モノクローム〜写真表現の原点|山の写真撮影術(23)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

写真の原点は白と黒の表現だ。すべての色彩が白と黒の間に抑えられ光と影が躍動する。デジタル一眼で手軽に挑戦しよう。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


デジタル写真が普及し、写真が特別な意味を持たなくなった。美しいと思っていた山を、飽きるほどたくさん写せる時代だ。しかし写せば写すほど、彩りが豊かになればなるほど、写された山々が凡庸な姿に見えてくる。

そこで試してみたいのはデジタルという自由の、多くを削ぎ落とすこと。具体的には、色を抜いてしまえ、ということ。光と影、明と暗、白と黒での表現、すなわちモノクロ写真に、もう一度山の美を再確認できるはずだ。

撮影時にモノクロのモードにするのがよい。色のついた山が白と黒の間でどう表現されるか想像を巡らせる。その潔さは、間違いなく山の美の再確認となる。そして、少々姑息で安易だが、撮影後にコンピュータ上でモノクロ変換するのも、デジタルならではの手法である。色に戸惑うことなく、スッキリとした山に出会えれば、それも表現だ。

【作例1】シダ植物の生命力をモノクロで表現する

シダ植物には摩訶不思議な生命力がみなぎっている。その力強さを、まばゆい半逆光の中でモノクロ表現にしてみた

①漆黒の省略表現

フィルム時代、プリントは暗室で行なわれた。そこでよく使われたテクニックが焼き込み。黒を一層深い黒にする技である。ディテールをつぶした深い黒は画面をぐっと締めて、余計なものを隠してくれる。引き算の技法の一つである。

②ハイライトがメリハリを生む

シダの葉に半逆光の日差しがまぶしい。この鮮明なハイライトとなった部分が、モノクロ写真ではメリハリをつける重要な要素となる。ここが沈み込んでしまうと、全体の印象まで暗くなる。

③モノクロを生かすのは影

光源を斜め後ろにし、影がはっきりすれば、日差しの力強さを想像させる。また晩春から初夏という生命力に満ち溢れた季節さえ、思い起こさせる。モノクロでは特に影の扱いが重要だ。

撮影データ
カメラ ペンタックス K-3
レンズ 70mmで撮影(35mm換算で105mm)
ISO 160
絞り値 f10
シャッター
スピード
1/200秒
備考 露出補正-1、絞り優先、モノクロモード、コントラストはHARD

【作例2】モノクロとカラーの比較

八方尾根から望む五竜岳。風が刻んだ造形を写せるのはスキーヤーが横切る前だから。カラーよりモノクロに変化させたほうが、その造形をアピールできた
【カラーの作例】

【モノクロの作例】

①暗さが重厚さを生む

空というと明るく表現しがちだが、ここもしっかり焼き込みたい。空が白っぽく表現されると、画面全体の重厚な質感が損なわれてしまうのだ。これはカラー写真にも言えることだ。

②露出はアンダーに

雪は白いもの、という先入観があるが、明るい白は山のディテールを飛ばし、迫力がなくなってしまう。印象深くするためには、より暗い白となるように、露出はアンダー目に表現しておきたい。

③縞模様が遠近感を出す

印象的な縞模様を描く雪面。風が削ったモノトーンの造形を大きく取り込んだ。実際のこの文様は同じ幅で伸びているが、広角レンズを使うことでパースがついて、遠近感を強調できた。

撮影データ
カメラ シグマ fp L
レンズ シグマ 16-28mm、F2.8 DG DN
ISO 250
絞り値 f18
シャッター
スピード
1/80秒
備考 露出補正-1、絞り優先、ホワイトバランスは晴れ

『山と溪谷』2024年2月号より転載)

プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

Amazonで見る

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

編集部おすすめ記事