本州の主要な山域の一つとして、多くの登山者から親しまれる八ヶ岳。山梨と長野の県境に南北30㎞、東西15㎞にわたって広がり、火山による形成年代の違いから、夏沢峠を境にして南八ヶ岳と北八ヶ岳に区分される。
それぞれの特徴を簡単に説明すると、南八ヶ岳は標高2899mの主峰・赤岳をはじめとし、峻険で岩場からなるアルペン的な峰々の縦走を楽しむややレベルの高いコースが多いのに対し、北八ヶ岳は針葉樹と苔の原生林に包まれ、さらに山上湖や草原が点在するおだやかな景色が広がっている。
このように一口に八ヶ岳といってもその表情は様々で、コース取り次第で登山レベルをやさしくも難しくもでき、日程も柔軟に組み立てやすい。首都圏や名古屋方面からのアクセスがよく、個性豊かな山小屋も充実しているので、低山ハイクからレベルアップしたい人や山小屋泊デビューにも最適だ。
そこで今回は、初心者でも楽しめる日帰りもしくは1泊2日の八ヶ岳初級の6コースを紹介する。
八ヶ岳を南北に分ける夏沢峠の南に位置する硫黄岳。爆裂火口となだらかな山腹という対照的な景色が広がり、コマクサや天然記念物のキバナシャクナゲの群生も楽しめる。桜平から入山し、硫黄岳と南八ヶ岳の8峰にも数えられる峰ノ松目を結ぶ縦走路は主稜線まで難所や急登がなく、南八ヶ岳の入門コースとしておすすめだ。
1日目のスタートは南八ヶ岳の主要登山口では最も標高が高い1900m地点にある桜平。ここから秘湯の夏沢鉱泉を経て、オーレン小屋に一泊する。2日目は、主稜線の夏沢峠を経て標高2760mの硫黄岳、2568mの峰ノ松目と進み、下山は往路を戻る。峰ノ松目山頂は眺望は得られないが、硫黄岳山頂からは横岳や赤岳、阿弥陀岳、中岳、権現岳、編笠山、さらに南・中央アルプス、御嶽山、北アルプス、北八ヶ岳、浅間山、奥秩父と全方向に展望が可能だ。
コースタイムは1日目が1時間15分、2日目が4時間20分。
高低図
八ヶ岳最南端にある標高2403mの編笠山は、山裾を長く引いた優美な山容が編笠を伏せたように見えるところからその名がついた。ハイマツの限界域で多くの岩塊からなる山頂からは、権現岳、赤岳、阿弥陀岳、南アルプスの甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山、さらに富士山の大パノラマを満喫できる。宿泊地となる青年小屋付近ではヤナギランやグンナイフウロなどの可憐な花を楽しめる。
編笠山に登るコースは、同じく山頂からの大展望を望める西岳から縦走する1泊2日の周回ルートが人気だ。登山口は富士見高原で、まずは西岳を目指し、青年小屋で一泊する。翌日は編笠山に登頂し、富士見高原に下山する。なおこのルートには不動清水や盃流し、石小屋など山岳信仰の面影を伝える史跡が点在し、見所のひとつにあげられる。
所要時間は1日目が4時間20分、2日目が3時間30分。日帰りの場合は観音平から編笠山の往復ルートもおすすめだ。
高低図
八ヶ岳で唯一、活火山に認定されている北横岳。有史以来の活動はないが、地形に特徴を残している。正式名称は横岳だが、南八ヶ岳にある横岳と区別するために、北横岳と呼ばれている。山容はその名の通り横幅の広い大きな山で、周辺には七ツ池をはじめとした池が点在し、山頂からの素晴らしい展望と合わせて山上池をめぐるコースが人気だ。
1日目は北八ヶ岳ロープウェイで山頂駅へ。そこから溶岩台地の坪庭の散策路を進み、さらに北横岳への登山道を取り、北横岳ヒュッテを目指す。七ツ池はヒュッテから往復7〜8分と近い。2日目はいよいよ標高2480mの北横岳山頂へ。南八ヶ岳や南・中央アルプス、蓼科山、御嶽山、北アルプス、浅間山、奥秩父、そして眼下に七ツ池と抜群の展望を楽しみたい。下山は亀甲池、双子池、雨池峠を経て、山頂駅に戻る。
コースタイムは1日目が1時間、2日目が5時間15分。日帰りの計画なら山頂駅から北横岳までの往復が初心者向きで、1時間台で登頂が可能だ。
高低図
縞枯とは、偏西風や台風による強風や火山岩質の影響で、主に針葉樹のシラビソが山腹に横縞模様を描くように集団で生え変わる自然現象のことをいう。北八ヶ岳を代表するピークの縞枯山も、この現象からその名がついた。北八ヶ岳ロープウェイの山頂駅を挟んで北横岳の南西にあり、ロープウェイを使って日帰りでアクセスできる。
ここでは縞枯山のすぐ南に接する茶臼山へ縦走する北八ヶ岳入門に適したルートを紹介する。まずは山頂駅から溶岩台地の坪庭を経由し、縞枯山荘の立つ八丁平の草原を通り、雨池峠へ。さらに進むと標高2403mの縞枯山山頂に到着する。下山は茶臼山、大石峠、出逢ノ辻と進み、五辻を経て山頂駅に戻る。
歩行時間は4時間5分。日程に余裕があるなら青い三角屋根が趣ある縞枯山荘に一泊するのもおすすめだ。
高低図
八ヶ岳の北端に位置する標高2531mの蓼科山。別名で女ノ神山または諏訪富士と呼ばれ、美しい円錐形の姿を見せている。その特徴的な山容は成層火山の上に鐘状火山が噴出したもので、眺望抜群の山頂にはゴツゴツした溶岩からなる火口跡が広がっている。
1日目は、蓼科牧場のゴンドラリフトの御泉水自然園駅から登山口のある七合目へ。登山口の目印にもなっている蓼科神社の一ノ鳥居をくぐり山道を進むと、蓼科山荘の立つ将軍平に到着する。ここから急登になり蓼科山頂ヒュッテを過ぎ、直径約150mの火口跡を望みながら進むと山頂に至る。山頂からは南八ヶ岳や南アルプスの展望が素晴らしい。2日目は南麓の蓼科山登山口に下山する。
歩行時間は1日目は約2時間20分、2日目は2時間10分。マイカー登山なら蓼科山七合目もしくは蓼科山登山口からの往復が定番だ。
高低図
八ヶ岳主稜線の中山峠付近から北東に連なり、南に張り出すように突き出した岩峰のにゅう。すぐ隣には稲子岳が並び、八ヶ岳では珍しい二重稜線が見られる。一風変わったその名の由来は、山容からイメージされる「乳」や円錐・円筒形に積み上げられた稲わらを「にう」と呼ぶところから来ている。
おすすめのコースは、にゅうの展望を愛でつつ美しい山上湖を楽しむルート。出発は笹原が広がる麦草峠。そこから丸山を経て、北八ヶ岳の展望台といわれる高見石へ。ここから白駒池を見下ろすことができる。さらに中山、にゅう分岐を経て、いよいよ標高2352mの山頂に到着する。山頂からは北八ヶ岳の深い森や白駒池を見下ろしつつ、その向こうに茶臼山や縞枯山、さらに南に硫黄岳や富士山を望む。
下山は白駒湿原、白駒池を経て麦草峠に戻る。
コースタイムは日帰りで5時間10分。高見石小屋に泊まって1泊2日にしてもいいだろう。
高低図