和泉山脈・紀泉アルプス、紀伊半島で楽しむ低山歩き。大阪と和歌山を隔てる山々

紀泉アルプス内の展望台から望む大阪湾。
手前が関西国際空港、奥に神戸と六甲山(写真:nobisenさんの登山記録より)
文/鈴木志野

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

大阪湾の眺望や天然記念物のブナ林、渓谷美に四季の花、修験道など、見どころ多い厳選6コース

大阪と奈良の県境、そして大阪と和歌山の県境には、標高こそ低いながらも長大な山脈が形成されている。これらの山々は、かつては修験の山として栄え、神々が住まう山として人々に崇められてきた歴史を持つとして、2020年に文化庁が認定している日本遺産に、修験道はじまりの地である「葛城修験」として登録されている(葛城修験の知識は、特設ページでじっくりと確認してほしい)。

修験の山として栄えた跡が山中に点在している。写真は犬鳴山・行者の滝(写真/うめぞー さん

このうち、大阪と和歌山の府県境に沿うように、東西約55kmに渡って連なる山々が和泉山脈だ。和泉山脈は和泉葛城山を中心とする東側と「紀泉アルプス」と呼ばれる西側の2エリアに分けられ、いずれも標高1000m未満の山々のため、手軽な低山歩きの山として親しまれる。ただ、網の目のように山中に広がる登山道は迷いやすく侮れない。

展望が開けるところでは大阪側、和歌山側いずれも雄大だ(写真/K-TAN さん

東から西へ標高を下げながら海へと続くルートからは大阪湾を一望するのが特徴だ。コース内には天然記念物にも指定される美しいブナ林があったり、美しい渓谷、ミツバツツジやヤマザクラ、ススキの草原といった四季折々に魅せる植物、さらに修験道など信仰の山としてスピリチュアルな雰囲気も満載。

山中・山麓にはサクラの名所も多く、花の時期の登山も楽しい(写真/sirou さん

大阪南部の市街地や和歌山市に近いことからアクセスもよく、季節を問わずに歩くことができるが、南部の低山なので真夏は避けたほうが無難だ。

それぞれの山をつないで縦走を楽しむ登山者も多いうえに、山脈の東に位置する紀見峠で人気縦走路のダイヤモンドトレールともつながっているため、組み合わせ次第でロングコースを堪能できる。地図を確認しながら、様々なルートでこの山域での登山を楽しみたい。

日本南限のブナ原生林を歩く、和泉山脈の主峰・和泉葛城山

かつては宝仙山と呼ばれ、修験の山や雨乞いの山として知られる和泉葛城山。この付近にある3つの葛城山のうち、この和泉葛城山はもっとも西に位置する。

和泉山脈の最高峰で、一帯に広がるブナの原生林は1923年に天然記念物に指定され、現在は保全活動が行われている。とくに新緑の5月、黄葉の10月中旬~11月初旬が美しい。

山中はブナの森が深く、新緑や紅葉の時期は特に美しい(写真/みたたか さん

最もポピュラーなコースは、日帰り入浴や喫茶が利用できる「ほの字里」からのコースだ。そこから枇杷平へ歩き進むと、ブナの群生の中を歩くことになる。その後、長い石段を登れば葛城神社と龍王神社のある和泉葛城山山頂に到着、和歌山の龍門山や大阪湾の眺望を楽しもう。

下山は、美しいハシカケノ滝方面を進む。いったん車道に出てブナ林の回廊入口から木道に入る。ブナの巨樹の間を進み沢筋に下り、ハシカケノ滝の堪能して、ほの字の里バス停に戻る。

行程・コース

最適日数:  日帰り 5時間20分
総歩行距離:  11,100m  上り標高: 971m  下り標高: 971m
ほの字里バス停・・・蕎原バス停・・・枇杷平・・・ブナ林の回廊入口・・・和泉葛城山・・・ハシカケノ滝・・・春日橋・・・蕎原バス停・・・ほの字里バス停

高低図

関連する登山記録

渓流美や絶景の展望、美肌の湯を楽しむ犬鳴山

飼い主の命を救った犬の昔話から名付けられた犬鳴山。ただし犬鳴山は山中にある七宝瀧寺の山号で、「犬鳴」と名前がつく山は実際にはなく、大天井ヶ岳はじめ天狗岳、燈明ヶ岳などいくつかの山の総称だ。

修験の地らしい険しい地形がつくる犬鳴川が流れ、春はヤマザクラ、夏はカジカガエルの声、秋は紅葉が楽しめる。そして楠木正成軍の兵士が傷を癒したという名湯犬鳴温泉は、ぬめり感のある重曹泉で美肌の湯として愛されている。

修験の地として栄えた山麓の散策も楽しい犬鳴山(写真/うめぞー さん

スタートは犬鳴山バス停からとなる。犬鳴川沿いに進むと、滝や巨石、古い杉木立などが現れ、神秘的な雰囲気に。やがて身代わり不動明王が立つ七宝瀧寺本堂下に到着する。ここからは、燈明ヶ岳、天狗岳、大天上ヶ岳に進み、五本松分岐を経て高城山と周回すると、全山を縦走できる。下山は七宝瀧寺から行者ノ滝を往復するのがおすすめだ。

行程・コース

最適日数:  日帰り 6時間20分
総歩行距離:  11,800m  上り標高: 1182m  下り標高: 1182m
行程: 犬鳴山バス停・・・七宝瀧寺・・・燈明ヶ岳・・・天狗岳・・・大天上ヶ岳・・・大タワ・・・ハイランドパーク粉河・・・五本松分岐・・・高城山・・・七宝瀧寺・・・行者ノ滝・・・七宝瀧寺・・・犬鳴山バス停

高低図

サクラの名所の古刹やパノラマ絶景を手軽に楽しむボンデン山

この山域の中心付近に位置し、「ボンデン」という変わった山名の由来は十二天のひとつ「梵天」がなまったとされる。標高469mと小粒ながら見どころが多い山だ。

和歌山側からの登山口にある根来寺は新義真言宗の総本山で、戦国時代の根来忍者や鉄砲僧兵として知られる“根来衆”の本拠地だった場所だ。サクラの名所としても人気の場所で、国指定の大塔など重要な文化財とともに楽しめる。

春は山肌をヤマザクラが彩る。山麓はサクラの名所としても知られる(写真/sirou さん

根来寺から登山する場合、参道を抜け、なだらかな自然林を進むと、遊歩道が整備されたげんきの森にある西展望広場へ。紀ノ川平野や高積山方面の眺望を楽しんだら、管理棟方向へ進む。土仏林道と馬分かれを経て、緩いアップダウンを繰り返し、ボンデン山山頂に到着する。

山頂には展望はないが、林道進んで展望台へと登ると360°に開けた眺望が得られる。足元に堀河谷の樹海を見下ろし、お菊山や殿御山、大阪湾、関西空港、淡路島、さらに城ヶ峰、三峰山、雲山峰とパノラマ眺望を楽しめる。帰りは来た道を戻るか、つづら畑バス停方面へと下る。

行程・コース

最適日数:  日帰り 3時間5分
総歩行距離:  9,700m  上り標高: 745m  下り標高: 700m
行程: 根来寺バス停・・・西展望広場・・・げんきの森管理棟・・・土仏林道・・・馬分かれ・・・ボンデン山展望台・・・つづら畑バス停

高低図

展望のいい尾根歩きが魅力の紀泉アルプスの最高峰・雲山峰

和泉山脈の西部に標高400m程度の山々が連なり、網目のように登山道が広がるエリアは紀泉アルプスと呼ばれる。この紀泉アルプスの最高峰が標高490mの雲山峰で、古くから沖を行く船がこの山を目印に方向を定めたといわれる。鉄道駅から直接アプローチが可能で、展望のいい尾根歩きを手軽に楽しめることから人気が高い。

また、四季の植物も楽しめ、4月のサクラ、5月のモチツツジ、6月のドウダンツツジやベニドウダン、ササユリなどが美しい。

薄っすらと見えるのは大阪湾に浮かぶ淡路島だ(写真/nobisen さん

最も一般的なのはJR山中渓駅からJR紀伊駅へと縦走するコースだ。銀の峰ハイキングコースのゲートを経て第一パノラマ台へと進むと、一挙に展望が広がる。ウッドデッキからは関西国際空港や淡路島、六甲山地まで眺望できる。

さらに尾根を進み、白い岩が目立つ尾根を進むと雲山峰の山頂へと到着。山頂からの展望は期待できないが、手前の露岩帯から大阪湾の展望を楽しみたい。

和歌山県方面へと下山すると、青少年の森展望広場などでは、眼下には紀ノ川の流れと紀北の山々の雄大な眺めが得られる。展望を楽しみながら進めば、JR紀伊駅に到着する。

行程・コース

最適日数:  日帰り 4時間40分
総歩行距離:  10,700m  上り標高: 687m  下り標高: 749m
行程: 山中渓駅・・・第一パノラマ台・・・四ノ谷山・・・栄谷池分岐・・・雲山峰・・・鳥取池分岐・・・青少年の森展望広場・・・落合分岐・・・紀伊駅

高低図

大阪湾を望みつつ、紀泉アルプスを北から南へ縦走。俎石山・大福山

紀泉アルプスの中心を北から南に縦走する際に通るのが俎石山や大福山だ。俎石山は大阪府唯一の一等三角点の本点がある山で、南と北に分かれた山頂の北峰から見下ろす大阪湾は絶景。一方の大福山は葛城修験二十八宿のひとつの第3経塚跡が山頂付近にあり、ヤマザクラの花見登山の場所として親しまれている。大福山も山頂付近からは和歌山市方面の景色が一望できる。

大福山の山頂の様子。修験道として栄えた跡が残る(写真/sirou さん

紹介するのは大阪側から和歌山側へと縦走するコースだ。桃の木台七丁目バス停から俎石山登山口に入り、アカマツやミツバツツジなどが美しい尾根を歩き、ところどころで南側に展望を楽しみながら歩くと、やがて海を見下ろす俎石山北展望台へと到着。

その後は雑木林のやせ尾根を南進していくと大福山へと到着。下山はサクラが美しい奥辺峠、八王子神社跡、滝谷地蔵尊を経て、JR六十谷駅に下山する。

行程・コース

最適日数:  日帰り 4時間35分
総歩行距離:  11,600m  上り標高: 679m  下り標高: 745m
行程: 桃の木台七丁目バス停・・・第二休憩所・・・三差路・・・俎石山・・・大福山・・・奥辺峠・・・八王子神社跡・・・滝谷地蔵尊・・・大関橋・・・六十谷駅

高低図

淡路島や大阪湾、神戸市街、六甲山まで大パノラマを楽しめる飯盛山

紀泉アルプスの北西部に位置し、飯を盛ったような山容の飯盛山。標高はわずか385mながらも海に近いために、実際の標高以上にどっしりと大きな存在感を醸している。四條畷市の飯盛山(河内飯盛山)に対して、地元からは泉南飯盛山と呼ばれている。

和泉山脈の中にあって大阪湾側に突き出すようにあるので、北側の展望が特によく、大阪湾や淡路島、神戸市街と背後に広がる六甲山など大パノラマが楽しめる。

山頂からは眼下に広がる大阪湾や淡路島が美しい(写真/sirou さん

ルートは南海本線孝子駅からアプローチするのが良い。孝子駅から高仙寺へ進み、常緑樹のウバメガシの密生林を行き、高野山へ。さらに札立山分岐を経てひと登りすると、展望デッキのある飯盛山に到着する。下山は迫力ある岩屋のある信浄院、さらに西谷寺へ進み、JR淡輪駅に到着する。

行程・コース

最適日数:  日帰り 4時間0分
総歩行距離:  9,500m  上り標高: 683m  下り標高: 723m
行程: 孝子駅・・・高仙寺・・・高野山・・・尾根分岐・・・孝子駅分岐・・・泉南飯盛山・・・信浄院・・・西谷寺・・・淡輪駅

高低図