東北の名峰・鳥海山。紅葉と雄大な景観を求めて御浜までトレッキング
東北の独立峰・鳥海山は、秋田富士、出羽富士とも呼ばれ、近在の人々からは季節暦の山として親しまれています。今回は、大平登山口から御浜に向かい、山上湖「鳥ノ海」と新山を望む大いなる山岳景観を楽しみ、帰路は鉾立へ。海を背に登り始め、海に向かって下る。そんなコースを紹介します。
写真・文=斎藤政広
鳥海山は季節風と対馬暖流の影響を受ける、たぐいまれな豪雪の山。遅くまで雪渓が残り、名前がつくほどの規模の雪渓は10を越えます。これほどの雪渓をいだく山は珍しいでしょう。
大量に降り積もった湿った雪は高山植物たちの温かな布団となり、初夏、雪解けを待って花が群落で咲き、すがすがしく美しい風景が広がります。10月に入る頃、鳥海山から流れ出る清らかな湧水を求めてサケが遡上し、シベリアからはハクチョウの群れがこの鳥海山を目印にして渡ってきます。10月中旬を過ぎれば、山頂部は初冠雪をまとい、山麓は紅葉の時期を迎えます。
今回紹介するコースは、鳥海ブルーライン四合目にある大平口が起点となります。登山口から伝石坂に入り、森林限界に分布するブナ林を抜けると展望が開け、見晴台に到着です。ここからは庄内平野とクロマツ林の美しい海岸線が一望でき、後方には月山から朝日連峰、温海の山々が望めます。
見晴台からしばらく登り続ければ河原宿。夏には大きな雪渓が残るところです。周辺は高山植物の宝庫で、10月に入ってもミヤマリンドウやコウメバチソウが咲いています。
河原宿を横断して愛宕坂の手前で右に折れ、長坂道T字分岐に向かいます。T字分岐で長坂道と合流します。ここから御浜を目指す尾根道は気持ちのよい展望の山道。後方に笙ヶ岳が望め、のびやかな山稜が広がります。
やがて鳥海湖(鳥ノ海)が姿をあらわし、扇子森の後方に新山が顔を見せてくれます。鳥海山を代表するすばらしい景観が広がります。足もとに目をやると、チングルマの紅葉が岩のふちを彩っています。
今回は御浜小屋で休憩をはさんだ後、名残惜しくも帰路の途へ。賽ノ河原方面に向かって石畳の道を下っていきます。右手にはミヤマナラが色づいて輝き、紅葉の斜面の後方には稲倉岳が大きく見えています。
さらに下っていき、やがてブナ林の中に鳥海ブルーラインが見えてくれば、鉾立はもうまもなく。ふと目線を上げれば、紅葉の向こうに日本海が輝いています。
紅葉の時期を過ぎ、10月下旬になれば鳥海ブルーラインは冬季閉鎖となります。そして降雪を重ねながら、鳥海山はふたたび冬の装いへと変化していくのです。
プロフィール
斎藤政広(さいとう・まさひろ)
横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。
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