写真のすゝめ|山の写真撮影術(最終回)

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2年にわたって続いたこの連載も今回で最終回。写真は技術も大事だが、最も大事なことは自分の写真を愛すること。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


「山の写真撮影術」も今回で千秋楽。お付き合いありがとうございました。

自分でも不思議ですが、こういった撮影術指南には、あるはずもない「いい写真」への志向が底流にあるのです。誰からも「いいね」を押してもらえるような写真への志向。これまでの教えを遵守してもらえば、それなりの「いいね」になるはず。

でも、それがあなたの写真なのか、ということはまったく別な話。写真には型も枠もなく、自分で切り開く表現です。撮影術を軽く飛び越えてください。そして思うような写真にならずとも、自分の写真を愛してあげましょう。それが最後の指南。今回の作例は、僕が愛する僕の山の写真を集めたものです。

締めの言葉には、日食なつこさんの楽曲「音楽のすゝめ」の歌詞から最後のフレーズをお借りします。(ズルいね)

また馬鹿な僕らで会おうぜ。

人の時のなかの山

山は人とともにある。その時を噛みしめる。人は古来、山に生かされ山に生きてきた。そのかけらを手ですくうように拾い集める。

信仰の山、有明山。大きな岩の懐にて、何かを語りかけてくる石像。いつの時より、この山を攀じる人を見続けてきたのか
雲ノ平。鈍く光る木でできた道。登山者を未来へと誘う。たっぷり降った雨ももうずいぶん乾いてきていた
仕事の場としての山。全身全霊で山に汗した人々。その生き様を捉える、これも山の写真である

悠久の時のなかの山

山は人と関係なくそこにある。手を伸ばしても届かない時間に腰を据えている。その切片を一つ、指先に仕留める写真冥利。

頼んだわけではないのだが、ちょうどピンスポットをあててもらった。めったにないような気もするが、案外巡り合うという不思議
山は黒く雲は白い。雲の変化は驚くほどの速さだ。待ってもくれない。時間よ止まれ、しかし念力でも祈りでも止まった例はない
入笠山より。遥か彼方、乗鞍岳から続く山々の頂稜にゆっくりと沈んでゆく月。レンズが引き寄せてくれる逢魔時(おうまどき)
キイロスッポンタケか。突如屹立する菌。巧みなる戦略家は、おびき寄せた虫どもの足に胞子を絡めた後、すぐに果てる
迸(ほとばし)り、走る。光も水も容赦なく跳ね、流れる。そして一瞬にして消える。悠久と一瞬の組み合わせ。写真は時を止めた

『山と溪谷』2024年4月号より転載)

プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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