外秩父の里山歩き。山麓で楽しむ、つやっつやのうどん

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低山ながら関東平野が一望の絶景を楽しめる外秩父・鐘撞堂山。里山の風情を満喫し、下山後はお気に入りの手打ちうどんと天ぷらに再会。風味ゆたかなうどんで空腹を満たした。

写真・文=西野淑子

外秩父の展望の里山歩き

空気が冷え、ようやく低山歩きが心地よい季節になった。

外秩父の展望の山、鐘撞堂山に足を運んだ。標高500mにも満たない山だが、山頂からは関東平野の眺めがよく、天気に恵まれればスカイツリーや筑波山(つくばさん)もわかりやすく見つけられる。鐘撞堂山という山名は、山麓の鉢形城(はちがたじょう)の見張り塔がこの山頂にあったことに由来する。敵の襲来などの危急時はここから鐘を鳴らし、山麓に知らせたという。

鐘撞堂山山頂から東方面の眺め
鐘撞堂山山頂から東方面の眺め。筑波山やスカイツリーも見える
少林寺に下る五百羅漢の道
少林寺に下る五百羅漢の道。やさしい顔の羅漢様がいた

紅葉にはまだ少し早かったが、眺めはまあまあよかった。山頂には竹製の方向指示器があり、目をこらせばスカイツリーも確認できた。鐘撞堂山の山頂からは円良田湖(つぶらだこ)、少林寺を経て波久礼(はぐれ)駅に下山する。少林寺に向かう下山路は、道沿いに羅漢像が並ぶ。表情も手にしているものも少しずつ異なる羅漢像に目をとめながら歩くのが楽しい。

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 2時間20分
行程:寄居駅・・・大正池・・・鐘撞堂山・・・円良田湖畔・・・少林寺・・・波久礼駅
総歩行距離:約7,300m
累積標高差:上り 約372m 下り 約356m
コース定数:10

コシがあり、小麦の風味を感じられる手打ちうどん

少林寺で無事下山のお参りをし、波久礼駅へ。今日はうどんを食べて帰ろう。

波久礼駅の駅前に立つ「手打ちうどん とき」が、今日の目的地だ。

以前、鐘撞堂山を歩いたとき、下山後に立ち寄って以来「お気に入りのうどん屋さん」となった。取材執筆を担当した登山ガイドブック『秩父ハイク』でも紹介している。

……あれ?お店の名前が変わっている。「手打ちうどん はぐれ」だって?

お店の看板
お店の看板、店名が違う…
店構え
こじんまりとした素朴な店構え

建物は変わっていないし、お店の看板の書体もこんな感じだったと思うけど。

店主が代わってしまったんだろうか。それとも違うコンセプトの店に? ぜんぜん違ううどんだったらどうしよう。不安でぞわぞわしながら店の前に立つ。「いらっしゃい」と声をかけられ、その声に聞き覚えがあることにほっとする。

おすすめメニューなどが張り出されたカウンター
おすすめメニューなどが張り出されたカウンター
木目を生かした店内
木目を生かした店内。テーブル席と小上がりがある

木のぬくもりを生かした感じの店内。印象的だった寄木風の壁面もそのままだ。テーブル席と小上がり、カウンター席があり、奥のテーブル席に腰掛ける。メニューを見て、以前訪れたときと変わっていないことに心底ほっとする。

「肉汁うどんと、季節の天ぷら盛り合わせをください」

この店のうどんは、埼玉県産の地粉と地元のおいしい水で打つ手打ちうどん。メニューは、もりうどんのほか、肉汁うどん、きのこ汁うどん、肉きのこ汁うどんと、季節のつけ汁うどん。少数精鋭だ。人気ナンバー1は肉きのこ汁うどんだというが、今日は王道の肉汁うどんをいかせてもらう。季節のつけ汁は「卵あんかけうどん」だって。メニューの写真がおいしそうでちょっと心が揺れる。

この店はうどんもおいしいが、天ぷらもおいしい。ホワイトボードに「季節の天ぷら」が書かれている。ピーマン、しいたけ、オクラ、ナス、サツマイモ。そのほかに「おすすめの天ぷら」が数種類。今日は大盤振る舞い、季節の天ぷら盛り合わせにしてみた。

山の余韻に浸りながら待つこと10分弱。肉汁うどんと天ぷらが到着。

肉汁うどんと、季節の天ぷら盛り合わせ
肉汁うどんと、季節の天ぷら盛り合わせ

そうだ、食べたかったのはこのうどんだよ。ざるに盛りつけられたうどんがつやつやして美しい。

そして、盛り合わせの天ぷらの量に驚く。いや、5品なんだけど、どの野菜も大き過ぎませんかね。

まずはうどんをアツアツの肉汁にくぐらせてから一口。やや黒っぽいうどん、コシがあるというか、歯ごたえ、質感がすごい。噛むほどに小麦の風味も感じられる。太さが微妙に均一でないのもいい感じだ。肉汁は豚肉がたっぷり。濃過ぎず、うどんと味わうのにちょうどいい。

肉汁うどん850円
肉汁うどん850円。アツアツの肉汁でいただく
茹でたてのうどん
やや黒っぽい、つやつやとした茹でたてのうどん

オクラの天ぷらを一口。……おお、揚げたて、アツアツだ。衣の加減が厚過ぎず薄過ぎず、サックサクなのがいい。オクラの食感、風味がガツンと伝わる。いいじゃないか! 厚みのあるサツマイモは甘くてホクホクだし、しいたけ(巨大)はみずみずしくて旨味が増している。天ぷらって、野菜の素材のよさを生かす料理なんだろうか。

季節の天ぷら盛り合わせ600円
季節の天ぷら盛り合わせ600円。写真では伝わらないがどの野菜も巨大

……しかし量が多い。中程度の胃袋を持つ中年女性がひとりで食べるには若干多い。ふたりでシェアするぐらいがちょうどいいんじゃないか。でもおいしいので手が止まらない。

そして、うどんも多い。普通盛りで350gというが、食べてもなかなか減らない。うれしいけど。

うどんに、天ぷらに感動しながら食べ終える。ごちそうさまでした、大満足、満腹です。

帰り際に、お店の方々に『秩父ハイク』でお世話になったお礼を述べる。お送りした見本誌を、お店に置いてくださっていた。本当にありがたい。

店名が「とき」から「はぐれ」になったのは今年3月。店名は変わったけど、ほかは何も変わっていなかった。大好きなうどんがこれからも食べられることに感謝。また来よう。でも、天ぷらは盛り合わせでなく好きなのを2品ぐらいにしておこうか。

手打ちうどんはぐれ

手打ちうどんはぐれ

波久礼駅の駅前に立つうどん店。埼玉県産の小麦を使った手打ちうどんは、もっちりとした食感とコシが特徴。季節の天ぷらも美味。

住所 埼玉県寄居町末野72
TEL 080-8733-4438

この記事に登場する山

埼玉県 / 奥武蔵

鐘撞堂山 標高 330m

埼玉県寄居町の北方にそびえる低山で、山麓から同定できないほど目立たない山である。山名は中世戦国時代、北条氏支配のころ、鐘を置き危急の役に立てたことに由来する。  コースは寄居駅から山麓にある大正池の辺りを通り、今は廃村となってしまった馬騎ノ内を通って登ってゆく。  山頂には休憩舎があり、関東平野の眺めがとてもよく、それ故この山の利用価値は高かったものと考えられる。帰路は円良田(つぶらだ)湖畔に出てから羅漢山へ登ってゆく。かつて花園山と呼ばれていたが、五百羅漢があるので現在の山名となった。また戦国時代、蒔田康邦の城跡でもあったので城山とも呼ぶ。山麓に少林寺がある。山中には板碑も多く、円良田湖畔は桜の名所でもある。  コースタイムは寄居駅から山頂に至り、円良田湖、羅漢山を経て、約3時間30分。

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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