男鹿山塊の名峰・日留賀岳。ブナの原生林の紅葉と、開放感あふれる展望を満喫する山

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那須岳から鬼怒沼山へと続く栃木県と福島県の県境付近は、人の訪れることもまれな山々が連なっている。男鹿山塊とよばれるこの山域で、ハッキリとした登山道がついている数少ない山の一つが日留賀岳。豊かな自然が残り、味わい深い登山を楽しめる山で、深まる秋を楽しんでみよう。

 

栃木県と福島県の県境に、深い森に覆われた山並みを連ねる、男鹿山塊というエリアをご存知でしょうか? 東は那須連山、南は塩原温泉郷、西から北にかけては会津鉄道に囲まれた広い山域なのですが、登山者はごく少ない不遇のエリアです。

登山者が少ない理由は、ほとんど登山道がないためです。日本三百名山に選ばれている、主峰の男鹿岳、最高峰の大佐飛山のどちらも道はなく、残雪期に雪を伝って山頂に立つ登山者がわずかにいる程度という山塊です。

例外が、今回紹介する、2番目に高い日留賀岳です。塩原の人々の信仰の対象となっていて、明瞭な登山道が山頂まで続いています。

“肩”から見上げた日留賀岳の山頂部。左手の尾根から登っていく


とは言え、決して多くの人が目指す山ではありません。秋が深まるこれからの季節、人気の山の喧騒を避けて、秘境感に満ちたこのような静かな山を訪ねるのも、趣きあるのではないでしょうか?

日留賀岳の登山口は、塩原温泉郷の中心部にある塩原温泉バスターミナルから、北西に4kmほど離れた白戸集落の小山さんという農家の敷地内にあります。

マイカー利用でアクセスするのが便利で、登山口には10台以上は停めることのできる駐車場が用意されています。公共交通機関利用の場合は、東北新幹線の那須塩原駅か、東北本線の西那須野駅からバス約1時間で塩原温泉バスターミナルへ移動。そこからタクシー(約20分、約1,800円)で登山口へと向かいます。

公共交通機関の場合は、どの駅を利用しても日帰りは難しく、塩原温泉バスターミナル周辺の温泉宿に宿泊することになります。塩原温泉は古くから知られた温泉で、源泉が150もあり、泉質を選んでの入浴が楽しめます。前日に早めに到着して、登山に備えてゆっくりと入浴するプランがお勧めです。

翌朝は、できるだけ早めに宿を出て白戸集落の小山さん宅へ向かいます。注意が必要なのは、ここにはトイレがないことです。事前に済ませてから向かうようにしましょう。

なお、この小山さんの家には登山者名簿があり、入山前に住所と氏名を記入することになっています。また、詳細な手書きのコース図が用意されているので、ぜひいただいて参考にしつつ登りましょう。

小山さん宅の登山者名簿が入ったケース(左)と、貴重な情報が記されたコース図(右)

白戸集落小山家から日留賀岳を往復

行程:白戸集落小山家・・・シラン沢林道・・・林道終点広場・・・自然木の鳥居・・・肩・・・日留賀岳(約7時間20分)

⇒登山ルートを確認する

 

ブナの紅葉を楽しみながら、開放感ある展望の山頂へ

小山さん宅右手の鳥居を潜り、祠の脇を登って尾根に出たら左へ。次第に急になる尾根を進むと、送電鉄塔の先でシラン沢林道に合流します。ここを右に進み、30分ほど歩いて林道終点の広場へ。その左手の登り口から、本格的な登山が始まります。

しばらくはなだらかな斜面を進み、やがて折り返すように右に登って大きなブナの木が枝を広げる尾根へ。傾斜は急ですが、紅葉や変わったキノコなどを目にすることができるので、あまり苦にならずに登れるでしょう。

やがて傾斜が緩んだところに立ち並ぶ針葉樹がアスナロの木です。その辺りで右手を見ると、樹々の合間から山頂方面を見渡すことができます。

ブナ林の中に続く急登区間(左)と、アスナロ林から遠望した山頂部(右)


やがて現れる、自然木を利用して作られた2つ並んだ鳥居は、このコース上の数少ないランドマークです。あまり目立たないので見逃しがちですが、しっかりとチェックしましょう。周囲は平坦なので、休憩にも最適です。

そこから一旦下り、鞍部からは尾根の左寄りを登ると、左に小さな霊神碑が現れます。さらに小さな金属の鳥居を見た先が尾根の合流点で、そのすぐ先で山頂部を見上げる肩に出ます。

うっかりと見落としてしまいそうな自然木の鳥居(左)と、その付近の紅葉の様子(右)


肩からは、木の根が多い急登をひと登りで山頂です。思いのほか広い山頂には二等三角点が設置され、日留賀嶽神社の石祠が祭られています。

展望も抜群で、男鹿山塊だけでなく、南会津や帝釈山地など、遠くまで山々が連なっていて圧巻です。おそらく多くの人にとって、普段はあまり目にしない山々ではないかと思います。有名山域以外で、これほどたくさんの山を展望できることに、驚きを感じるのではないでしょうか。

日留賀岳頂上から見た南会津の名峰・七ヶ岳。右手前は登山道のない貝鳴山


下山は往路を引き返します。来た道なので不安は少ないでしょうが、コース上に標識はないので、暗くなってしまうと道迷いの可能性が高まります。行程に余裕を持つと同時に、ヘッドランプも忘れずに持参しましょう。

登山用GPSや登山用のスマートフォンアプリを活用して、現在位置を把握しつつ行動するのが確実です。

なお、無事に下山したら、小山さんに一声かけておくとよいでしょう。

 

今がいい山、棚からひとつかみ

山はいつ訪れてもいいものですが、できるなら「旬」な時期に訪れたいもの。山の魅力を知り尽くした案内人が、今おすすめな山を本棚から探してお見せします。

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