「日の出」〜燦爛と山を照らす|山の写真撮影術(10)
一日の始まりを告げる日の出。山では雲海などと相まってより神秘的な姿となる。山での日の出のまばゆさを撮影する際のポイントを解説します。
文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭
年末年始を挟むこの季節、山頂で初日の出を拝む人も多いだろう。山で望む日の出は厳かで、誰しもがその感動を写し取りたいと思う瞬間だ。
日の出撮影の第一歩は、日の出時刻の30分前に準備を完了しておくこと。寒くて凍える時間帯だが太陽が昇る前に空がきれいに焼けることが少なくない。空が白む前であれば、町や星のあかりなどの組み合わせでの撮影もできるはずだ。
朝焼けが一段落してから太陽が昇るまでに少しだけ時間と心の余裕が生まれるもの。その間に電池を満充電のものに交換したい。極寒下では電池消耗が予想以上に激しいからだ。また、美しく焼ける瞬間を撮り逃さぬように、日の出の方向にばかり気をとられず、反対側の景色にも目を配ろう。
なお、日の出撮影の露出は難しいが、輝く太陽を避け、その近くの空の部分に合わせるといい。
【作例1】雲海ときらめく光芒
夏の燕岳。みごとな雲海がひろがる。その彼方から日の出。雲海を大きく入れて撮影してから、あえて少し引いた位置に移動。人物を入れて写した
①光芒でまぶしさを強調
昇り始めた太陽。ギラギラと光芒が伸びていると、まぶしさというものはよりいっそう強調される。光芒をだすためには、一般的には絞りを深くして撮影することが大事である。
②空は暗めで太陽を生かす
写真の多くの面積を空にゆだねた。実際に見えている状態よりは、ずいぶんアンダー側となる露出である。それでも、明るすぎないことで雲海や太陽の明るさが一段と生きてくる。
③シルエットで人を写す
真っ黒な地面から真っ黒な人が立ち上がる。向こうにある雲海の明るさが、確固たるシルエットを生み出してくれる。全体が暗いので、地面には必要以上の面積は不要だろう。
カメラ:シグマ SD15
レンズ:DC 17-70mm F2.8-4.5(17mmで撮影、35mm換算で28mm)
ISO:100
絞り値:f18 シャッタースピード:1/250秒
備考:マニュアル撮影、ホワイトバランスは晴れ
【作例2】空を染める初日の出
丹沢・塔ノ岳からの初日の出。きれいに焼けた。島や半島が海にも変化を生んでいる。太陽の右上の赤く染まった空の露出を測定した
①昇り始めの太陽を逃すな
太陽の昇る速度は実に速い。多めに撮影できるよう準備しておこう。ぴかりとまばゆい輝きが見え始めたら、多めにシャッターを切ること。昇り切るまでが勝負どころだ。
②露出は空に合わす
太陽の露出はオーバーだがそれでよい。もし太陽に露出を合わせると、他の部分はみな暗くなりすぎる。露出を合わせるなら、この空の部分をしっかり測定して撮影しよう。
③海で影部に変化を
日の出を撮る場合、太陽の当たらない部分は暗く写る。ここではほのかに朝日を反射する相模湾を大きく取り入れることで、画面下部の黒くつぶれた面積が多くなりすぎないようにした。
カメラ:シグマ SD14
レンズ:DC 18-125mm F3.5-5.6(125mmで撮影、35mm換算で212mm)
ISO:100
絞り値:f8 シャッタースピード:1/100秒
備考:マニュアル撮影、ホワイトバランスは晴れ
コラム
明暗が分かれる時間
日の出の時間帯は、強烈な斜光線により、山の明部暗部がすっぱりと分かれる。山ならではの爽快な気分を、写真でシャープに表現できる時間である。
作例では、低い位置からの日の出を画面に取り込んだ。太陽をより明るく表現するため光芒を出す。あまり難しいテクニックではなく、撮影時に大きく絞り込むことで光が放射状にきらめく描写となる。なおファインダーで直接太陽をのぞくのは避けること。目を傷める。
シルエットは漆黒に沈めた。中途半端に色がつかぬよう、真っ黒くつぶすことで、より力強さが出てくる。デジタルになってから、この暗部をわざわざ明るくして、色を再現する風潮があるが、暗く落ちたままの力強さを感じてもらいたい。
(山と溪谷2023年1月号より転載)
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プロフィール
三宅 岳さん(山岳写真家)
みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。
山の写真撮影術
『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。