年の初めは安全登山を祈願して 佐賀県・土器山で「かわらけ祈願」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

年明け最初の初登山。1年の安全登山を祈願する気持ちも引き締まるものですが、佐賀県・土器山には「かわらけ祈願」という風習があり、さらに特別な安全祈願登山ができます。

 

仁比山地区から見る土器山

 

日本の難読山名の全国1位が、大分県の日田市と中津市の境にある、「一尺八寸山」です。「いっしゃくはっすんやま」と読みそうですが、何と「みおうやま」と読むそうです。

同じ九州の佐賀県の神埼にも、「土器山」と書いて地元では「かわらけやま」と呼ばれる山があります。山麓には、行基菩薩が721年に開山したとされている、歴史ある土器山八天神社があります。

神社の説明板にはこのようなことが書かれています。

『土器山には、巨岩巨石が多く山岳信仰の霊山で山全体を御神体とし、上宮の巨石は磐境(いわさか)であり、古くは付近一帯の立ち入りも禁止されていた。

八天神社には火伏の神が祀られ、天狗の棲む山と恐れ崇められていた。

立願や祈祷のため土器を上宮御神体岩の元に納める風習があり、土器山(又は、かわらけやま)と呼ばれる由来となった。』

 

モデルコース:仁比山公園~八天神社~土器山(往復)

土器山地図

コースタイム:2時間25分

⇒土器山周辺の地図


 

私が、年の初めにこの山に足が向くのは、安全登山のための「かわらけ祈願」です。古来からの風習が今も続いていて、八天神社社務所には願い事を書くための小さな素焼きの土器が用意されています。家族の健康と安全登山を願い、今年も登ってみます。

 

土器山八天神社社務所

 

神埼の仁比山公園の駐車場に車を停めると、大きな橋が目に付きます。この橋は、公園の北側にある縁結びの仁比山神社と、八天神社との間に流れる城原川に架けられた部材同士を三角につなぎ合わせた、日本初のトラス構造の橋梁として知られる木製の愛逢橋(あいあいばし)です。その名の通り、渡れば素敵な出会いがあるという言い伝えがあり、そのご利益を求めて訪れる者も多いとか。

話をもとに戻しましょう。公園からに八天神社までは車道を歩きます。社務所で、ご祈願の初穂料を支払って、家族の健康と安全登山の願い事を書き込みます。

「かわらけ」に願い事を書き山頂の上宮に奉納する

 

境内には、「初丁」の丁石があります。丁石とは、1丁(ほぼ109m)ごとに立てられた道標の石のことだそうです。神社から上宮までは14丁の登拝道があると書かれていますから、14の丁石が立てられたはずなのでそれを探しながら登るのも良いかもしれません。

境内にある「初丁」の丁石

 

登山道は、風化した花崗岩のザラザラの道で、背の高さほどの深さにえぐれた場所もあり、巨大迷路に迷い込んだようなワクワク感が味わえます。八天山登山口の標識から、鳥居をくぐるとすぐに、深い溝の道になります。

道は岩が風化した深い溝状で、歩くのは面白くもあり、大変でもある

 

小さな板に「腹切岩」と書かれた、上部が平たい大岩を過ぎると、更に深い溝となって舟を漕ぐように左右に体を動かしながら進みます。やがて傾斜が緩むんで、中宮跡に付きます。社は朽ちていますが、花崗岩の巨岩には2体の磨崖仏が彫られて、十一丁の丁石が立っています。ベンチに座って休んでいると、どこからか修験者が吹く法螺貝でも聞こえてきそうです。

山中にある丁石を探すのも楽しい

 

途中には、ベンチ、ロングバランス、丸太橋などアスレチック施設のようなものがありますが、経年と道の荒廃で使いにくい状態です。

登山道にはアスレチックのような施設が点在(これはロングバランス。ただし痛みが激しい)

 

丸太橋を過ぎると、親不孝者が岩の下を通ると落ちかかると言われる親不孝岩があります。岩の上は抜群の展望で北に脊振山地、佐賀平野の向こうには雲仙岳や多良岳、耳納連山までが見渡せます。初日の出登山も多く、私もここから初日の出を拝んだこともあります。この先、左のあずまやを過ぎるとすぐに上宮に着きます。

南の展望が良い親不孝岩

 

花崗岩の大岩が積み重なった御神体岩の袂には小さな祠が祀られていて、諸願成就の願いが書かれた、たくさんの土器が納められています。私もお参りして土器を納めました。

山頂部の巨大な御神体岩

 

ここからさらに5分ほど登った場所が山頂です。数個の花崗岩に挟まれるようにベンチがある狭い場所です。日当たりのよい上宮のベンチで温かいコーヒーを飲みながら展望を楽しんだら、来た道を公園まで戻ります。

 

 

 

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

今がいい山、棚からひとつかみ

山はいつ訪れてもいいものですが、できるなら「旬」な時期に訪れたいもの。山の魅力を知り尽くした案内人が、今おすすめな山を本棚から探してお見せします。

編集部おすすめ記事