記録写真〜生活の中の山を残す|山の写真撮影術(24)

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美を追求すると記録が追いかけてくる。山の写真には記録と美の両面性がある。今回は記録としての山の写真を解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


初心者からハイアマチュアまで、写真講座は美の追求というベクトルに向かうのが常だ。

しかし、山を写すことには、美のベクトルだけでなく、常に記録という側面がある。山の写真の特性の一つと言ってもよい。山の経年変化は一つの記録となり、また変化していないことも一つの記録となる。雪が溶け、花が揺れ、紅葉が燃え、雪が降り積もる。その景一つ一つが美であり、記録の積み重ねでもある。

山をめぐる人の営為も記録となって折り重なる。道しるべ一つ、小屋や登山道の写真一枚一枚。そこに美があり、記録がある。

今回の作例は、私の地元の峰山山頂に祭られた社が遷宮した記録。2度と撮れない人と山の間の事象は少なくない。高性能のデジタルカメラは、写真に正確な日時、さらに位置情報までもが刻まれ、写真の記録としての価値を高めてくれるのだ。

軽トラで登山口まで社を運ぶ。写真のデータには、2014年4月19日9時56分。北緯35度34分38.68秒、東経139度8分25.70秒、高度385.4mの撮影記録が残る

地元の職人が作った銅葺屋根も輝かしい新しい社が、山道を練り上がる。講中の面々が、代わるがわる社を担ぐ。地域活動に参加する学生グループも力を貸してくれていた

大正時代から90年以上風雪に耐え役割を果たした旧社。登拝されてきた峰山山頂のシンボルだった。旧牧野村は相模原市となった令和の現在も古峰神社の講を受け継いでいる

記録写真ではあるが、気持ちは高ぶる。その高揚感を横からの流し撮りで表現。シャッタースピード1/8秒。ペンタックスK-3での撮影。この後、祠を峰山山頂に設置した

2015年4月19日。社を設置した1年後。裸だった社に上屋を設けた。山頂に部材を持ち込み、トントンと建築。これで何年もの風雨に耐える仕様となったはずだ

講元による祝詞が唱えられる。峰山山頂が緊張した空気につつまれる。小さな社だが、小さくはない波紋が心の中に広がる。真摯で敬虔な信仰心と、満足感が交錯する瞬間

コロナ禍にあって峰山の登拝は数年にわたり中断となった。今年はこの写真のように山頂に集い祈ることができるはずだ。そのときはまたシャッターを切るのである

『山と溪谷』2024年3月号より転載)

プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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