東北の山々が一望の秋田駒ヶ岳。夢中でかき込む、絶品のモツ煮
高山植物の宝庫、花の山として人気が高い秋田駒ヶ岳(あきたこまがたけ)。初秋の花と絶景を楽しみ、下山後に立ち寄った田沢湖駅前の食堂で箸が止まらなくなって……。
写真・文=西野淑子
初秋の花たちとみちのくの山々を眺めて
今年の夏は東北の山へいくつか足を運んだ。
秋田駒ヶ岳を訪れたのは8月上旬。高山植物が楽しめる「花の名山」だが、訪れたときはすでに花が見頃の時季は過ぎ、ヤマハハコやハクサンシャジンなど、初秋の花が咲き始めていた。咲き終わって綿毛になり始めているチングルマをあちこちで見かけ、満開のときに来たかったなぁ、とため息。
それでも天気に恵まれ、気持ちよく歩くことができた。八合目の登山口から男女岳(おなめだけ)をめざし、横岳(よこだけ)、焼森(やけもり)と周回するコース。天気がとてもよかったので男岳にも立ち寄った。山頂は360度の展望。2週間前に登った鳥海山(ちょうかいさん)が眺められたし、岩手山(いわてさん)、早池峰山(はやちねさん)など登ってみたい東北の山々も見渡せた。花の見頃は過ぎていたとはいえ、焼森周辺ではコマクサにも出合えた。うれしい。
MAP&DATA
コクのある味噌の風味と柔らかなモツ。卵かけご飯にのせれば……
駒ヶ岳八合目バス停から路線バスで田沢湖駅へ向かう。
田沢湖駅前のロータリーを囲むように飲食店や土産物店が並んでいる。秋田のグルメといえばなんだろう。きりたんぽ?稲庭うどん? なにを食べて帰ろうかな、なにが食べたいかな。
……駅舎のすぐ脇の店に目が止まった。「駅前食堂」だって。なんて直球すぎる店名。店の入口にメニューが貼ってあるので見てみる。モツ煮定食の写真が誘いかけてくる。おいしそうなモツ煮の写真におなかがぐうぅっと鳴った気がして、お店にいそいそと入る。
広々とした店内、入口近くのテーブル席に腰掛けて、改めてメニューを見る。
モツ煮定食などいくつかの定食、キーマカレー、丼もの、ご当地名物の稲庭うどんもある。……ああでも今回は初志貫徹、最初に気になったモツ煮定食を注文した。
料理を待ちながら、テーブルに置いてあった、お店が紹介されている新聞記事を読む。秋田県産の豚モツを、秋田県産みそや八丁味噌、しょうゆなどを使ったタレで煮込んだモツ煮は、店主が考案したこのお店の看板メニューなのだそう。なるほど。
新聞記事を読み終えたところで、モツ煮定食が到着。白飯、モツ煮、味噌汁、お漬物、小鉢の冷奴、生卵。
「モツ煮は味が濃いので、ご飯に卵をかけて、モツをのせながら食べてください」と女将さんがやさしい声で説明してくれる。
まずモツ煮を一口。……味が濃いというより濃厚、味噌のコクが強く感じられるね。ふわっと生姜の香りがするのも、そそられるなあ。モツは臭みがなく、やわらかくてふるふるとした食感。これはご飯にも合うのはもちろん、ビールや日本酒も進むだろうなあ。
説明をしてもらったとおりに、生卵をといてご飯にかけ、モツを少しのせて一口。一気にまろやかになった。卵のうまみとモツ煮の味噌の風味や味わい、相性がこんなにいいなんて。この組み合わせを考えた人、すごいな。ご飯の上のモツ煮がなくなるとまた少し足して食べる。とろとろ卵とモツ煮で、するする食べられてしまう。いやあ、止まらないねえ。……あ、モツの中に玉こんにゃくがひとつ混じっている。中まで茶色、味がしっかり染み込んでいるよ。
小鉢の冷奴は木綿豆腐。小さいけど、みっしりとしているうえに豆の風味も感じられる。大根の味噌汁はやさしい味わいだし、漬物は味の濃いモツ煮に合わせているのかあっさりめの味付け。脇役たちもいい仕事してるね……。
ちょっと量が多いかな、食べきれるかなと一瞬思ったけど、まったくの杞憂だった。
いい感じにおなかいっぱい、ごちそうさまでした。
やさしい声の女将さんと、人柄のよさそうな店主が笑顔で見送ってくれた。
今度は高山植物がよい時季に秋田駒ヶ岳に来よう。日数をかけて縦走するのも楽しそう。……もちろん帰りは田沢湖駅に下車して、このお店に立ち寄りたい。
駅前食堂
JR田沢湖駅の駅前に建つ食堂。秋田県産の豚モツをていねいに下処理し、独自のタレで煮込んだモツ煮が名物。
| 住所 | 秋田県仙北市田沢湖生保内男坂125 |
|---|---|
| TEL | 0187-43-0483 |
この記事に登場する山
プロフィール
西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)
初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。
下山メシのよろこび
登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。
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