国内第3位の標高を誇る奥穂高岳(3190m)を主峰とし、北アルプスの南部に3000m級の峰々を連ねる穂高連峰。切り立った岩稜地形は今から176万年前の火山活動による溶結凝灰岩の岩盤が隆起したもので、主稜線の東側斜面には氷河期の名残であるカールやU字谷が発達している。さらに周辺にはお花畑が美しい多重稜線や周氷河地形の構造土も見られる。
険しい岩稜のため登山難易度が高く、稜線ではヘルメットは必携。一定以上の登山経験や技術・体力が不可欠だ。
「日本アルプス」の由来は明治期に明神岳に初登頂した英国人技師のW・ガウランドの発言による。また前穂高岳に登頂し日本山岳会の発足に尽力した英国人宣教師W・ウェストンによって『日本アルプス・登山と探検』が上梓されると、その名が一気に日本中に広まった。ウェストンは日本近代登山の父と呼ばれ、穂高連峰から日本近代登山が始まったともいわれている。
約2000mまでの森林帯にはカモシカやツキノワグマ、オコジョ、テン、ニホンザルなどが、それ以上の標高のハイマツ帯には特別天然記念物のライチョウやホシガラスが生息している。初夏にはあちこちでお花畑が美しく、9月下旬~10月上旬の紅葉の時期にはナナカマドやダケカンバが色づきカールを彩り、10月中旬にはブナやカエデが山肌を染める。
長野県安曇野市にある穂高神社の御神体は穂高連峰で、日本アルプスの総鎮守だ。上高地明神池湖畔に祀られる奥宮と奥穂高岳山頂に祀られる嶺宮とともに参拝したい。
また、現在発売中の『山と溪谷』7月号の特集は「槍・穂高大全」。ここで紹介するコース以外のコースや情報もたっぷり掲載されている。さらに、付録には詳細登山地図もついてくるので、ぜひチェックしよう!
富士山と北岳に次ぐ国内第3位の高峰を誇る標高3190mの奥穂高岳。奥穂高岳へのルートは複数あるが、多くは3000mの岩稜を行く険しい縦走コースのため、岩稜歩きの経験が浅い場合はこの前夜泊2泊3日の涸沢経由がおすすめだ。
ルートは、上高地バスターミナルを出発し、河童橋、明神、徳沢、横尾へ。横尾は槍ヶ岳と穂高連峰、蝶ヶ岳への分岐で、ここから本格的な登山道になり、氷河地形が現れる。
次にベースとなる日本有数のテント場、涸沢へ。涸沢は穂高連峰に囲まれた日本最大規模のカールの底にあり、モレーンやお花畑などアルペンムード満載だ。
翌朝は日の出とともに穂高連峰が赤く染まるモルゲンロートを堪能し、ザイテングラートを進む。穂高岳山荘で一休みした後、クサリやハシゴのある最大の難所を越え、穂高神社嶺宮が祀られる奥穂高山頂へ到着。ジャンダルムや笠ヶ岳、涸沢岳、北穂高岳、槍ヶ岳、さらに常念岳や蝶ヶ岳の稜線、浅間山や富士山など360度の大パノラマを楽しもう。登頂後は涸沢に戻り、翌日は初日のコースを戻る。
高低図
3000m級の4座をめぐる険しい岩稜の大縦走路で、とくに北穂高岳から涸沢岳にかけて厳しい道が続く。そのためこのコースに挑むなら、奥穂高岳や北穂高岳を登頂した経験が必要で、岩場歩きを不安なくこなせることが絶対条件になる。難所にはクサリやハシゴが整備されているものの、足元からすっぱり切れ落ちた岩場では滑落や落石など、あらゆる注意を払いながら進もう。
行程は前夜泊2泊3日。1日目は上高地バスターミナルから横尾、涸沢へ。
2日目は稜線を回るコースで、南稜取付、北穂高岳山頂、涸沢のコル、涸沢岳を経て、穂高岳山荘に到着する。途中いくつも岩場やクサリ、ハシゴを通過するが、シーズンには順番待ちで混雑することも多く、急がず安全第一で進みたい。
3日目は日の出とともに奥穂高岳を目指し、紀美子平から前穂高山頂へ。前穂高の山頂は穂高連峰唯一の一等三角点で抜群の展望を望める。その後は穂高山荘を創建した今田重太郎がひらいた重太郎新道をクサリやハシゴを頼りに進み、岳沢パノラマ、岳沢小屋、岳沢風穴を経て、上高地バスターミナルに下山する。
高低図
標高2909mの西穂高岳は穂高連峰の中では標高こそ低いが、岩峰が連なる稜線をもち、穂高連峰の一翼を担っている。本コースは2156mの西穂高口まで新穂高ロープウェイを使って上る比較的難易度低めのルートで、日帰りで訪れるビギナーの姿も多い。だが西穂高岳山頂へは岩稜帯のアップダウンが続く険しい稜線歩きで、森林限界も超えているため天候への注意も必要。わずかな気の緩みが大事故につながるので十分に気をつけたい。岩稜歩きに不安があれば、独標までの往復にしよう。
ルートは1泊2日。1日目は新穂高温泉をスタートし、ロープウェイで新穂高口駅へ。そこから千石園地、千石尾根、西穂山荘へ。西穂山荘は北アルプス南部で唯一通年営業している山小屋だ。
2日目は西穂高独標山頂から西穂山頂へ進み、往路を戻る。西穂高岳までは大小13ものピークが続く岩場の稜線歩きで、岩峰には目安になる番号が書かれている(ちなみに独標は11峰、ピラミッドピークは8峰、チャンピオンピークは4峰など)。
高低図
今回紹介する6コースのうち最も難易度が低いのが、この標高2444mの焼岳コース。上高地からは山頂部から水蒸気が上がる焼岳の姿を見ることができるが、焼岳は北アルプスの代表的な活火山。最後に噴火したのは1962年で、1990年に登山規制が一部解除になったが、山頂付近は危険地域で火口湖や南峰、噴気孔付近は立ち入り禁止が続いている。気象庁の噴火警戒レベルが運用されているので、入山前にはHPなどで最新状況を確認しておこう。
コースは前夜泊日帰り。上高地バスターミナルから田代橋、焼岳登山口へ。左手に峠沢を見ながら進み、冬場には撤去されるアルミ製ハシゴを過ぎると、やがて焼岳小屋へ。
そこからは鞍部の中尾峠を通過し、焼岳北峰山頂へと到着する。山頂からは笠ヶ岳や穂高連峰、乗鞍岳、足元には火口湖の正賀池や火口壁が見える。高台をひと登りすると展望台に出て、山頂ドームの迫力ある姿を見ることができる。下山はりんどう平を経て、中の湯バス停へ。
高低図
3泊4日の本コースは、国内第一級の上級者向け。前半の南岳までは長大でゆったりしたコースだが、後半の南岳から北穂高岳間は大キレットと呼ばれる岩場が連続する険しいルート。とくに長谷川ピークから滝谷展望台付近は最大の難所だ。クサリやハシゴ、ステップなどの整備はあるが、毎年のように遭難事故は起きている。岩場経験はもちろん、槍ヶ岳の往復経験も最低限必要だ。
1日目は上高地バスターミナルをスタートし、徳沢、横尾へ。2日目は槍沢を経て、槍の肩へ。槍ヶ岳山荘に荷物を置いて、槍ヶ岳を往復しよう。
3日目は槍ヶ岳を後にし、中岳山頂、天狗原稜線、南岳小屋へ。この先からいいよ大キレットが始まる。いくつもの急峻なクサリやハシゴを下りつつ大キレット最低鞍部へ向かい、やがて長谷川ピークへ。さらに大キレットの核心部、A沢のコルを経て、最大の難所の飛騨泣き、そして滝谷展望台へ。その後、北穂高岳北峰山頂に到着する。
4日目は北穂高岳から涸沢方面に下り、上高地へと下山する。
高低図
技術度、体力度ともに最上級の熟練者向けの本コース。西穂高岳と奥穂高岳を結ぶ稜線はまるでノコギリの歯のように険しく、難しい岩場の多い穂高の岩稜線の中でも最も長大で厳しい。
このコースは必要最低限の整備しかされておらず、他のコースならクサリやハシゴがあって当然な場所でも自然のままの状態。基本的にはクライミング並みの技術が必要なコースと捉えよう。この国内最難関縦走路に挑むには、大キレット越えや北穂高岳から涸沢岳間の縦走を経験し、かつ不安なくこなせる登山力量が不可欠だ。
高低図