笛吹川のほとりの鄙びた温泉宿・一之橋館に泊まり、晩秋の乾徳山で巨岩、奇岩とたわむれる

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ひとり気ままに山と温泉を楽しむ温泉登山。登山前後に泊まりたい至福の温泉宿を紹介します。第11回は岩場が人気の乾徳山を目指して、山麓の宿で笛吹川のせせらぎを聞きながらゆっくり前泊。

写真・文=月山もも

山梨県山梨市にある標高2031mの山、乾徳山は、山頂直下の垂直な岩壁をはじめとした、巨岩・奇岩を楽しめる人気の山です。
奥秩父の山の中では雪が積もるのがやや遅いこともあり、晩秋まで多くの登山者で賑わっています。

登山口から2時間ほどは樹林帯を登ると、扇平と呼ばれる開けた場所に出ました。
ここから山頂までは1時間ほどかかりますが、その間は「髪剃岩(かみそりいわ)」と呼ばれる、狭い隙間に挟まれてしまいそうな奇岩や、鎖場、梯子が連続して現れます。

そして最後には、20m以上はありそうな垂直な岩を、鎖を頼りに登っていく核心部分を乗り越え、頂上へ!

山頂からは富士山の姿が。晩秋らしい澄んだ空気のせいか、くっきりと美しく見えました。甲府盆地を見下ろす絶景をしばし楽しんだ後に、下山します。山頂直下の岩場には巻き道もありますので、下りは巻き道を下りて、元来た道を戻ります。

乾徳山の登山口までは、中央線の「塩山駅」と「山梨市駅」からバスの運行があり、公共交通機関利用でも登山は可能です。ただし、休日は岩場や鎖場で渋滞が起こりやすいため、思った以上に時間がかかってしまい、朝一番のバスで来たとしてもあまり余裕を持って登れないのが悩ましいなと思っていました。

そこで今回は、乾徳山の登山口に近い温泉宿「一之橋館」に前泊して、始発のバスよりも早いタイミングで登り始めることにしたのです。

一之橋館は、笛吹川のほとりにある家庭的な雰囲気の宿です。
登山前日の午後にバスでおとずれ、チェックイン。お部屋で女将さんにお茶を煎れていただきました。

今回宿泊したお部屋は「新館」にありました。ウォシュレット付きのトイレもあって設備の整ったお部屋です。

窓の外からは笛吹川の流れる音が聞こえ、縁側からは渓流を眺めることができます。
お茶をいただいて一休みした後はお風呂へ向かうことに。

一之橋館の温泉は「一之橋温泉」と言い、地下を掘って汲み上げた温泉ではなく「自然湧出」している貴重な源泉です。

泉温が25度と低いので加温していますが、アルカリ性の源泉でつるつる感があります。
また、浴室にいても渓流の音が聞こえ、湯に浸かりながらも天然のヒーリング音で癒やされました。

温泉で体が温まった後は夕食の時間です。

食事処でいただきましたが、他のお客さんがいる場所とは障子で区切ってあり、個室状態となっていました。一人でも人目を気にすることなくのんびりと、テレビを見ながら食べられるのはうれしいですね。

山梨の代表的な地酒「七賢」を1合注文し、熱燗でいただきます。

お刺身は山の宿らしく、サーモン、馬刺し、鴨の3点盛りです。馬刺しで熱燗がすすみます。

天ぷらもボリュームがあり、からりと揚がっていて大変おいしいです。

鍋の中身がなんだか気になって蓋を開けてみると……すき焼き!量もたっぷりです。

じっくりと煮込んで、卵をつけていただきます。
すき焼きを食べ始めるころに熱燗を飲み終わってしまい、もう少し飲みたいけれど明日は朝から登山だし、ご飯をいただこう!とお願いすると……なんと締めのご飯が栗ご飯でした。

おひつに入った状態で提供され、おいしそうなお焦げもついていたので、お腹いっぱいなのにおかわりまでしてしまいました。登山の前日だからたくさん食べても大丈夫でしょう!

翌日の朝食も同じ食事処でいただきます。登山の予定があるため、通常よりも早めの時間で用意していただきました。

芋のにっころがし、ナスの焼き浸し、マカロニサラダ、焼き鮭、具だくさんの味噌汁など、家庭的なおかずがずらりと並ぶのがうれしいですね。
鍋の蓋を取ると、中はハムエッグとキャベツが。バターの香りがふんわりと漂い、醤油を一たらしすると、ご飯がすすむおかずになりました。

朝食の後は、宿のご主人の車で登山口まで送っていただきました。
登山口までタクシーで行くつもりだったのですが、ご好意で送っていただけて本当にありがたかったです。
乾徳山や甲武信岳、金峰山などに登る際の前泊で利用されることが多い宿ですので、朝食の時間を早めていただいたり、朝食をお弁当に変えていただくことも可能です。混雑を避けて登山をするために、こういった登山口近くの宿を、これからも活用していきたいなと思いました。

 

*紹介した温泉、食事、施設サービスは2020年10月下旬取材時の内容です。

一之橋館

料金:1泊2食付き/1室1名8000円~(シーズン、部屋等により変動あり)
住所:〒404-0202 山梨県山梨市三富上柚木883
電話:0553-39-2331
HP:http://fruits.jp/~ichinohashi/

 

プロフィール

月山もも

山と温泉を愛する女一人旅ブロガー。山麓の温泉宿を一人で巡るうちに「歩いてしか行けない温泉宿」に憧れを抱き、2011年から登山を始める。ゆるハイクから雪山登山まで、テントも一人で担ぐ単独登山女子。 ブログ「山と温泉のきろく」https://www.yamaonsen.com/に、温泉と登山のすばらしさについて綴っている。山と温泉に魅せられる人を増やすことが、人生のよろこび。著書に『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』(KADOKAWA)。

ひとり温泉登山

山と温泉を愛する月山ももさんによる月1連載。登山前後に入りたい極上の温泉宿をご紹介します。

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