サバイバル登山家と家族の日常 『サバイバル家族』【書評】

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評者=ゲキ(イラストレーター)

サバイバル家族

著:服部文祥
発行:中央公論新社
価格:1650円+税

 

以前、テレビで田部井淳子さんが、夫となる人と初めて出会ったとき、「頭の中で鐘の音がカランカラ~ンと鳴ったのよ~」という話をされていた。以来気になり、いろんな人に尋ねているのだが、そんな音が聞こえたというカップルはいなかった。が、やっと見つけた。この本の著者、服部氏は、将来妻となる小雪さんに出会った瞬間、心に鐘が鳴り響いたという(教会の鐘ではなく福引きの鐘だったらしいが)。序盤から鮮烈な“ラブ”に圧倒され、以降、読み応え満点のラブコメ「嫁狩り」に始まって、妻へ、子どもへ、動物たちへ、ラブのてんこ盛り!という感じで、服部家の“繁殖記”がつづられていく。「不登校」と「偏差値に弱い父」の章では、自分の息子と重なるところが多く、ドキリとさせられた。

家族と織りなすさまざまな物語とともに、「再生可能な循環式の人生」について(できるだけ庭でウンコするのはその一環だ)や、自由を得ること、食料の調達法を学ぶ大切さ、「生きる喜びさえ購入する」システムへの違和感など、山をやる人なら一度は心をよぎる思いも随所に散りばめられている。

そして、ネタバレになるので詳しく書けないのが残念だが、鹿の××…を食った鶏の卵が絶品!だとか、最も旨い肉はまさかの××…だとか、げっ歯類の肉はご馳走で、××…の唐揚げが子どもたちの学校のお弁当に入ってるとか、え!ホンマに!?と、驚くような獣肉エピソードも満載。グルメな諸氏にも興味深いのではないかと思う。

私は読後なぜかほっこりした。小雪さんのあたたかな挿し絵のおかげかな……?

 

山と溪谷2020年12月号より転載)

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