那須岳とは1つのピークの名ではなく、栃木と福島の県境に連なる那須火山群一帯の総称で、那須連山とも那須連峰とも呼ばれる山域だ。
日本百名山にも数えられ、深田久弥は著書の中では「那須岳とは那須五岳の中枢を成す茶臼岳、朝日岳及び三本槍岳のこと」と定義している。ちなみに那須五岳とは、これら3山の他に南月山と黒尾谷岳を含んだ5つの山を指している。
一般的に那須岳といわれるのは、西斜面の噴気孔から白煙をあげる活火山の主峰・茶臼岳と言えるだろう。茶臼岳には9合目までロープウェイが通っているため、容易に山頂に立つことができ、多くの登山者や観光客が訪れる。
しかし那須岳の魅力は、茶臼岳だけでは語り尽くせない。さまざまな登山ルートを組み合わせて周辺の山々も歩いてみると、それぞれの個性豊かな山歩きが堪能できるだろう。列挙すると、茶臼岳では火山特有のガレ場歩きを、朝日岳では急峻な岩場登りを、三本槍岳では山頂からのパノラマ展望を存分に楽しめる。
さらに高山植物の花畑が稜線に広がる北側の稜線の流石山、茶臼岳の展望と湿原歩きを楽しむ南端の南月山など、日常では味わえないダイナミックな絶景が待っている。
那須岳登山の一般的な登山シーズンは、残雪が消える5月下旬から10月いっぱいだ。新緑や高山植物をはじめ、山が華やかに色づく紅葉の季節は圧倒的な美しさに息を呑む。冬期の雪山登山も人気だが、アイゼンなどしっかりとした装備が必須になる。
そして那須岳を語る上で忘れてはならないのが豊富に湧く温泉だ。麓には那須湯本温泉などの温泉がいくつもあり、それぞれを楽しみながらの登山は魅力タップリだ。また、山中にある三斗小屋温泉は風情のある秘湯として人気がある。
さらにファミリー登山をするなら、温泉以外に那須高原にあるレジャー施設もスケジュールに入れるといいだろう。
那須岳登山で最も一般的なのは、ロープウェイを使った主峰・茶臼岳山頂の往復が人気だが、登山者ならば茶臼岳から朝日岳、三本槍岳の主要3山を縦走するコースをぜひ踏破したい。所要時間は約6時間で日帰りもできるので、一日タップリ歩いて下山後にはのんびり麓の温泉も楽しみたい。
3山とも1900m前後の標高があり、最高峰は三本槍岳の1917mだ。稜線や山頂からは遮るもののない大パノラマを堪能でき、それぞれ山容の違いを楽しめる。
ちなみに、途中の峰ノ茶屋跡避難小屋は登山者で賑わう休憩ポイントだが、緊急避難用の場所のため水場やトイレなどはない。独立峰ゆえ風が強いことでも知られ、ロープウェイもしばしば休止になる。各山頂や避難小屋近辺などでも体ごと吹き飛ばされる強風が吹くこともあるので、無理せず十分注意して登ろう。
高低図
先に紹介したように、那須岳の魅力の1つが温泉だ。麓の温泉はもちろんのこと、山中の三斗小屋温泉はぜひとも訪れたい場所だ。vol.1の3山をめぐるコースに加えて、朝日岳の西側山腹標高1460mにある三斗小屋温泉に宿泊する一泊二日コースを紹介しよう。
三斗小屋温泉は那須温泉郷の1つとされる秘湯で、現在は煙草屋旅館と大黒屋という2軒の温泉宿が営業している。冬季は休業し、オープンは4月半ば頃よりとなる。
なお、ハイシーズンには早くから満室になることが多いので、早めに計画をしてしっかり予約をしておこう。ちなみに立ち寄り湯は現在営業をしていない。
また、三斗小屋温泉を楽しみたいという場合は、那須岳の西端、標高1230mにある沼ッ原湿原を出発し、緩やかな林道を進み、三斗小屋温泉に一泊するコースもオススメだ。沼ッ原湿原は約230種類もの植物が生育する高山植物の宝庫で、とくに6月下旬から7月中旬には湿原を黄色く染めるニッコウキスゲが有名だ。危険な山道はなく片道3時間ほどなので、山慣れしていない人を誘っての気軽なハイキングにもおすすめだ。
なお途中の三斗小屋宿跡は、江戸時代から昭和初期まで白湯山信仰という修験道の霊場として多くの参拝者で賑わった門前町の跡地だ。当時の石仏や塔碑が今も残されているので、想いを馳せながら散策しよう。
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那須岳の麓・那須湯本にある7つの温泉(鹿の湯、大丸温泉、北温泉、弁天温泉、高雄温泉、八幡温泉、新那須温泉)を前泊や後泊しながら、登山を楽しむコースもいい。
登山口は1300年の歴史があり那須温泉の元湯ともなった鹿の湯そばの箱根湯本温泉で、バス停や無料駐車場もすぐ近くにある。そこから那須湯本温泉神社、九尾の狐伝説にまつわる殺生石付近を過ぎて牛ヶ首に向かい、ロープウェイ山頂駅を経て、茶臼山山頂へと登ると往復7時間。行程は長いので、登山後は温泉でしっかり身体を癒やしたい。
ちなみに殺生石から牛ヶ首の道は、紅葉シーズンがとくに素晴らしいと評判高い。
前泊や後泊しながら登山を楽しむなら、このコース以外にも、弁天温泉や北温泉を起点にして歩くことも可能だ。さまざまな形で温泉&登山を楽しめるのが那須岳の魅力だ。
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那須岳は主峰に登るだけではなく、周辺の山歩きも楽しい。ここに紹介するコースでは、沼ッ原湿原の高山植物を愛でながら白煙を上げる茶臼岳の眺めつつ、白笹山そして信仰登山の山である南月山へと歩くという、バラエティに飛んだ山を堪能できる。
見所は、最高地点1786mの日の出平から見る茶臼山の豪快な姿だ。また植物散策を楽しむなら、日の出平はミネザクラの名所として名高く、白笹山では春から初夏にかけてシロヤシオやシャクナゲ、ミネザクラが美しい。
そして夏には南月山から日の出平沿いでコキンレイカやイワインチンが見頃になる。紅葉なら沼ッ原周辺のカラマツがおすすめだ。
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那須岳の北側にある裏那須と呼ばれる山域には、栃木・福島県境に美しい稜線が東西に伸びている。特に大峠付近では7月上旬から8月上旬にシモツケソウ、イワカガミ、ハクサンシャクナゲなどの花が咲き乱れ、流石山の斜面のニッコウキスゲの大群落も一見の価値がある。その光景は天空の稜線にある花畑といったところだろう。
また流石山と大倉山の尾根上に佇む五葉ノ泉やキスゲの小沼の眺めも格別だ。さらに三倉山の山頂からは、東西南北に那須連峰、日光連山、駒・朝日山群、飯豊連峰と、ぐるりとパノラマの眺望が望める。茶臼岳付近の喧騒から離れて、静かな山歩きを楽しみたい人におすすめだ。
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