東北の山々が一望の秋田駒ヶ岳。夢中でかき込む、絶品のモツ煮

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高山植物の宝庫、花の山として人気が高い秋田駒ヶ岳(あきたこまがたけ)。初秋の花と絶景を楽しみ、下山後に立ち寄った田沢湖駅前の食堂で箸が止まらなくなって……。

写真・文=西野淑子

初秋の花たちとみちのくの山々を眺めて

今年の夏は東北の山へいくつか足を運んだ。

秋田駒ヶ岳を訪れたのは8月上旬。高山植物が楽しめる「花の名山」だが、訪れたときはすでに花が見頃の時季は過ぎ、ヤマハハコやハクサンシャジンなど、初秋の花が咲き始めていた。咲き終わって綿毛になり始めているチングルマをあちこちで見かけ、満開のときに来たかったなぁ、とため息。

男岳への稜線から女岳、小岳方面
男岳への稜線から女岳、小岳方面を望む。遠方に早池峰山が見えた

それでも天気に恵まれ、気持ちよく歩くことができた。八合目の登山口から男女岳(おなめだけ)をめざし、横岳(よこだけ)、焼森(やけもり)と周回するコース。天気がとてもよかったので男岳にも立ち寄った。山頂は360度の展望。2週間前に登った鳥海山(ちょうかいさん)が眺められたし、岩手山(いわてさん)、早池峰山(はやちねさん)など登ってみたい東北の山々も見渡せた。花の見頃は過ぎていたとはいえ、焼森周辺ではコマクサにも出合えた。うれしい。

タテヤマリンドウ
登山道沿いにタテヤマリンドウがたくさん咲いていた
男女岳山頂から望む田沢湖
男女岳山頂から田沢湖方面を望む

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム:3時間5分
行程:駒ヶ岳八合目バス停・・・男岳・・・男女岳・・・横岳・・・焼森・・・駒ヶ岳八合目
総歩行距離:約6,400m
累積標高差:上り 約581m 下り 約581m
コース定数:14

コクのある味噌の風味と柔らかなモツ。卵かけご飯にのせれば……

駒ヶ岳八合目バス停から路線バスで田沢湖駅へ向かう。

田沢湖駅前のロータリーを囲むように飲食店や土産物店が並んでいる。秋田のグルメといえばなんだろう。きりたんぽ?稲庭うどん? なにを食べて帰ろうかな、なにが食べたいかな。

……駅舎のすぐ脇の店に目が止まった。「駅前食堂」だって。なんて直球すぎる店名。店の入口にメニューが貼ってあるので見てみる。モツ煮定食の写真が誘いかけてくる。おいしそうなモツ煮の写真におなかがぐうぅっと鳴った気がして、お店にいそいそと入る。

田沢湖駅前ロータリーに立つ「駅前食堂」
田沢湖駅前ロータリーに立つ、こぢんまりとした店構え

広々とした店内、入口近くのテーブル席に腰掛けて、改めてメニューを見る。

モツ煮定食などいくつかの定食、キーマカレー、丼もの、ご当地名物の稲庭うどんもある。……ああでも今回は初志貫徹、最初に気になったモツ煮定食を注文した。

料理を待ちながら、テーブルに置いてあった、お店が紹介されている新聞記事を読む。秋田県産の豚モツを、秋田県産みそや八丁味噌、しょうゆなどを使ったタレで煮込んだモツ煮は、店主が考案したこのお店の看板メニューなのだそう。なるほど。

駅前食堂の店内
広々とした店内、木のイスとテーブルがいい感じ

新聞記事を読み終えたところで、モツ煮定食が到着。白飯、モツ煮、味噌汁、お漬物、小鉢の冷奴、生卵。

「モツ煮は味が濃いので、ご飯に卵をかけて、モツをのせながら食べてください」と女将さんがやさしい声で説明してくれる。

駅前食堂のモツ煮定食
モツ煮定食。ご飯と味噌汁、小鉢、漬物と生卵がつく(ご飯は少なめでオーダー)

まずモツ煮を一口。……味が濃いというより濃厚、味噌のコクが強く感じられるね。ふわっと生姜の香りがするのも、そそられるなあ。モツは臭みがなく、やわらかくてふるふるとした食感。これはご飯にも合うのはもちろん、ビールや日本酒も進むだろうなあ。

丹沢山塊の日本酒
つややかなモツ煮、味のしみた玉こんにゃくの姿も

説明をしてもらったとおりに、生卵をといてご飯にかけ、モツを少しのせて一口。一気にまろやかになった。卵のうまみとモツ煮の味噌の風味や味わい、相性がこんなにいいなんて。この組み合わせを考えた人、すごいな。ご飯の上のモツ煮がなくなるとまた少し足して食べる。とろとろ卵とモツ煮で、するする食べられてしまう。いやあ、止まらないねえ。……あ、モツの中に玉こんにゃくがひとつ混じっている。中まで茶色、味がしっかり染み込んでいるよ。

卵かけご飯の上にモツ煮
おすすめに従い、卵かけご飯の上にモツ煮を乗せて食べる

小鉢の冷奴は木綿豆腐。小さいけど、みっしりとしているうえに豆の風味も感じられる。大根の味噌汁はやさしい味わいだし、漬物は味の濃いモツ煮に合わせているのかあっさりめの味付け。脇役たちもいい仕事してるね……。

ちょっと量が多いかな、食べきれるかなと一瞬思ったけど、まったくの杞憂だった。

いい感じにおなかいっぱい、ごちそうさまでした。

やさしい声の女将さんと、人柄のよさそうな店主が笑顔で見送ってくれた。

今度は高山植物がよい時季に秋田駒ヶ岳に来よう。日数をかけて縦走するのも楽しそう。……もちろん帰りは田沢湖駅に下車して、このお店に立ち寄りたい。

駅前食堂

駅前食堂

JR田沢湖駅の駅前に建つ食堂。秋田県産の豚モツをていねいに下処理し、独自のタレで煮込んだモツ煮が名物。

住所 秋田県仙北市田沢湖生保内男坂125
TEL 0187-43-0483

この記事に登場する山

秋田県 / 奥羽山脈北部

秋田駒ヶ岳・男女岳 標高 1,637m

 秋田駒ヶ岳は、男女岳(おなめだけ・1637m)、男岳(おだけ・1623m)、女岳(めだけ・1512m)の総称で、十和田八幡平国立公園の南端に位置する、北東北の名峰のひとつである。  春先の山肌に残る駒形の雪が、ふもとの村人の農作業の目安となり、昔から「だけ(岳)」と呼ばれ親しまれてきた。山越えの途中で倒れて死んだ馬にちなむ伝承もあり、駒ヶ岳の名で呼ばれるようになった。  古くからある中生保内からの道は、今はさびれているものの、白滝、金十郎長根、五百羅漢などの名称が残る、かつてのメインコースである。今は8合目(1310m)までバス利用(バス運行日はマイカー乗入禁止)が主流だ。このコースは国見温泉からのコースとともに、多くの登山者で賑わう。冬は田沢湖国際スキー場と田沢湖高原リフトが利用可能。  JR田沢湖駅前から、駒ヶ岳8合目行バスで1時間15分、避難小屋を兼ねた休憩所のある駐車場に着く。ここから1時間30分で男女岳、1時間20分で男岳に至る。女岳への道も2本ほどあるが、足場はよくない。ここから横岳、湯森山、笹森山、駒ヶ岳8合目へと回遊もできる。乳頭山、乳頭温泉郷、岩手側の国見温泉への道も整っている。  避難小屋の裏から乳頭山への縦走コースが始まっていて、男岳と横岳を結ぶ稜線上に出る。この辺りは遅くまで雪渓が残るときがある。稜線上の分岐から東に進むとすぐ横岳だが、ここからは国見温泉への道が分かれている。西側は昭和45年に突然噴火した女岳だが、今は白い水蒸気が立ち昇るだけだ。ここからは火山礫の幅広い尾根を北東に進む。付近はコマクサの群生地で、保護柵が作られている。  砂礫地の中を過ぎると道はハイマツの中を通るようになり、緑一色のジュウタンの上をのんびり登ると、やがて平坦で眺望のよい湯森山に着く。ここから笹森山を経由して乳頭温泉郷、その途中の分岐点から8合目の駐車場への道があるので、エスケープルートとしても活用できる。湯森山からさらに笊森山を通り千沼ガ原の高層湿原を眺めて乳頭山へ至る。千沼ガ原への往復を含め、駒ヶ岳から4時間30分の行程。  なんといっても、ここは高山植物の宝庫である。年々数が減っているコマクサは7月5日~10日ごろが見頃となり、シャクナゲやニッコウキスゲは7月20日すぎに美を競う。ハクサンチドリ、エゾツツジ、ヒナザクラ、イワカガミ、チングルマ、ミヤマダイコンソウ、ミヤマキンバイなど、まさに百花繚乱の趣がある。

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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