草枯れの色の湿原を紫色で染める、ヤマラッキョウの花
草枯れが始まった草地に群落を形成し、小さいながらよく目立つヤマラッキョウ。「ラッキョウ」の名の通り、辣韮の近縁種だ。食べられるかどうかは不明だが、その香りは――。
今回紹介する花の名前はヤマラッキョウ、漢字では「山辣韮」。山でラッキョウと聞くと、馴染みがない人には少し驚くかもしれない。ヤマラッキョウは野生植物で、花はラッキョウに似ている、ラッキョウの近縁種だ。食べられるかどうかはまだ試したことはない。
分布は広く、低地の湿原から標高2000メートル近い高原まで生えている。早いものなら9月から紫色の花が咲き始める。花の集まりの直径は3センチ程度と小さいが、草枯れが始まった草地に咲くのでよく目立つ。
小さなひとつひとつの花びらからは、雄しべが飛びだす。まれに、白色のヤマラッキョウものあり、紅紫色との組み合わせが、とても美しい。
花茎は30から60センチに立ち上がる。葉は線状で細長い。葉の断面は三角形に近い形で、中身がある。
どこにでもある、といった植物ではないが、咲いている場所では、登山道わきに普通に咲いているものも多い。千葉県の湿原では大群落になっている。湿度の高い草原ならば、どこでも生息するのだろうか。
先日、訪れた場所では、かわいいヤマラッキョウの花が踏まれていた。かわいそうに、と思いながら立ち去ろうとしたら、ふとヤマラッキョウのニラそっくりのにおいがした。
プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。