黒髪山地・前黒髪(本城岳) 佐賀県で人気の低山へ

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佐賀県で人気の低山・黒髪山地(くろかみさんち)。有田ダムから前黒髪(まえくろかみ)[本城岳(ほんじょうだけ)]を周回するコースを紹介します。

文・写真=池田浩伸

佐賀県の武雄市と伊万里市、有田町に接する場所に、500mクラスの山々が連なる黒髮山地があります。激しい火山活動と浸食によって、巨岩奇岩がそびえ立ち美しい渓谷を作り出していることから、四季を通じて登山者が絶えることがない人気の山です。

照葉樹に覆われた森は四季の彩りに欠けるのですが、4月中旬から5月初旬にかけては荒々しい岩稜に紅紫のミツバツツジの花が鮮やかに色を添えます。

前黒髮まではミツバツツジがたくさん咲いていました

ミツバツツジと岩の尾根からの展望を楽しみに、有田ダムの駐車場からシダの多い尾根を歩き始めると小高い場所に出ます。ここは後黒髮や有田ダムを見下ろす展望所です。日当たりのよい尾根には、紅紫の花が風に揺れています。

279mの小ピークの南側を巻いて、小規模の崩壊地を過ぎて小尾根に上がると、目の前に黒髪山から派生し南へ延びた前黒髪尾根が大きく迫ります。その南端の大きな岩壁は英岩(はなぶさいわ)です。

この先の年木谷(としきだに)分岐を過ぎれば、ジグザグの急坂が続き目の前に岩の壁が現われます。ロープが設置されステップが刻まれていますので慎重に登ります。

核心部の岩尾根にはロープが設置されステップも刻まれている
核心部の岩尾根にはロープが設置されステップも刻まれている

登りきると、南側の展望が広がり国見山地や多良山地の長い尾根を一望できます。あとわずかで稜線なのですが、さらに急坂になるので、岩に腰を下ろして一休み。

稜線分岐からは右へ10分ほどで英岩です。途中に北側が開けた岩場がありますが、英岩はさらに奥にあります。スリリングな岩の上に立てば、有田の町並みや有田の大イチョウを見下ろすことができます。英山は先程の稜線分岐の先の右に外れた場所にあり、鈍頂なので注意しないと通り過ぎてしまいます。

有田の街を見下ろす英岩
英山から有田の街を見下ろす

緩やかにアップダウンを繰り返して、前黒髪(本城岳)へ。樹木に囲まれた山頂ですが北に進むと黒髪山の展望台とも言える場所があります。佐賀ゆかりの詩人・山本太郎氏によって「秘色の湖(ひそくのうみ)」と名付けられた、青磁の色の湖水をたたえた有田ダムと、それを囲むように連なる黒髮山地の山々の景観がみごとです。屹立した岩峰の天童岩を仰ぎ見ながらの稜線歩きは、コースのハイライトです。

前黒髪付近からは天童岩や黒髮山地の展望がよい
前黒髪付近からは天童岩や黒髮山地の展望がよい
天童岩
天童岩。よく見ると登山者の姿が

自然環境保全林の歩道を、有田ダムと西光密寺の分岐へ下っていきます。途中のレスキューNo.86の標識を目印に左の踏み跡を進むとショートカットできます。分岐から15分ほどで黒髪山に登れますが、今日はこのまま谷沿いの道を有田ダムへ下ります。

山頂の天童岩をご神体と崇め参拝するための道だったのか、自然石が不規則に並ぶ石段を下っていくと景色は美しい渓谷に変わり、やがて白川キャンプ場跡に着きます。ダムサイト沿いの車道脇に咲くヤマツツジなどを見ながらスタート地点まで戻りました。

美しい流れに沿って白川ダムへ下って行く
美しい流れに沿って白川ダムへ下って行く
白川ダムから見る天童岩 
白川ダムから見る天童岩 

下山後は、近くの有田陶磁博物館に立ち寄りました。建物は明治7(1874)年に建てられた焼き物倉庫を利用したもので、佐賀県重要文化財の「染付有田皿山職人尽し絵図大皿」と「陶彫赤絵の狛犬」などを見ることができます。  

MAP&DATA

前黒髪地図  
周辺の地図を見る

参考コースタイム

有田ダム下駐車場~英岩~前黒髪~有田ダム下駐車場:約3時間15分

この記事に登場する山

佐賀県 /

本城岳 標高 482m

佐賀県の名峰、黒髪山の南部に位置する山。国土地理院の地形図には山名はないが、測量標識の近くにある標識には前黒髪(本城山)と記されている。 山頂から北へ進むと展望が得られ、とくに北側の展望が良い。

佐賀県 / 佐賀西部・長崎・島原

黒髪山 標高 516m

 佐賀県武雄市と有田町との境界に位置し、群馬県の妙義山を思わせる山容である。黒髪山、青螺山(せいらやま 599m)、牧ノ山と続き、黒髪山は有田側が石英粗面岩からできており、有田焼の原料となっている。黒髪山の北側や青螺山などは古い火山で、浸食のため山容が険しい。  山は夫婦岩(雄岩・雌岩)の悲恋物語や、鎮西八郎為朝(源為朝)の大蛇退治の話で有名。雄岩・雌岩は、かなわぬ恋とあきらめ、入山したキリシタンの若者が雄岩に変身し、恋する男を追って入山した乙女が雌岩に変身したとされるもので、年に一度大晦日の晩に忍び会うという。 また天童岩の直下には黒髪神社があり、村人を苦しめる大蛇を退治するよう領主が為朝に頼んだという伝説もある。  山中にあるカネコシダは天然記念物。  登山道はJR三間坂駅から伊万里行バスで宮野下車。黒髪神社下宮から車道を伝い(途中近道)西光密寺へ。黒髪神社上宮への石段途中から右手に入り、鉄バシゴを登って山頂に至る。下山は雄岩、雌岩の間の見返峠から乳待坊に下り、舗装路を宮野バス停まで下る。約4時間の行程。

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

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