父・奥武蔵の山々。
春、花に会いに低山へでかけませんか?
春、花に会いに低山へでかけませんか? 暖かくなって、春の芽吹きが始まります。風のさわやかな低山を歩き、春を感じてみましょう。春を告げる花があなたを待っています...
春~初夏にツツジがキレイな山
春~初夏にツツジがキレイな山 花数が多いうえに花も大振りで存在感がある山、ツツジ。一斉に咲くと、ピンク、赤紫、白などの色が山の斜面を染める。