「紅葉の山」〜彩りを写す|山の写真撮影術(7)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

夏とは打って変わり、山が一気に彩りを見せる秋。絶好の被写体である紅葉を見たときの感動そのままに写真で表現するポイントを解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭

 

緑が一気に転換し、紅葉黄葉の饗宴を見せる秋は、撮影者にとって贅沢な季節だ。

美しさに踊らされ、幾枚シャッターを切っても、まだまだ撮り足りない紅葉。しかし仕上がった写真を眺めると、撮影時に興奮したほどの鮮やかさに欠けることもしばしば。思い出は美しすぎて、と言われるように脳内に焼きついた記憶は、たしかに現実に輪をかけて鮮やかだ。

紅葉の感動をそのまま表現するには、斜光線を活かしたい。色彩を引き立てるばかりでなく陰影もダイナミックになる。さらに、カメラの設定も少し変えて、少し彩度を上げてみよう。コントラストを上げるのも鮮やかさをコントロールする手段だ。手慣れた人なら、偏光フィルター(C-PLフィルター)を大いに活用すべし。

やがてやってくるモノトーンの冬を前に、精一杯彩りを豊かにしておこうではないか。

 

【作例1】色に強弱をつけて画面いっぱいに写す

ぐいぐいと高度を稼ぐ、北ア・ブナ立尾根も終盤。太くまっすぐな針葉樹林が、枝うねるダケカンバの樹々に変われば、待っているのは文句なしの錦繍だ

 

①赤色は控えめに

赤い色は強烈なチャーミングポイント。強い色になり、まず視線を持ってゆかれる。手前に来るとガツンと主張してしまうので、位置と大きさに気をつけてフレーミングしよう。


②白い樹幹がアクセント

ダケカンバやシラカバの白い樹幹は、紅葉黄葉だけの写真に新鮮な動きを与える。といっても主役は紅葉黄葉である。出しゃばらない程度に配置すれば脇役として上々の働きとなる。


③隅まで色を置こう

色彩豊かなこの季節は、ほんのひとときだけの饗宴である。写真の四隅まで、赤や黄色といった季節の色でしっかりと埋めこもう。濃密な秋を感じさせる写真になるはずだ。

撮影データ

カメラ:SIGMA dp2 Quattro
レンズ:30mm(35mm換算で45mm)
ISO:200
絞り値:f10 シャッタースピード:1/30秒
備考:絞り優先(-2/3)、レンズはカメラと一体

 

【作例2】明暗差と斜めのラインで主役を立たせる

槍沢の広々とした谷をたどる。振り返れば、山肌で浮き彫りになるダケカンバの黄葉が。望遠ズームを目いっぱい伸ばして、パターンとして切り抜いた

 

①手前は目立たせない

手前左角の部分。ここが明るいと、視線が誘導されてしまう。下手をすると、主題を食ってしまう。そこで黒くしまった影を配置することで、全体が落ち着き、主題が目立つようになる。


②主役に露出を合わせる

最も見せたい主題部分がここ。濃い黄色の色合いが飛ばないように露出に気をつけること。この写真は撮影時にマイナス補正をしている。紅葉黄葉は少し彩度を上げて撮影しよう。


③斜めのラインでリズムを生む

連続する線上に被写体を配置すると、写真にリズム感が生まれる。水平垂直の線であれば、そこにはリズムがあるが単調だ。一方、斜めのラインは、振り幅のあるリズムを感じさせる。

撮影データ

カメラ:SIGMA fpL
レンズ:SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG OS HSM、400mmで撮影
ISO:250
絞り値:f10 シャッタースピード:1/640秒

備考:絞り優先(-2)

 

コラム

雪化粧を寄って撮る

大きな山全体が彩られる景色も紅葉なら、目の前に震える小さな枝先が生む景色も、また紅葉である。

葉の一枚にあっても、その一部だけが紅葉するというのは、葉の内で分解された物質の流れが阻害されておこる現象だとか。そういったメカニズムを横に置いても、どこか不思議で、風情風流を感じさせるもの。緑と赤といえばイタリアンカラーでちょっと派手なイメージもあるが、そこに明け方の細雪という化粧が加わっただけで、一気にどこか和風の、切なさが加味されてゆく。

一点の写真のなかに、大きな景色と小さな景色を組み込んで、対比させるのもよいが、組み写真として、大きな写真と小さな写真を対比させてみる、というのも写真の撮り方であり、見せ方になってゆく。

山と溪谷2022年10月号より転載)

関連リンク

プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

編集部おすすめ記事