東北の名峰・月山。高層湿原が広がる念仏ヶ原を訪ねて、おおらかな紅葉を愉しむ

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月山は山形県の中央部に位置する東北の名峰で、日本百名山にも選ばれています。念仏ヶ原は月山の東側、肘折温泉から山頂に向かう参道の中間部にあり、広大な湿原が広がる別天地。今回は、秋の一日、ゆったり紅葉の湿原に浸ります。

写真・文=斎藤政広

念仏ヶ原湿原とおおらかな月山

念仏ヶ原湿原とおおらかな月山

月山(がっさん)という山名の起こりは農業の神様、月読尊(つきよみのみこと)から由来しているといいます。また山頂部のおおらかな形状が牛の背を思わせることから、 犂牛(くろうし)山とも呼ばれています。肘折からの参道は非常に長い行程で、月山を経て出羽三山の奥の院である湯殿山(湯殿)に参拝する順路となっているようです。今回目指す念仏ヶ原は、肘折と月山との中間地点にあります。

登山口は肘折温泉から4kmほどの所にあり、駐車スペースがあります。スタートして、はじめに大森山西鞍部を目指します。途中、展望が開けて葉山をめぐる山々が迎えてくれます。鞍部でひと休みもいいでしょう。

肘折口コース登山口

肘折口コース登山口


大森山を離れてトラバース道になり、やや足場が不安定になりますが、やがて気持ちのいいブナ林の道へと変わります。道脇に湯殿山碑が現れ、ここが月山への参道なのだと気づかせてくれます。道中の安全を祈願して、進んでいきます。

湯殿山の碑

湯殿山の碑

紅葉が始まったブナ林の道

紅葉が始まったブナ林の道

オオカメノキが赤く色づいて、森の中の透過光に輝いています

オオカメノキが赤く色づいて、
森の中の透過光に輝いています


沢音がやさしく聞こえてくれば猫又沢。小さな流れを渡り、ブナ林の道をさらに進みます。続いて、町村界になっている立谷沢川の支流、赤沢川に出ます。源頭部にあたるため水量は少なめ。澄んだ水と光との戯れが、水底の岩や石から感じられます。ここから、緩やかな長い登り道に入っていきます。

小さな猫又沢

小さな猫又沢

赤沢川底の光がまぶしい

赤沢川底の光がまぶしい

ユキザサの赤い実の輝き

ユキザサの赤い実の輝き


磐梯朝日国立公園の看板を過ぎると湿地の道になり、階段状に登ります。着いた小岳山頂部からは、遠くに鳥海山が望まれます。少し下り道になって、花崗岩質がむき出た見晴らしのよい地点へ。葉山が大きく見えています。しばらくで木道になり、三日月池に出ます。

小岳山頂部。遠くに鳥海山が望める

小岳山頂部。遠くに鳥海山が望める

周囲の彩りを映す三日月池

周囲の彩りを映す三日月池


下り道になり、少し巻くようにしてようやく念仏ヶ原に到着。一角にある念仏ヶ原避難小屋が、やさしく迎えてくれます。小屋に荷物を置き湿原探索に出かけ、おおらかな月山のふところをゆったりと愉しみましょう。草紅葉やサワフタギの実のブルーの輝き、ミヤマナラの紅葉が印象的です。月山への道は立谷沢の本流、清川を渡って続いていますが、その橋のあたりまで訪ねてみるのもよいでしょう。10月下旬、念仏ヶ原での降雪はもう少し先のことになりますが、この頃、月山の山頂部はすでに白く輝いていることでしょう。

念仏ヶ原避難小屋は、地元の方々によってきちんと管理されています。山の話をしながら食事をしたり、落ち着いて休憩をとることができます。時折、小鳥たちの合唱に包まれることもあり、ゆったりと時が流れていく場所です。

コマユミかツリバナの仲間か、ピンク色がひときわ目立つ

コマユミかツリバナの仲間か、
ピンク色がひときわ目立つ


帰路は往路を忠実に戻りますが、本コースは往復約9時間と長丁場。日帰りの場合は早い出発とし、日の短い季節は計画には十分注意してください。念仏ヶ原避難小屋については、事前に最新状況の確認を。また、登山前後に肘折温泉に泊まれば、より思い出深い山旅になることでしょう。

 

登山口~念仏ヶ原~登山口

コースタイム:約9時間

プロフィール

斎藤政広(さいとう・まさひろ) 

横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。

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