鎌倉アルプスで秋の紅葉散策、とっておきの隠れ家で味わうおだんご
鎌倉の市街地のすぐそばに連なる丘陵地帯、鎌倉アルプス。海の展望と心地よい樹林歩きを楽しんだあと、北鎌倉でゆったり、お茶と甘味の時間を楽しんだ。
写真・文=西野淑子
登山を始めて、鎌倉に豊かな森があることを知った。今日は鎌倉アルプスにハイキング。北鎌倉駅をスタートし、建長寺(けんちょうじ)を拝観。境内の奥から階段を上り、半僧坊(はんそうぼう)まで進むと相模湾の眺めが開ける。勝上献(しょうじょうけん)まで上ったら快適な稜線散歩の始まり。常緑樹多めの森を進み、ところどころで海の見晴らしが開ける。
鎌倉市最高地点の大平山(おおひらやま)でゆっくり食事をし、天園から紅葉の名所・獅子舞を下って大塔宮(おおとうのみや)へ。獅子舞(ししまい)はカエデやイチョウの大木があり、紅葉の時期は赤と黄色の樹林が見事だ。社寺の境内、あるいは街路樹のイメージが強いイチョウが山の中に、しかも大木で何本も見られるのは珍しい。例年の紅葉の見頃は11月半ばから12月上旬だ。
みたらしだんごとあんだんごの優しい甘み
大塔宮から住宅街を進み、鶴岡八幡宮でお礼参りをしたらゴールの鎌倉駅へ。
ゆっくり甘いものでも食べて帰ろうと思うけれど、鎌倉駅の周辺はとにかく人が多過ぎて、忙しなくて落ち着かない。通り沿いのお店も多くてどこに入ったらいいのかと逡巡し、観光客でごったがえす歩道を歩いているうちに、下山スイーツへの気力がどんどんなくなっていき、気付けば帰りの電車に乗ってしまうのがいつものパターンだ。しかし今日はひらめいた。「北鎌倉で途中下車しよう」。
鎌倉アルプスや源氏山公園など、北鎌倉駅を起点に鎌倉の森をハイキングするとき、駅から山へ向かう道中には魅力的な飲食店が多い。6月のアジサイの時期は多くの人でにぎわうけれど、その時期を外せば、隠れ家的な雰囲気のなかで静かに喫茶が楽しめる。境内にちょっといい雰囲気の喫茶スペースがあるお寺もある。私の好きな「隠れ家」は、北鎌倉駅のすぐそばにある。
ロータリーのないほうの改札を出てすぐのところにある香下庵茶屋。駅の目の前にある店なのに、不思議と目立たない、なんでだろう。かわいらしい小さなのれん、手書きのメニューに品があって私は好きだ。
お茶室のような建物だな…と思っていたら、もとは本当に、ご主人のお母様のお茶室だったのだとうかがった。香下庵(こうげあん)という店名はお茶室として使われていた頃の名前で、お茶室の上にあるお寺(円覚寺)からよいお香の香りが下りて漂ってくる…というのが名前の由来だそう。
入口で注文をし、中に通してもらうシステム。季節限定のおすすめメニューもいろいろあったが、今回はみたらしだんごセットを注文した。奥にテーブル席、入口近くにカウンター席があり、今日はカウンター席へ。風情ある、上品な雰囲気の店内、やさしいオレンジ色の照明が心地よい。線路に面した席でぼーっと待っていると、横須賀線の電車が通った。鉄道マニアではないが電車が見えるとうれしくなる。なんでだろう。
みたらしだんごセットが登場。みたらしだんごが2本と、あんだんごが1本。お茶が添えられている。まずはみたらしだんごを一口。やや甘めのみたらしあんがたっぷりかかっている。お団子は少し焼いてあり、香ばしい匂いが漂う。あんだんごも一口。おや、こちらのあんこは甘さ控えめなのかしら。上品なあんこの甘みと風味。もっちもちのお団子はみたらしにもあんこにも合うんだねえ。お団子は思ったよりお腹にたまる。3本いただくとすっかりお腹いっぱいだ。
ゆったりと時間が流れる素敵な店内で、おいしいお団子を味わえてよかった。今日は途中下車で大正解、ごちそうさまでした。
数年前、夏に訪れたときは美味しいかき氷を味わえた。 「おすすめは梅酒のかき氷、お寺からいただいた梅で作っているんです」と、女性の店員さんが優しく穏やかな語り口で教えてくださった。以前食べたのは梅酒ではなかった気がするから、来年の夏はおすすめの梅酒のかき氷を味わおう。たっぷり汗をかいて歩いたあとのかき氷、きっとおいしいはずだ。
店名:香下庵茶屋
北鎌倉駅の東口改札を出てすぐのところにある茶店。茶室を改装した風情ある店内で和のスイーツを味わえる。
電話:0467-25-0411
住所:神奈川県鎌倉市山ノ内492
アクセス:横須賀線北鎌倉駅からすぐ
プロフィール
西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)
初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。
下山メシのよろこび
登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。