ユーモア写真〜山中に和みあり|山の写真撮影術(21)

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山の写真は真面目なものばかりではない!ときには肩の力を抜いて視野を広げ、感性のおもむくままに撮ってみましょう。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


山の撮影に熱を上げると、陥りやすいのが真面目な写真ばかり撮ってしまうこと。

大汗かいて息を弾ませ、暑さ寒さに立ち向かい、朝は朝星、夜は夜星。24時間働けますか?のお手本のようにシャッターを切る。もちろん、それもいいのだが、そうやって仕上げた作品を並べると、どこか四角四面の写真ばかりになることも多い。あるいは、どこかで撮ったことのある、似たような景色ばかりがそろってしまうことさえある。

きっちり撮るほどに、陥る底なしの沼。そこで、考え方をぐるっと転換。肩の力を抜いて、ユーモアのある写真をパチリ、というのはどうだろう。山にはほほえみのネタがあちらこちらに隠れている。あるいはカタログのように、気になるアレコレを写真コレクションにするのもおもしろい。写真の枠を広げれば、同時に視野も広がってゆく。新たな写真が生まれる契機になる。

自然の造形に目を向ける

恐れ入谷の鬼子母神。匠にして巧み。超絶の造形もあれば、どうしても笑いがこみ上げる落とし穴まで。山が図らずも用意した匠と巧みの数々。これを撮らない手はない!

好き好き大好き、異なる木でも。ときおり見かける異種の木による切ない恋。す木(スキ)シリーズとして、撮り続けている

飛び方を忘れた天使。こんな風に羽を広げて、ちょっとだけ前のめりのまま固着中。夢を見て羽ばたくシロオニタケ

何かに見立てる

有名どころでは、燕岳のイルカ岩や眼鏡岩など。自然の造形を別なものに見立てると、不思議な楽しさが湧く。自分だけの見立てに、ついニヤリ。そしてパチリ!

深紅のリンゴは禁断の味。違うな、アッカンベーのブナ親父か、それとも非業の死を遂げたベロ出しチョンマの精霊か。笑えるような、笑ってはいけないような

「夢を編む牛」。雨上がりの谷。やっと差し込んだ光がすっと浮かび上がらせたクモの巣が、何とも柔らかな牛の姿を形作った

人工物にも個性あり

パーソナルな図鑑を作る。デジタルならではのお楽しみだ。僕は、道標や山火事防止看板を写真でコレクション。図鑑にしている。いつの間にか図鑑はユーモアの塊と化してゆく。

西丹沢不老山にて。素浪人と呼ばれた道標。故岩田㵎泉翁の傑作道標のひとつ。氏の道標作成の熱量のすごさ楽しさを物語る

山火事防止看板も、図鑑的に撮りためるとおもしろい。とはいえ、傑作は意外に少ない。位置情報も記録できるカメラならなおよい

『山と溪谷』2023年12月号より転載)

プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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