石切場の歴史的価値を伝え、地域を元気に。金谷ストーンコミュニティー

■日本山岳遺産候補地を募集中！

「地球の裏側からでも『ここを訪ねたい』と思われる場所になればいいなと思っています。実際、外国人観光客も多い。それくらい魅力のある山なんです」

千葉県の鋸山（のこぎりやま）について、「金谷ストーンコミュニティー」代表の鈴木裕士さんは愛情をもって語る。会は2007年、麓の富津市金谷地区の住民有志が町おこしを目的に設立。江戸から昭和期にかけて「房州石」を採る石切場だった鋸山の歴史や豊かな自然を地域資源に、イベント企画や商品開発を行なってきた。

鋸山の山頂周辺には、石切場跡が多数点在する。切り立った岩肌からスリリングな景色が望める人気の展望台「地獄のぞき」も採石によって形づくられた。鈴木さんは「跡地は本当に美しくて、建築家からもその造形美が絶賛されています。切り出した石だけでなく、切り跡まで整然としているのはなんとも日本の職人らしいですよね」と話す。

会は2009年から、石の研究者を招いて鋸山の歴史を調査・研究し、毎年シンポジウムを開いて成果を発表している。たとえば、鋸山の石が皇居の造営に使われたという口伝について、宮内庁に残る資料から記述を見つけ出して裏付けた。継続的な調査などが評価され、文化庁の「日本遺産」候補地域に選出。認定に向け、市や隣の鋸南町とともにPRに努めている。

歴史調査とともに、続けているのが登山道整備だ。2019年には台風直撃によって甚大な被害を受け、一時、3つの登山道はすべて歩けない状態になった。そこで「鋸山復興プロジェクト」を立ち上げ、倒木を撤去し、クラウドファンディングで支援を募った。全国からの多くの協力を得て早い復旧を実現した。

「この山や地域が好きなんです。過疎化に少しでもあらがって100年後も住民が幸せに暮らし、たくさんの人が訪れてくれる場所であってほしい」。そう語る鈴木さんの家は、父の代まで石材店を営んだ。「地域をなんとかして元気にしたい」との強い思いが声色から垣間見える。

★日本山岳遺産認定地 詳細：鋸山［ 千葉県 ］金谷ストーンコミュニティー（2020年）

（山と溪谷2022年12月号より転載）