九州の紅葉登山の締めくくりに、国東半島の田原山(鋸山)へ
九州での紅葉シーズンの締めには、国東半島の田原山はどうでしょうか。標高542mの低山でコースタイムも短いながら、クサリ場、岩尾根と手ごたえのある登山と大展望が楽しめます。
田原(たわら)山は大分県北東部の国東(くにさき)半島にあり、両側を平行する断層群で区切られ、隆起した鋸歯のような岩尾根が続く「地塁」という地形から出来ています。地元ではその山容から鋸山とも呼ばれています。
九州のほとんどの山々は、11月中旬を過ぎると美しかった紅葉も終わりを迎え、「山粧う」から「山眠る」へと移るのですが、国東では秋の終わりに、オオコマユミやコマユミのニシキギ科の植物の紅葉が岩肌を見事に飾り、「山眠る」前に最も彩りを放つ季節を迎えます。特に田原山の岩尾根が紅葉に飾られる景色は見ごたえがあります。
ニシキギは世界三大紅葉樹にも数えられるほどで、豪華な錦の織物のようだ、というのが名前の由来だそうです。
モミジやドウダンツツジの紅葉に彩られた山々を見たあとの、最後の紅葉鑑賞にはここ田原山だと決まったように、優しい紅色の鮮やかな紅葉に惹かれ毎年出かけています。
低山ながら、鋸歯状の尾根は転落事故もあったそうですので、晴れた日を狙って予定を組みます。
鋸山トンネルの手前にある駐車場に車を停めたら、登山案内図の説明を読んでスタートです。
車道を横断して登山道を進むと「見返り岩・大観峰」と「大観峰」の2つの案内板がついた分岐が現れます。左の見返り岩からの道は下山路として使うので、「大観峰」の案内に従い直進します。伐採地の急登を登りきると南尾根の上に出ます。
そこから、急坂を下ると八方(はっぽう)岳と大観峰の鞍部になります。ここには、見上げる岩壁に長いクサリがつけられていて「これを登るのか」と驚かされますが、安全な巻道も準備されています。
そして、最高点となる大観峰への最後の登りにもクサリの岩場があり慎重に足を運びます。
岩峰に立てば、遮るもののない大展望とオオコマユミが紅色に染めた奇岩・奇峰の見飽きることのない景色が広がっています。
基部まで戻って岩尾根を登り返すと八方岳です。ここが田原山542mの山頂です。四方八方を見渡すことが山名の由来と言われる通り、これから進む行者尾根や南に由布岳・鶴見岳、別府湾まで見渡すことができます。
この先も急なアップダウンの繰り返しとなり、金属の足場を伝い高い岩壁を這うようにして上がると「股のぞき岩」です。北にある男性のシンボルに似た奇岩の太陽石を股越しにのぞき見る場所らしく、笑ってしまいます。
さあこれから、両側が切れ落ちた岩尾根歩きになります。杓子岩・経岩・無名岩などが連続し、紅葉と奇岩の景色に見とれているとヒヤリとする様な場所もあらわれます。気をつけましょう。
広くて平らな無名岩の上は、八方岳を振り返る絶好の休憩ポイントです。
途中の囲観音堂へ下る道は、後で尾根の道に合流するので危険箇所を迂回する巻き道としても利用できます。
行者尾根を進んで磨崖仏への分岐を過ぎ「見返り岩」に立って鋸歯の尾根を振り返って「やっぱりこの山は楽しい」と独り言。
最後の急坂を下りると往路に合流して、右へ行けば登山口に戻ります。時間が許せば、日本最大級と言われる熊野磨崖仏(国重文・国史跡)や史跡に立ち寄ったあと、山香温泉風の郷で汗を流すのがおすすめです。
プロフィール
池田浩伸
佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。
今がいい山、棚からひとつかみ
山はいつ訪れてもいいものですが、できるなら「旬」な時期に訪れたいもの。山の魅力を知り尽くした案内人が、今おすすめな山を本棚から探してお見せします。