いつかは、そして何度でも。憧れの槍ヶ岳、主要コース5選

天狗池に映る逆さ槍(写真:一本の矢さんの登山記録より)
文/鈴木志野
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槍沢、表銀座、裏銀座、大キレット、飛騨沢。日本のマッターホルン・槍ヶ岳をめざす主要ルート5選

標高3180m、日本で5番目に高い山、槍ヶ岳。穂先と呼ばれる鋭く尖った山頂をもち、北アルプスの中でもひときわ存在感を放つランドマークだ。誰もが登頂を憧れるその頂からは、稜線でつながる穂高連峰をはじめ、笠ヶ岳や常念岳、富士山など日本百名山の30座以上を望める。

開山は江戸後期の1828年。浄土宗の僧侶・播隆によって行われ、新田次郎も小説『槍ヶ岳開山』に描いている。さらに『単独行』で知られる加藤文太郎、壮絶な遺稿『風雪のビヴァーク』を残した松濤明といった名クライマーたちが北鎌尾根で命を落とすなど、登山史上に残るドラマの舞台でもある。

槍ヶ岳山荘と槍の穂先(写真:Keさんの登山記録より)

槍ヶ岳はかつて巨大カルデラが隆起・侵食を繰り返し、氷河によって削られたことで、現在の荒々しい岩石の姿になったという。槍ヶ岳を望む展望スポットとして知られる天狗岳カールは別名・氷河公園と呼ばれ、山頂は急峻なニードル(氷蝕尖峰)の地形をなしている。

穂先より穂高への縦走路を望む(写真:alpine_6dさんの登山記録より)

槍ヶ岳は北アルプスの縦走登山者にとって要衝で、北・東・西には鎌尾根という名前のついた尾根が延び、南は穂高連峰へ通じる3000mの主稜線が続く。今回紹介するルートは、槍沢、表銀座、裏銀座、大キレット、飛騨沢の5つで、経験や体力、技術に応じて幅広い層が楽しめるルートが揃う。なおバリエーションルートとして北鎌尾根もあるが、登山道がなく岩登りの技術がなければ立ち入れない上級者向きのルートなので、今回は紹介を割愛する。

槍に直行! 槍デビューにおすすめの槍沢ルート

主要ルートのうち、もっとも初心者向けの2泊3日のルート、槍沢。広々とした河原の梓川の流れ、氷河地形のU字谷と残雪のカール、美しく咲く高山植物、グリーンバンドと呼ばれるモレーンからの槍ヶ岳の眺めなど、胸踊るアルペンムードに満ちたコースを進んでいく。

グリーンバンド付近から穂先(写真:ムラチャンさんの登山記録より)

1日目は観光地としても人気の上高地をスタートし、梓川沿いを進み、ソフトクリームが人気の徳澤園のある徳沢〜横尾〜一ノ俣、そして横尾尾根上のババ平にある槍沢ロッヂへ。槍沢ロッヂは風呂を利用できることでも人気だ。2日目は山頂を目指し、天狗原分岐〜山頂直下の槍ヶ岳山荘へ進み、穂先を往復1時間で登頂する。最終日3日目は往路を一日で下山する。

1日目の泊まりは槍沢ロッヂとしているが、上高地から約5時間かかるため、出発が遅れるようなら横尾泊まりが懸命だ。槍の穂先の往復はハシゴやクサリが続き、雨天時などは滑りやすく危険なので、初心者はとくに無理は禁物。荷物は槍ヶ岳山荘にデポしよう。

穂先はハシゴやクサリ場があり、混雑時には行列もできる(写真:ちょびすけさんの登山記録より)

行程・コース

【1日目】上高地から槍沢ロッヂヘ
■総コースタイム 4時間45分、標高差+472m、-158m
上高地バスターミナル(08:00)・・・河童橋(08:05)・・・明神(08:55)・・・徳沢(09:55)・・・横尾(11:05)・・・一ノ俣(12:05)・・・槍沢ロッヂ(12:45)
【2日目】槍沢ロッヂから槍ヶ岳を登頂
■総コースタイム 5時間30分、標高差+1342m、-84m
槍沢ロッヂ(07:00)・・・ババ平(07:30)・・・水俣乗越分岐(08:00)・・・天狗原分岐(08:50)・・・グリーンバンド(09:50)・・・槍ヶ岳殺生ヒュッテ(10:30)・・・槍ヶ岳山荘(11:30)・・・槍ヶ岳(12:00)・・・槍ヶ岳山荘(12:30)
【3日目】槍ヶ岳山荘から槍沢経由で上高地へ下山
■総コースタイム 7時間20分、標高差+188m、-1760m
槍ヶ岳山荘(07:00)・・・槍ヶ岳殺生ヒュッテ(07:30)・・・グリーンバンド(08:00)・・・天狗原分岐(08:40)・・・水俣乗越分岐(09:15)・・・ババ平(09:35)・・・槍沢ロッヂ(09:55)・・・一ノ俣(10:25)・・・横尾(11:15)・・・徳沢(12:25)・・・明神(13:25)・・・河童橋(14:15)・・・上高地バスターミナル(14:20)

高低図

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| 槍ヶ岳山荘

2024年の営業は4/27~。宿泊は要予約。予約は宿泊予定日一ヶ月前の朝9時から受付

賑わう一番人気の縦走路、表銀座ルート

燕岳、大天井岳、西岳、槍ヶ岳を結ぶ縦走路で、後半に東鎌尾根を進む3泊4日のルート。表銀座またはアルプス銀座と呼ばれる。近代登山の黎明期に山案内人として活躍した猟師・小林喜作が1920年に開いた道で喜作新道とも呼ばれ、北アルプスでも指折りの雲上トレイルが楽しめる。vol.3で紹介する裏銀座と比べて一日の歩行時間が短く、高山植物の花畑やアルプスの大展望を満喫しながら縦走歩きを楽しめる。

ヒュッテ西岳から槍ヶ岳(写真:マツタロウさんの登山記録より)

1日目は中房・燕岳登山口〜売店のみ営業の合戦小屋を経て燕山荘へ。まずは燕岳山頂を往復しよう。2日目は稜線で迎えるご来光を拝み、大天井ヒュッテを目指し出発。常念岳と槍ヶ岳の間にある抜群の展望地、ヒュッテ西岳に宿泊する。大キレットからせり上がる北穂高岳がとくに迫力満点だ。3日目は東鎌尾根をたどり、槍ヶ岳に登頂。4日目は槍沢を下り、上高地に下山する。

東鎌尾根のハシゴ(写真:まさ10さんの登山記録より)

体力があれば、中房・燕岳登山口~大天荘(泊)~槍ヶ岳山荘(泊)~槍沢~上高地で2泊3日も可能だ。
稜線上は森林限界を超えた歩きになるので、悪天時や夏場の午後に発生する雷に気をつけ、場合によっては手前の小屋に泊まるなど余裕をもった行動を取ろう。

行程・コース

【1日目】燕岳登山口から稜線へ
■総コースタイム 5時間、標高差+1391m、-142m
中房・燕岳登山口(08:00)・・・第2ベンチ(09:10)・・・合戦小屋(11:00)・・・燕山荘(12:05)・・・燕岳(12:35)・・・燕山荘(13:00)
【2日目】喜作新道を縦走してヒュッテ西岳へ
■総コースタイム 5時間30分、標高差+694m、-716m
燕山荘(07:00)・・・大下りの頭(07:55)・・・切通岩(09:10)・・・大天井ヒュッテ(09:50)・・・ヒュッテ西岳(12:30)
【3日目】東鎌尾根をたどって槍ヶ岳に登頂
■総コースタイム 4時間40分、標高差+744m、-340m
ヒュッテ西岳(07:00)・・・水俣乗越(08:00)・・・ヒュッテ大槍(10:00)・・・槍ヶ岳山荘(10:40)・・・槍ヶ岳(11:10)・・・槍ヶ岳山荘(11:40)
【4日目】槍沢を下り上高地へ下山
■総コースタイム 7時間20分、標高差+188m、-1760m
槍ヶ岳山荘(07:00)・・・槍ヶ岳殺生ヒュッテ(07:30)・・・グリーンバンド(08:00)・・・天狗原分岐(08:40)・・・水俣乗越分岐(09:15)・・・ババ平(09:35)・・・槍沢ロッヂ(09:55)・・・一ノ俣(10:25)・・・横尾(11:15)・・・徳沢(12:25)・・・明神(13:25)・・・河童橋(14:15)・・・上高地バスターミナル(14:20)

高低図

10ピーク以上を踏破! ロングトレイルの裏銀座ルート

烏帽子岳から双六岳へ向かい、西鎌尾根を経て槍ヶ岳に向かう、総延長50kmにも及ぶ前夜泊3泊4日のルート。鷲羽岳や三俣蓮華岳など北ア最深部を通過し、10以上のピークを歩く北ア屈指のロングトレイルだ。槍ヶ岳をめざす縦走路の中でもっとも距離が長く、登山者が少ないので静かな山歩きを楽しめる。ロングコースだが、山小屋が随所にあり、危険箇所も少ないので比較的挑戦しやすい。

野口五郎岳より縦走路。左手に槍ヶ岳が見える

1日目は高瀬ダムから北アルプス三大急登のブナ立尾根を登り、烏帽子岳へ。2日目は烏帽子岳〜野口五郎岳〜水晶小屋〜水晶岳(黒岳)〜鷲羽岳〜三俣山荘へ。3日目は三俣山荘〜最深部の三俣蓮華岳〜双六小屋、そして西鎌尾根に入り、いよいよ槍ヶ岳へ。双六小屋から槍ヶ岳までがこのルートのハイライトで、尾根上部にはヤセ尾根やクサリ場もあるので慎重に通過したい。4日目は槍沢ルートを上高地に下山するか、飛騨沢ルートを新穂高温泉に下山する。

シーズンは梅雨明けから各山小屋が閉じ始める9月下旬までで、ベストシーズンは天候の安定する梅雨明け直後。連日10時間近いコースタイムが続く体力勝負のルートなので、さらに1泊するなど予備日も設けるのも安心だ。

行程・コース

【1日目】高瀬ダムから烏帽子岳へ
■総コースタイム 7時間40分、標高差+1654m、-403m
高瀬ダム(08:00)・・・ブナ立尾根登山口(08:40)・・・三角点(12:40)・・・烏帽子小屋(14:10)・・・山頂分岐(14:40)・・・烏帽子岳(15:00)・・・山頂分岐(15:10)・・・烏帽子小屋(15:40)
【2日目】烏帽子小屋から野口五郎岳・鷲羽岳を経て三俣山荘へ
■総コースタイム 9時間55分、標高差+1083m、-1075m
烏帽子小屋(07:00)・・・三ッ岳北峰(08:30)・・・野口五郎小屋(10:10)・・・竹村新道分岐(11:00)・・・東沢乗越(12:00)・・・水晶小屋(13:00)・・・水晶岳(黒岳)(13:40)・・・ワリモ北分岐(14:53)・・・鷲羽岳(16:03)・・・三俣山荘(16:53)
【3日目】三俣山荘から双六岳、西鎌尾根を経由して槍ヶ岳へ
■総コースタイム 9時間10分、標高差+1299m、-783m
三俣山荘(07:00)・・・三俣蓮華岳(07:50)・・・双六岳(09:20)・・・双六小屋(10:00)・・・硫黄乗越(11:10)・・・千丈沢乗越(13:40)・・・槍ヶ岳山荘(15:10)・・・槍ヶ岳(15:40)・・・槍ヶ岳山荘(16:10)
【4日目】槍ヶ岳から上高地に下山
■総コースタイム 7時間20分、標高差+188m、-1760m
槍ヶ岳山荘(07:00)・・・槍ヶ岳殺生ヒュッテ(07:30)・・・グリーンバンド(08:00)・・・天狗原分岐(08:40)・・・水俣乗越分岐(09:15)・・・ババ平(09:35)・・・槍沢ロッヂ(09:55)・・・一ノ俣(10:25)・・・横尾(11:15)・・・徳沢(12:25)・・・明神(13:25)・・・河童橋(14:15)・・・上高地バスターミナル(14:20)

高低図

3000m級の峰を縦走し北ア最難所を踏破する、大キレットルート

槍ヶ岳から穂高連峰への縦走は、大喰岳、中岳、南岳、北穂高岳の3000m級の岩稜帯が続く国内第一級の縦走路。ルート前半の南岳までは長くゆったりとしたコースだが、後半の南岳から北穂高岳の間には、北アの最難所といわれる大キレットが待ち構えている。キレットとは漢字で「切戸」と書き、急峻な稜線が深く切れ落ちた地形のこと。上級者向けで険しく、とくに長谷川ピーク〜滝谷展望台付近が最大の難所になっている。

北穂高側より大キレット(写真:alpine_6dさんの登山記録より)

1日目は10時間のロングタイム。上高地を出発し、槍沢コースを使い、一気に槍ヶ岳山荘に進み、槍ヶ岳に登頂する。2日目はいよいよ大キレットへ。槍ヶ岳〜南岳〜大キレットを越えて北穂高岳へ。3日目は北穂高〜涸沢を経由して上高地に下山する。

大キレットはハシゴやクサリ、手すり、足場の設置など整備がされているが、滑落や落石などで毎年遭難事項が起きている。最低限の岩場歩きの経験は必要だ。通過にはヘルメットなどの安全対策は必須、さらに緊張感が持続できずに道迷いなども起こりやすいので注意したい。

行程・コース

【1日目】上高地から槍ヶ岳へ
■総コースタイム 10時間15分、標高差+1814m、-242m
上高地バスターミナル(06:00)・・・河童橋(06:05)・・・明神(06:55)・・・徳沢(07:55)・・・横尾(09:05)・・・一ノ俣(10:05)・・・槍沢ロッヂ(10:45)・・・ババ平(11:15)・・・水俣乗越分岐(11:45)・・・天狗原分岐(12:35)・・・グリーンバンド(13:35)・・・槍ヶ岳殺生ヒュッテ(14:15)・・・槍ヶ岳山荘(15:15)・・・槍ヶ岳(15:45)・・・槍ヶ岳山荘(16:15)
【2日目】槍ヶ岳から南岳、大キレットを越えて北穂高岳へ
■総コースタイム 5時間55分、標高差+558、-607m
槍ヶ岳山荘(07:00)・・・中岳(08:15)・・・天狗原稜線分岐(09:05)・・・南岳小屋(09:25)・・・A沢のコル(11:25)・・・北穂高岳(12:55)
【3日目】北穂高岳から涸沢を経由して上高地に下山
■総コースタイム 7時間5分、標高差+201m、-1747m
北穂高岳(07:00)・・・南稜テラス(07:30)・・・南稜取付(07:55)・・・涸沢(09:00)・・・本谷橋(10:10)・・・横尾(11:00)・・・徳沢(12:10)・・・明神(13:10)・・・河童橋(14:00)・・・上高地バスターミナル(14:05)

高低図

奥飛騨・新穂高からの最短コース 飛騨沢ルート

奥飛騨の新穂高温泉をスタート地点とする飛騨沢ルートは、槍ヶ岳への最短コース。稜線に出る最後の急登以外は比較的ゆるやかで、槍ヶ岳を直接めざすのに槍沢ルートとともにおすすめだ。登山者が少ないことも魅力で、静かな山の雰囲気を楽しみたい人にもぴったり。森林限界を超えた飛騨沢上部にはお花畑があり、疲れた足取りを癒してくれる。

飛騨乗越への登り(写真:yhashiraさんの登山記録より)

1日目は新穂高温泉を出発し、蒲田川の右俣林道をつめ、槍平小屋に到着する。2日目は槍平小屋〜飛騨沢経由で槍ヶ岳に登る。3日目は往路を一日で下る。

なお、蒲田川の右俣は稜線からの5本の支流が流れ込むため、増水時は通行できなくなる。また槍ヶ岳山荘は3000mを超える高所にあるため、一気に登ると高山病になる危険がある。高所に弱い人は槍平小屋に滞在し、軽い荷物で槍ヶ岳往復をするといいだろう。

行程・コース

【1日目】新穂高温泉から蒲田川右俣を槍平小屋へ
■総コースタイム 4時間25分、標高差+945m、-49m
新穂高温泉駅(08:00)・・・穂高平小屋(08:45)・・・奥穂高岳登山口(09:55)・・・滝谷出合(11:25)・・・槍平小屋(12:25)
【2日目】槍平小屋から飛騨沢経由で槍ヶ岳へ
■総コースタイム 5時間40分、標高差+1191m、-102m
槍平小屋(07:00)・・・千丈沢乗越分岐(09:20)・・・槍ヶ岳山荘(11:40)・・・槍ヶ岳(12:10)・・・槍ヶ岳山荘(12:40)
【3日目】槍ヶ岳山荘から新穂高温泉へ
■総コースタイム 6時間20分、標高差+93m、-2082m
槍ヶ岳山荘(07:00)・・・千丈沢乗越分岐(08:25)・・・槍平小屋(09:55)・・・滝谷出合(10:35)・・・奥穂高岳登山口(11:55)・・・穂高平小屋(12:45)・・・新穂高温泉駅(13:20)

高低図