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北アルプス北部縦走(鹿島槍~五龍~白馬~朝日~親不知):日本アルプス縦走Round.6(Final Rd)

扇沢、種池山荘、爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五龍岳、唐松岳、鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳、雪倉岳、朝日岳、黒岩山、犬ヶ岳、菊石山、白鳥山、尻高山、親不知( 北アルプス・御嶽山)

パーティ: 1人 (山車(dashi) さん )

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行程・コース

天候

7/17雨 7/18・19・20晴れ 7/21霧時々晴れ 7/22霧のち晴れ

登山口へのアクセス

電車
その他: 電車、バス
●往路:扇沢までバス
●復路:親不知から電車

この登山記録の行程

Round.6:北アルプス・北部(種池山荘~親不知) 2016年7月17日~22日
  ● アプローチ歩行距離: 5.9km ● アプローチ累積標高差:+1,194m -158m
  ● コース歩行距離: 64.7km   ● コース累積標高差:+5,650m -8,108m
  ● 記号:[--] 交通機関  [・・・] 徒歩
①7/17(日) アプローチ歩行距離: 5.9km 累積標高差:+1,194m,-158m
コース歩行距離: 3.5km 累積標高差:+337m,-376m
 扇沢(5:50)・・・(9:25)種池山荘(10:10)・・・(10:54)爺ヶ岳南峰・・・(11:15)中峰・・・(12:05)赤岩尾根JC・・・(12:29)冷池山荘
②7/18(月) コース歩行距離:8.7km 累積標高差:+1,195m,-1,127m
 冷池山荘(05:30)・・・(06:44)布引岳・・・(07:30)鹿島槍ヶ岳南峰(07:45)・・・(08:09)北峰JC・・・(08:18)北峰(08:22)・・・(08:29)北峰JC・・・(09:16)八峰キレット・・・(09:34)キレット小屋・・・(11:21)北尾根ノ頭・・・(13:30)五龍岳(14:25)・・・(15:15)五竜山荘
③7/19(火) コース歩行距離:13.5km 累積標高差:+1,785m,-1,436m
 五竜山荘(05:25)・・・(07:36)唐松岳頂上山荘・・・(07:57)唐松岳(08:17)・・・(09:02)不帰2峰南峰・・・(09:14) 不帰2峰北峰・・・(10:11)不帰1峰ノ頭・・・(12:05)天狗ノ頭・・・(12:30)天狗山荘(13:04)・・・(13:30)鑓温泉JC・・・(14:02)鑓ヶ岳・・・(15:07)杓子岳・・・(16:19)大雪渓JC・・・(16:36)白馬山荘
④7/20(水) コース歩行距離:11.8km 累積標高差:+749m,-1,445m
 白馬山荘(05:46)・・・(06:05)白馬岳(06:13)・・・(09:35)雪倉岳・・・(06:50)白馬大池JC・・・(07:37)蓮華温泉(鉱山道)JC・・・(08:44)雪倉岳避難小屋・・・(12:55)水平道JC・・・(14:19)水場(15:00)・・・(15:19)朝日小屋
⑤7/21(木) コース歩行距離:13.1km 累積標高差:+787m,-1,380m
 朝日小屋(05:22)・・・(06:18)朝日岳(06:24)・・・(06:56)吹上のコル・・・(07:14)照葉の池・・・(08:07)アヤメ平・・・(09:24)黒岩平・・・(09:56)黒岩山・・・(11:23)サワガニ山・・・(12:00)北俣の水6分・・・(13:02)犬ヶ岳・・・(13:15)栂海山荘
⑥7/22(金) コース歩行距離:14.0km 累積標高差:+797m,-2,345m
 栂海山荘(05:00)・・・(05:48)黄連山・・・(06:27)菊石山・・・(07:22)下駒ケ岳・・・(08:14)白鳥山の水場5分・・・(08:25)白鳥小屋・・・(09:01)山姥平・・・(09:36)シキ割りの水場・・・(10:37)坂田峠・・・(11:16)尻高山・・・(12:02)二本松峠・・・(12:18)入道山・・・(13:21)親不知

コース

総距離
約64.5km
累積標高差
上り約6,041m
下り約7,446m

高低図

GPX ダウンロード KML ダウンロード

登山記録

行動記録・感想・メモ

 今回の旅では、北アルプス随一の花の名所、白馬岳や、地元の山好き、花好きの人から、“余り教えたくない場所”と言われたところも訪れた。そして今回の縦走の発端となった栂海新道を親不知に下る。しかも、高山植物が咲き乱れる、7月という絶好の季節で、旅の締めくくりに相応しく、旅の喜びを一層引き立てる、最高の舞台となった!

 日本アルプス縦走~日本弧状列島完全人力横断(御前崎~親不知)~Round.6(Final Rd):北アルプス・北部(種池山荘~親不知)の山旅である。

 昨年6月に御前崎をスタートした日本列島横断の旅も、順調にラウンドを重ね、一冬を挟んで二年越しとなったが、今回の旅で最終章を迎える。ここまで一筆書きで、北アルプスの種池山荘まで繋いできた。今回の旅で65kmを歩き、最終ゴール、日本海の親不知を目指す。
 北アルプスと言えば、山の花が好きになった場所である。学生時代、ワンゲルに所属し、夏合宿のテーマは“藪漕ぎ”であった。その慰労登山で穂高から雲ノ平まで縦走した。花好きの先輩と、小休止毎に、花の名前を覚えていく内に、すっかり虜になった。藪漕ぎの途中、池塘のある、ちょっとした草地に出た時の感動が、北アルプスでは、道すがら、ぽっと現れる可憐な高山植物との出会いに、おおいに癒された。

<初日:扇沢-柏原新道-種池山荘-爺ヶ岳-冷池山荘>
 柏原新道に入った辺りから雨になった。合羽を着て汗だくになるのだったら、雨に濡れた方が増し!位に考えていた。「優雅ですね」と冷やかされながら、傘をさして登った。最初は快適であったが、上の方に行くと、雨脚も強くなり、風も強くなって、まずい!と思った時には既に遅かった。雨の中の歩行は久々であった。遠くの景色は望めない代わりに、足元の雫のついた瑞々しい草花が楽しめた。淡い紫色のベルの様な花が、薄暗い雨の木立の下に、良く似合って咲いていた。帰って調べてみると、ソバナ(岨菜)であるらしい。北アルプスというと、高山植物という思い込みがあり、今は廃版になってしまったようだが、ヤマケイポケットガイドの「高山の花」で調べると、しっくりするものがなく、同シリーズの「山の花」「野の花」も引っ張り出して、キキョウ科ツリガネニンジン属の比較表を作成し、岨菜ではないかと推定したが自信はない。雫のレンズで水中花のようになったウラジロタデ(裏白蓼)の花もいい。蓼も捨てたものではない。雨に濡れたイワハゼ(岩黄櫨)も可愛い。真っ白な肌に薄紅が差し、濡れて鮮やかさを増した臙脂の萼を被り、反り返った花弁の裂片の先には雫が宿っている。種池山荘までは縦走コースへのアプローチでしかないのに、書き留めておきたい花が、沢山あった。爺ヶ岳では雨は上がったが、霧が立ち込め、期待の双耳峰である鹿島槍ヶ岳の吊尾根は望めなかった。でも、柏原新道同様、花!花!花!の道で、飽くことがない。逸早く紅葉することで秋を代表するナナカマド(七竃)であるが、ウラジロナナカマド(裏白七竃)の白い花もきれいであった。エゾシオガマ(蝦夷塩竃)の白もいい。覚えたこともあった。ウサギギク(兎菊)はキク科で合弁花であるという。周囲一列の舌状花はバラバラで離弁花だと思っていた。ところが、そのバラバラの1枚の花弁に雄しべ/雌しべ/子房が備わっているので花弁は1枚、即ち合弁花になるらしい。初日から沢山の花に会うことができた。それらが雨に濡れて、瑞々しく可憐であった。雨に濡れた不快さも、時が経つのも忘れさせてくれる、花の歓迎であった。

<2日目:冷池山荘-鹿島槍ヶ岳-八峰キレット-五龍岳-五竜山荘>
 今日は雨上がりの、鮮やかに緑が映える、快晴に恵まれた。左手に剱岳が正面に見える。大窓、小窓に三ノ窓が、はっきり判る。歌に謳われたのは“窓を見るなら赤谷尾根でよ”なので、西からも見てみたいが、東から見る剱で忘れてならないのは、氷河である。立山の御前沢雪渓と共に、三ノ窓雪渓、小窓雪渓が2012年の日本雪氷学会で氷河と学術的に認められた。根拠は雪の下の氷の量と移動量であるらしい。なるほど、字の如く、“氷の流れる河”、氷河が日本に存在している。出発して10分もすると、左手の景色は剱を遮り、草と花の斜面が続く。土の道、草の道、花の道である。足にも、目にも、心にも、優しい道である。まず、兎菊の群落。皆、同じ方向を向いて整列している。そして目を上げると、風車になったチングルマ(稚児車)の向こうに、三角形が三つ。鹿島槍は双耳峰だったはずだが。足元にイワツメクサ(岩爪草)が現れると、そこは最初の三角形、布引山であった。斜に構えた鹿島槍ヶ岳の双耳峰が臨める。ここからは稜線上の砂礫地を行く。冬の季節風の風上となる左側にはイワオウギ(岩黄耆)が咲き、背景には立山、剱が控える。雪渓の大きい方から三つが前述の氷河である。雪の吹き溜まる右手の草地にはハクサンチドリ(白山千鳥)とリシリ?オウギ(利尻黄耆)が綺麗な色で咲いている。オウギには前述の他にシロウマオウギ(白馬黄耆)とタイツリオウギ(鯛釣黄耆)の2種があるが、区別が難しい。黄耆で悩んでいるうちに鹿島槍に着いた。人気の山である。全方位の眺望が得られる。来し方は蓮華岳までの稜線を辿ることができる。その稜線上にはメルヘンチックな赤い屋根の山荘が二つ確認できる。遠く、昨秋通過した前穂、槍が双耳を成し、トトロのような頭を覗かせている。行く先に目を移すと、正面に五龍岳が千m以上の標高差を以って、存在感を示す。筋肉質の岩山だ。五龍に続く稜線も、八峰キレットやG5などの岩稜であるが、意外と緑が多い。浸食は止まってしまったのか?五龍岳の向こうには白馬岳と並んで旭岳が目立つ。教えてもらって分かった。鹿島槍と五龍の間は岩稜帯となり、北アルプスの本領発揮である。岩場を楽しみ、岩棚に咲く、昔覚えたミヤマダイコンソウ(深山大根草)、ミヤマオダマキ(深山苧環)などを愛でる。北尾根の頭への上りで振り返ると、信州側は雲で埋め尽くされ、稜線がくっきりと描き出されている。その雲の形は、越中側の斜面を延長した様に、同一面となっている。谷底からの上昇気流でもあるのだろうか。G5の上りで顔を上げると、覆いかぶさるような岩の割れ目に、チシマギキョウ(千島桔梗)が列を成して咲いている。残念だったのは、イワギキョウ(岩桔梗)を一度も見られなかったことである。生存競争に敗れたのか、うまく棲み分けているのか、岩桔梗はやや湿ったところを好む傾向にあるらしいので、後者であればよいが。G5を過ぎると、花の終わったウルップソウ(得撫草)の大群落があった。西斜面の砂礫地に得撫草のみ、飛び石的に分布している。水分摂取に必要な面積でもあり、間隔をあけて分布しているのだろうか。ガレた礫の間から、顔を出して咲いているのは、キバナノコマノツメ(黄花の駒の爪)。安定した岩に盆栽のように群落しているのはシコタンソウ(色丹草)、他の草の中に咲くのはオヤマノエンドウ(御山の豌豆)。縦走路から少し奥まった五龍岳に着いた。周囲はすっかり雲に覆われてしまった。見えるのは立山・剱のみ。南から望めなかった鹿島槍、期待も空しく、北からも見ることができなかった。どうも、この辺りで眺望を得るには、朝方でないとダメらしい。1時間近く粘ったが、逆に下山路まで閉ざされてしまった。でも、そこに現れ、道案内してくれたのは神の使い、雷鳥であった。

<3日目:五龍山荘-唐松岳-不帰嶮-天狗ノ頭-鑓ヶ岳-杓子岳-白馬山荘>
 今日も一日快晴。岩と花の道を行く。岩は不帰嶮。迫力がある。いくつか岩峰があるが、ほとんど巻かずに―両側絶壁で巻きようがないが―ピークを越える。その時が怖い。掴まるものがないので。残念ながら、こういう処の写真は1枚もない。「良いアングルがとれないので」は、口実で、写真どころではないのである。花は前述とダブルが23種、確認できた。千島桔梗が多い。稚児車、ハクサンイチゲ(白山一花)、得撫草の花も見られた。道の両側で這松と日照権を争っているハクサンシャクナゲ(白山石楠花)の群落もあった。白い小さな花の集合花の同定に悩まされた。ハクサンボウフウ(白山防風)、ミヤマゼンコ(深山前胡)ではないかと推定した。花ではないが、オオシラビソ(大白檜曽)の若葉と思われる針葉樹に雫がつき、日の光に輝いて、花のように綺麗であった。白馬三山は花の背景に良く似合う。鑓ヶ岳を背景にした得撫草や岩黄耆、杓子岳、白馬岳と白山一花など、表紙にしたい写真が撮れた。白馬岳は近づいてみると、山頂近くの山荘と、そこから伸びる草原の様ななだらかな裾野が、本場アルプスのような雰囲気で、好感が持てる。裏の信州側は絶壁で、非対称山稜というらしい。

<4日目:白馬山荘-白馬岳-雪倉岳-(水平道)-朝日小屋>
 今日は全行程の中でも随一の花の道である。今日一日で確認できた花の数は50種を越えた。砂礫・風衝地に咲くミヤマアズマギク(深山東菊)、駒草に始まり、雪田周辺の稚児車、白山一花、草地のニッコウキスゲ(日光黄菅)、そして湿地に咲く水芭蕉、モウセンゴケ(毛氈苔)まである。変化に富んだ様々な環境が、多彩な高山植物を育む。無いのは岩場と樹林帯。朝日岳の水平道で木道まで現れたのには驚いた。同定に苦労したのはイワシモツケ(岩下野)とミヤマカラマツ(深山唐松)。手持ちの図鑑と言えば、前述のヤマケイポケットガイドしかない。岩下野は3シリーズのどれにも載っていなかった。知識のない者の検索方法は“虱潰し”である。あきれるほど時間がかかる。答えを見つけたのはネットである。「北アルプス 花」だったと思うが、キーワードを入力して、画像検索し、撮ってきた写真と照合する。力仕事である。深山唐松は白い線香花火のような花(実は雄しべ)と紫の部分の組み合わせで比較し、手持ちの図鑑では一致するものなし。ネットで「カラマツソウ」で画像検索すると、一致例あり。掲載者も同定に苦労されたようで、紫の部分は種子であった。花の状態でも、咲き始めと受精後では見た目が相当変化するらしく、花だけの同定は難しい。山では雪倉岳と旭岳の立派さに驚いた。超有名な白馬岳の名声に隠れてしまっているが、目の当たりにすると、どちらも存在感を示す。南から見ると、鹿島槍、五龍、鑓と重なり、白馬は頭を少し見せるだけに対し、左隣にとんがり帽子の旭岳が目立つ。雪倉岳は登っても感じるが、朝日平から眺める、そのおおらかな山容が立派に見える。朝日平の夕陽もよかった。雲海に沈む夕陽の残照が、黄菅(きすげ)の花弁を透かし、橙(だいだい)の灯りを点す。残光の最後まで吸い取ろうとでもしているように、黄昏(たそがれ)ても、尚、旺盛であった。夕方すぼむ、一日花のはずだが。

<5日目:朝日小屋-朝日岳-照葉池-アヤメ平-黒岩山-サワガニ山-犬ヶ岳-栂海山荘>
 今日はいよいよ、最後の道、北アルプスと日本海を繋ぐ栂海新道を下る。栂海新道は日本アルプス縦走コース設定に当たり、最初に決めたコースである。朝日岳2,418mから蓮華温泉に向かって、標高で200mほど下った、吹上のコル2,222mを起点に、親不知の海抜0mまで、全長24.6km、小野健さんの開拓した道である。ウェストンは、親不知を日本アルプスの起点としたが、この旅は逆に、日本アルプス縦走の終点として、北アルプスとともに、日本海に飛び込む。今日は栂海山荘まで、距離にして13kmを穏やかに下る。昨日に続き、今日も花の道である。名前の分からないものを含め、56種類を写真に収めた。まず、朝日岳で印象的だったのは、ハクサンコザクラ(白山小桜)の大群落。麻か何か有機物のネットが見える。このような取り組みで土壌の流出を防止し、植生の回復が図られたのだろう!そして稚児車。雪田の後退とともに咲き出す、高山植物の定番である。鹿島槍では花が終わり、実になっていたが、この辺りは雪が多いのだろう、植え込まれたように白い花が綺麗に咲き揃っている。次は照葉(てるは)池のある長栂山の巻道である。ここは草原の土の道で日光黄菅がいろんな形で咲き競っている。まだ咲き始めらしく、初々しい。萎んだ花はない。ハクサンフウロ(白山風露)の、この色合い、この採り合せ、これが自然界のものか!花びらの淡いピンクのグラデーションと雄しべの青紫。百聞(文)は一見に如かず!写真をご笑覧あれ。そしてモミジカラマツ(紅葉唐松)。この花に花弁は無く、白い雄しべ(これを花糸というらしい)が菊の花びらのように長く美しい。中心部は雌しべだろうか、透明感のある黄緑色が何とも言えない。どの花もどうしてこんなに美しく咲くことができるのだろう!次から次に驚きと感動の連続である。次に現れるのがアヤメ平。ヒオウギアヤメ(檜扇菖蒲)と白山風露の大群落。檜扇菖蒲は不思議な形をしている。最大の特徴である外花被、基部の鮮やかな檜扇模様は上からは見えない。それを隠すように内花被が覆っている。知る人(虫)ぞ、知る、秘密の花園である。蜜を求めて侵入した虫にとっては別天地が広がり、鳥から姿を隠す機能もあるのだろうか?次は黒岩平。乾燥気味の湿原で泥炭の道である。花盛りのコバイケイソウ(小梅蕙草)や花が終わり、富栄養で生い茂った水芭蕉のお化けは菜園の様である。標高1,624mの黒岩山の登りにかかると、小灌木が現れ、コメツツジ(米躑躅)やホツツジ(穂躑躅)の花が咲いている。穂躑躅は生垣のようにしばらく続く。花ではないが、かわいい綺麗なブルーのヒメシジミ(姫小灰蝶)の大群集も見た。やがて標高1,600mを切ると、犬ヶ岳。線香花火の様なシモツケソウ(下野草)が咲いていて、今日の宿、栂海山荘に13時過ぎ、到着した。

<6日目:栂海山荘-黄連山-菊石山-下駒ヶ岳-白鳥山-坂田峠-尻高山-親不知>
 最終章、最終日、累積標高でも800m登るだけで、標高差1,600mをひたすら下る。天気はあまり良くないが、下野草やコキンレイカ(小金鈴花)が周囲を明るくしてくれる。標高1,300m辺りまで下ると、橅林となる。土の優しい道となる。草花もガクアジサイ(額紫陽花)やツルアリドオシ(蔓蟻通し)など、湿った樹林帯の植生となる。蔓蟻通しはおもしろい花で、細長い筒状花を2個つけるが、子房は合着しているので、1個の赤い実となる。薄く、もやった橅の純林をしばらく行くと菊石山である。アンモナイトの化石は菊石と呼ばれていて、ここで発見されたことによる。標高1,100m辺りで、白鳥山の登りにかかると、岩と見間違う苔蒸した巨大な橅が出現した。反対側から見て、ETのような橅であることが分かった。L字状の橅が道に横たわっていたり、横向きのままで、起き上がらない朴の木もある。いかに雪が多いかを物語ると同時に、強い生命力を感じさせる光景である。白鳥山1,287mで越中、富山県とお別れする。遥か、三俣蓮華岳から、体の左半分を越中国に預けてきた。越中・越後の国境稜線は白鳥山で大きく西に舵をとるが、栂海新道は真っすぐ北上を続ける。そして、黒部川分水嶺は、すっかり忘れていて、昨日通り過ぎてしまったが、犬ヶ岳の南にある1,572mのピークでお別れしていた。白鳥山から、山姥平でワンクッションおいて、標高608mの坂田峠まで、一気に下る。ここまで来ると、横切る舗装道路が現れ、下界の匂いが強くなって、旅の終わりが近づいたことを感じさせる。旧北陸道は難所の親不知を通っていて、不通となる時があった。坂田峠は、その際の山回りルートとして利用された。峠の旧道には、苔むした大きな台座にお地蔵さんがいて、こちらを向いて迎えてくれる。お地蔵さんの脇を抜け、尻高山677.4mまで、標高差70mを緩やかに登る。積雪量が少なくなったのか、傾斜が緩いせいなのか、すっくと伸びた色白美人の橅林が続く。尻高山は最後の三角点で二等三角点であるが、眺望はきかない。ここにも舟形後背のお地蔵さんがいる。旧北陸道の山回りルートには、先ほどの坂田峠の他、二本松峠、一本杉峠があり、雪の深い谷筋を避け、尻高山を通る尾根筋もルートになっていたのかも知れない。入道山448mの北の肩を過ぎ、標高350m辺りで、樹間から真っ青な海が垣間見えるようになってきた。そして13時21分、親不知で日本海に着水した。いつの間にか、雲は晴れ、青空と紺碧の海が、ちっぽけな人間の小さなゴールを迎えてくれた。自然にとって何でもないことが、自分にとって大きな出来事になったことがうれしい!次の機会も、また初めてのように迎えてもらえる。そう思えてならない。
 一冬挟んで、2年越しとなったこの旅も、1週間の旅程、6回を数え、無事ゴールさせていただいた。コース距離573km、歩行36日、撮影6,671枚。絶景、百花繚乱、沢山の感動をいただいた。多くの方にご迷惑をお掛けし、そしてご支援いただいた。誌面を借りて、お詫びとお礼を申し上げたい。

<番外:糸魚川フォッサマグナミュージアム見学>
 親不知にゴールした翌日、糸魚川フォッサマグナミュージアムを見学した。フォッサマグナは糸魚川-静岡構造線のことだと思っていたが、フォッサマグナはラテン語で「大きな溝」であって、糸魚川-静岡構造線は、その溝の西端であり、東端は柏崎-千葉構造線と新発田-小出構造線であるという。フォッサマグナを説明する為に、日本列島の生い立ちから、映像で説明していて、興味深かった。2,000万年前までは日本列島はなく、アジア大陸・ユーラシアプレートの一部であった。マントルダイアピル(マントルの温度上昇により、膨張して浮力が発生した「火の玉」のようなもの)の上昇により、アジア大陸の東縁が持ち上がり、亀裂が入る。この亀裂に沿っていくつかの落ち込み帯ができ、北東-南西方向の大きな落ち込み帯は拡がって、やがて日本海に、これにほぼ直交する南北方向の小さな落ち込み帯は日本列島に乗ったまま移動し、これがフォッサマグナになったと説明している。NHKの番組では、大陸からの分離移動の動きが、西南日本は時計回り、東北日本は反時計回りに回転しながら移動したという。ここからは素人の妄想であるが、前述のように回転させると、日本列島は、割れて隙間が拡がるか、表面は沈降し、日本海側より、太平洋側の方が、伸び量が大きくなる。前述のフォッサマグナも「八」の字型に太平洋側が広く、妙に符合する。この日本列島が大陸から分離する時の、東西日本で回転方向が異なる回転移動が、フォッサマグナを形成したといえるのではないか。どちらにしても、こうして日本列島の原型が成立したのが、約70万年前。そしてこの頃から北アルプスが急激な隆起を始めたらしい。最近の国土地理院の前穂高岳での測定結果、年間5mm隆起という数値もあり、南アルプスでも4mmという数値同様、急激な隆起が現在も続いているのは間違いないらしい。興味は尽きない。

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登った山

犬ヶ岳

犬ヶ岳

1,592m

朝日岳

朝日岳

2,418m

雪倉岳

雪倉岳

2,611m

白馬岳

白馬岳

2,932m

杓子岳

杓子岳

2,812m

鑓ヶ岳

鑓ヶ岳

2,903m

唐松岳

唐松岳

2,696m

五竜岳

五竜岳

2,814m

鹿島槍ヶ岳

鹿島槍ヶ岳

2,889m

爺ヶ岳

爺ヶ岳

2,670m

白鳥山

白鳥山

1,287m

長栂山

長栂山

2,267m

黒岩山

黒岩山

1,624m

菊石山

菊石山

1,210m

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