酷暑の丹沢で沢登り。バスを待つ間のちょいと一杯の幸せと、空腹を直撃する刺激的な一皿

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夏山の楽しみのひとつが沢登り。丹沢・葛葉川本谷で清流と緑を満喫し、バス停すぐそばのレストハウスで一息。そこで出会ったのは空腹を直撃する刺激的な一皿だった。

写真・文=西野淑子

沢で涼をとったのも束の間。汗だくのツメと下山

とにかく暑い。そうだ、沢へ行こうと思い立った。

向かった先は丹沢、葛葉川本谷(くずはがわほんだに)。沢登りの入門コースとして知られる沢。遡行時間はそれほど長くなく、小滝が多く、適度に水量があり、詰め上がれば歩きやすい登山道に出られる、私にとっては「ちょうどよく楽しめる、好きな沢」のひとつだ。夏の丹沢はヤマビルが心配ではあるのだが、幸運なことにこの沢を楽しんでヒルにやられたことがほとんどない。

清流に足を浸けながら歩き、わざと水を浴びながら小滝を登る。なんて気持ちいいんだろう、やっぱり夏は沢だな。

葛葉川本谷
小滝が連続して楽しい葛葉川本谷

……と思ったのは沢の中にいたときだけだった。詰め上がり、登山道に出たところですでに暑く、汗だくになりながら三ノ塔尾根を下る。毎度のことながら長い下り道だ。心を無にして足を動かし続けた。

三ノ塔尾根
三ノ塔尾根は登山道が整備されている

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム:5時間
行程:葛葉ノ泉・・・横向ノ滝・・・富士形ノ滝・・・三ノ塔尾根・・・大倉バス停
総歩行距離:約7,000m
累積標高差:上り 約762m 下り 約912m
コース定数:19

辛さとうまみが染みる焼きチーズカレー

大倉バス停に到着。きれいな公衆トイレで着替えてやっと落ち着いた。

大倉で登山を終了するときは、バスを待ちながらバス停前のレストハウス「Yama cafe丹沢」で一息つくのが定番コースだ。今回も迷わず店内に入る。ガラス張りで明るい店内、テーブル席とカウンターがある。今日はテーブル席に腰掛ける。まずはがんばった自分にごほうび。

Yama cafe丹沢
ロータリーの一角に建つとんがり屋根の建物
メニュー看板
店頭に手描きのメニュー看板が立てられていた
ama cafe丹沢の店内
ガラス張りの店内からはバス停も眺められる

「すみません、生ビールのレギュラーひとつ、焼き鳥もお願いします」

生ビールは大、中、レギュラーの3サイズ。今日は暑くてだいぶ消耗しているし、大を一気飲みしたら一気に酔いが回って行動不能になるかもしれないよ。ちょっと悩んで、今回はレギュラーにした(弱気か……)。

生ビールがすぐに出てきた。うれしいなあ。今日もおつかれさま、かんぱあい。

生ビール
生ビール(レギュラー)、いただきます

……ああ、染み渡る。やっぱり夏はビールですなぁ。レギュラーではやっぱり足りなかっただろうか。

ちょっと落ち着いたらお腹がすいてきた。以前山仲間と来たときにおでんを頼んだのだが、おいしくて余計にビールを飲んでしまったのを思い出す。今日はなにを食べようかな、おすすめは「焼きチーズカレー」だって。いいじゃないか。

「すみません、焼きチーズカレーお願いします」

料理を待ちながら、あらためてメニューを見る。 へえ、プロテインドリンクがあるよ。それにしてもお酒の種類が多いぞ。丹沢山塊の日本酒? 「丹沢馬鹿尾根」、この店限定のお酒もあるんだね。利き酒セットもあるのか! それは惹かれるな……。

丹沢山塊の日本酒
丹沢山塊の日本酒、一升瓶のラベルがどれもすてき

待っているうちに焼き鳥到着。2本で150円、アルコール類をオーダーすると、2本で100円となる。塩とタレが選べるが、今回は塩にした。

焼き鳥を一口、ビールを一口。はぁぁ、おいしい。下山後にちょこっと飲むためのおつまみとして、この店の「焼き鳥2本」は絶妙な量だといつも思う。……ああ、ビールなくなっちゃうな、どうしようかな。

焼き鳥と生ビール
焼き鳥と生ビールは裏切らない組み合わせ

「お待たせしました、焼きチーズカレーです」

グラタン皿に盛りつけられた、アツアツのカレーとご飯をまず一口。ちょうどいい辛さとうまみ。これまた染み渡るわね。熱くてじわっと汗をかくけど、それが心地よい。続いてとろけるチーズのかかった部分を一口。やっぱりカレーとチーズって相性がいいよねえ……というか、この焼きチーズカレー、ビールにも合うよね。

焼きチーズカレー、焼き鳥、生ビール
今日のごちそうたち。焼きチーズカレー、焼き鳥、生ビール

「すみません、ビールください」

到着したビールを一口。ほらやっぱり、この辛さと濃さがビールに合わないわけがないんだよ。幸せな気持ちでカレーを食べ進め、ビールを飲む。

…はぁ、お腹いっぱい、ごちそうさまでした。

バス停の前に、居心地がよいすてきなお店があるのは安心で心強い。今まではバス待ちの時間にちょこっと立ち寄る感じだったけど、次に来るときはもう少しゆっくり、食べ物とお酒を楽しんでもいいよねえ。

Yama cafe 丹沢

Yama cafe 丹沢

大倉バス停の前に立つレストハウス。うどんやカレー、ピザなどの軽食のほか、デザート、ドリンクも豊富にそろう。アウトドアグッズなども販売。

住所 神奈川県秦野市堀山下1487-1
TEL 0463-71-6767

この記事に登場する山

神奈川県 / 丹沢山塊

塔ノ岳 標高 1,491m

 表丹沢の中心に位置し、丹沢で最も人気のある山。秦野(はだの)市、山北町、清川村の境にある。昔は山頂一帯がうっそうとしたブナ林であったというが、今は全くその面影もない明るい山頂になっている。天気のよい休日ともなれば、多くの登山者が赤土と石ころの山頂で、車座になって休んだり昼食をとっているが、これなど塔ノ岳山頂の見慣れた風景である。  昔は山頂の北側に尊仏岩という高さ3丈、約9mほどの大岩があったと記録されている。そのためこの山は尊仏山とか孫仏山とも呼ばれた。山麓の人々は尊仏の大岩を「お塔」と呼んで信仰の対象とし、特に雨乞いの神としてあがめていた。そのためこの山を「お塔の山」と呼び、それが「塔ノ岳」になったという。その意味からすると、一般に使われている塔ヶ岳より、塔ノ岳が正しいことになる。  塔ノ岳のお祭りは毎年5月15日に行われ、近在の農民が登ってきては大いに賑わい、お塔の大岩の下の土を掘っては田畑にまいて豊作を祈願したという。このお塔の大岩は大正12年(1923)の関東大震災のときに、北西の大金沢に崩れ落ちてしまったという。  また祭りの日の山頂は賭場が開帳され、関東一円から親分、子分が登ってきたという。そしてこの賭場は、なんと第2次大戦後の昭和25年ごろまで続いていたというから驚きである。  山頂には尊仏岩にちなんだ尊仏山荘があり、通年営業している。山頂からの展望はすばらしく、丹沢山塊の全貌が眺められ、さらに富士山から南アルプスにかけての大展望、また相模湾と伊豆の島々など欲しいままの展望が得られる。  登山コースは各方面から整備されているが、その代表に大倉尾根経由のコースがある。小田急線渋沢駅からバス大倉下車で3時間で塔ノ岳に達するが、このコースはあまりにも多くの人に歩かれているため、赤土の登山道が崩れたり、深い堀割状になってしまい、そのため登山道全体が階段状に補修されている。なるべくなら塔ノ岳へは、大倉尾根以外のコースを利用することをお勧めしたい。  まず、表尾根は秦野駅からバスでヤビツ峠下車、三ノ塔を経て4時間で塔ノ岳。政治郎尾根は大倉から戸沢出合を経て表尾根の行者岳へ出る。大倉から行者岳まで3時間30分、行者岳から表尾根を経て塔ノ岳まで1時間20分、合計約5時間。訓練所尾根コースは大倉から四十八瀬川沿いの林道を歩き、二股の少し先の尾根を経てブナの美しい小丸へ約3時間30分、小丸から塔ノ岳へは40分で合計4時間強。このほかに玄倉からユーシンを経る静かなコースもある。

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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