「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」第2弾。笹薮の実踏調査など、トレイルづくりに参加した関係者の声

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北海道東部・屈斜路湖周辺に計画が進む「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」。3つの町が新たなトレイルづくりを進めていく様子、担当者の苦労を、ロングトレイルハイカーの齋藤正史さんが現地に赴き、関係者に取材しました。

 

「日本流ロングトレイル」は定着するか。屈斜路湖周辺3町の取り組みは?

僕がトレイルを歩くことを本業として活動を始めた2012年、 NPO法人を立ち上げ、友人たちの協力で、山形にトレイルを作る活動を始めた。創設メンバーはわずかに7名だった。当時は、トレイルという言葉も世間には知られておらず、創設メンバーのほとんどがトレイルに対する知識もなかった。僕が渡米すると活動は止まり、戻ってくると再開する、そんな状況だった。

初めての実踏調査。遠くに藻琴山が見える


『日経トレンディ』の2013年のヒット予測ランキングで「日本流ロングトレイル」が1位に選出されて以降、少しずつではあるがトレイルという言葉が世間に知られるようになってきたと思う。現在、日本にも数多くのトレイルができ始めているが、日本におけるトレイルの多くは、行政による補助金事業がベースとなって創設され、行政による大きな支えがあってオープンし、運営されている。

3町による「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」についてはどうだろうか?

前回書いたとおり、きっかけが、環境省による「国立公園満喫プロジェクト」によることは間違いない。しかし、3町による「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」の構想は、観光協会が主導となり発案された。特にトレイル創設を目的に大きな補助金等の活用がベースにあったわけではない。そう考えると、今までにあった行政主体の創設とも、僕が活動する有志の集まりとも違う、2つの中間にあるケースのトレイル活動になるのではないかと感じている。

新緑の中島を望む美幌峠


さて、2018年に美幌地区広域三町観光協議会で採択された「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」の構想は、大空町、津別町、美幌町の各役場と各観光協会から各1名、合計6名が協議会幹事のメンバーとなって進められることになる。まず、最初に行われたのは、①津別峠~美幌峠縦走現地調査だった。構想後初の現地調査になったものの、町民の参加はたった3名だったという。

 

「信越トレイル」の経験に基づく助言を参考に


以降、2018年は、協議会幹事メンバーが中心になり、①津別峠~美幌峠縦走現地調査 ②藻琴山現地調査 ③美幌峠自然学習会 ④信越トレイル視察研修 ⑤研修会 ⑥国立公園学習会 ⑦冬のトレイル学習会と続いていった。

①津別峠~美幌峠縦走現地調査では、国立公園地内での活動であるため、当初から環境省の職員の参加があった。以降、協議会幹事メンバーによる地道な関係各所への声掛けが続いた。活動は徐々に地域でも知られるようになり、町民や、国有林を管理する林野庁、地元で活動されるガイドや山岳会などが参加していく状況が生まれ、地元紙に取り上げられる機会が徐々に増えていった。

津別峠現地踏査の様子


また、「国立公園満喫プロジェクト」の関係もあり、北海道大学の特任教授で、信越トレイルの代表理事でもある木村さんに巡り合えたのも、大きなプラス要因だ。手探りの中で始まった「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」の構想の中で、信越トレイルの立ち上げから関わった木村さんの経験や、維持管理に関する苦労、専門分野である観光の視点でアプローチする木村さんの助言は、協議会の関係者が「トレイルは実現可能」と前向きに考えるきっかけになったはずだ。

木村さんが信越トレイル事務局とのパイプ役になり「④信越トレイル視察研修」が実現した。⑤の研修会では、木村さんが実際にトレイルの予定地を視察した上で話した講演が、参加した約100名の関係者および地域の人々に、トレイルを具体的に実現するという道筋をつけたのだ。

藻琴山調査に臨む


また、美幌観光物産協会事務局長の信太真人(しだ・まこと)さんに聞いたところ、木村さんのアテンドをし、多くの時間を木村さんと共有したことで、自分がトレイル構想の中心となり進めなくてはならないという気持ちが高まったのだ、と言っていた。ほかの協議会幹事メンバーのみなさんはどうだったのだろう。

カルデラ外輪山トレイル協議会幹事メンバーである、大空町役場の佐川さん、美幌町役場の多田さん、津別町役場の坂井さん、オホーツク大空町観光協会事務局長の丹治さん、津別町地域おこし協力隊の熊谷さんからアンケート形式でお話を聞いた。まずは、お約束の質問…。

「この活動に携わる前、トレイルのことを知っていましたか? どのような経緯でトレイル構想に加わることになったのでしょうか?」

答えはいずれも、担当する前はトレイルの事を知らず、加わった経緯も業務で担当となったからということだった。

美幌峠の白樺


各地のトレイルにおいても、創設期に関わられる方は、ほぼこのように、トレイルがどんなものかを知らずに加わることが多い。そして、トレイルのルートが確立し、運営へと活動がシフトしていくにしたがって、トレイルを知る人々が参加できる環境が生まれ、やがて運営や企画に関わる人が増えてくる――。行政が主導になって構築されることが多い現状では仕方のない現実ともいえる。

 

深い笹薮をかき分けて。ルート踏査は想像以上に困難だったが・・・

2018年の「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」の調査は、ルートの目印のピンクテープを付け、先頭を交代しながらでないと進まないほどの道なき道を進んでだという。深い笹藪をかき分けて、本来ルートとして地図に落とし込まれた位置を確認するのは非常に困難だったに違いない。そもそも道の形跡も踏み跡もないのだから。

初回踏査で美幌峠の笹薮を進む


こうして、トレイルの計画が進められていくにしたがって、業務として加わった方々の心情にも変化が生まれる。多田さん、佐川さん、丹治さんからは、「本当にトレイルはできるのだろうか?」「正直難しいのではないか?」といった意見があった。特に熊谷さんからは「ルート自体がこれほどの笹藪とは思わなかった・・・」という意見があり、机上で進められる構想と、実際に現地で体感する先の見えない作業とのギャップを感じたことが想像できる。

大空町佐川さん(左)と美幌町多田さん(右)


津別町の坂井さん(左)と津別町観光協会の熊谷さん(右)


それでも「トレイルを実現したい(熊谷さん)」、「滞在型としての新たな地域の魅力となるのではないか?(坂井さん)」という意見や、「トレイル実現は難しいとした中でも行政機関、民間企業、ボランティアの地域の力などをいかに結集するかが問題になるのではないか?(佐川さん)」といった、トレイル構想を進める上での具体的な意見が出てきた。

また、「当初難しいと感じたトレイル構想も、関係各所のご協力をいただき、調査研修を進めていく中で、屈斜路湖カルデラ外輪山トレイルが実現可能なのではないかと考えるようになった(丹治さん)」などの意見もあった。トレイルを計画するなかで、徐々に生まれてきたそれぞれの目標やトレイルに対する愛着や期待が、強く感じられた。

美幌峠から登る朝日


それは「完成後のトレイルにどのような形で加わりたいか? 」という僕からの質問に大きく反映されていた。坂井さんの「町としてできる支援を検討して関わっていきたい」という、行政としての立場からの意見のほか、佐川さんの「微力ながらボランティアとして応援したい」という担当職員という立場を超えての継続した意見や、「実際にルートを踏破し、その魅力を伝えたい(多田さん)」という心強い意見が見られたのだ。

美幌峠から見る雲海

次回は、協力者のインタビューと共に、屈斜路カルデラ外輪山トレイルの「未来」について考えたい。

プロフィール

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成した。日本国内でロングトレイル文化の普及に努め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行なっている。

NIPPONのロングトレイル ~「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」~

北海道に新たなロングトレイルのプロジェクト「屈斜路湖カルデラ外輪山トレイル」がスタートしました。国内外各地のロングトレイルを歩いてきた、ロングトレイルハイカーの齋藤正史さんが現地を視察。これから広がる新しいトレイルの構想について関係者を取材しました。この様子を3回に渡って紹介していきます。

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