開発・盗掘の危機を乗り越えて未来へ。ユウパリコザクラの会

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、北海道・夕張岳で高山植物の保護などに取り組む「ユウパリコザクラの会」を紹介する。

取材・文=一ノ瀬伸、写真=ユウパリコザクラの会

■日本山岳遺産候補地を募集中!

シューパロ湖から望む夕張岳
シューパロ湖から望む夕張岳

ユウパリコザクラの会(2012年度認定)

Area:夕張岳
Main activity:高山植物の保護
Group profile:
夕張岳のスキー場開発計画の反対運動をきっかけに1989年に組織化。高山植物のパトロール、登山道整備、夕張岳ヒュッテの管理・運営などを担っている。会員は約130人。
https://yuparikozakura.org/

1988年、北海道中央部に位置する夕張岳で、巨大スキーリゾートの開発計画が明らかになった。ゲレンデ予定地の90%近くが道立公園の特別地域で、動植物への影響は必至だった。

「開発から自然を守ろう」。そう声を上げた登山愛好家や自然環境問題の有識者らが1989年、固有種の名前を冠した「ユウパリコザクラの会」を立ち上げた。

夕張岳の固有種、ユウパリコザクラ
夕張岳の固有種、ユウパリコザクラ

会は、開発による自然への影響を周知し、計画の撤回や自然保護を訴えた。粘り強い運動の結果、1996年に夕張岳の高山植物群落と蛇紋(じゃもん)岩メランジュ帯が国の天然記念物に指定。計画は頓挫した。

夕張岳には、ユウパリコザクラ、ユウバリソウなどの固有種が自生する。これらの高山植物は、前出の蛇紋岩メランジュという独特な地質が育んでいる。

「夕張岳は、札幌市街から車で2時間ほどの距離にありながら、手つかずの大自然が多く残っています。花の種類も多く、湿原など変化に富む登山道や、山頂からの景色も美しい。そんな自然を守り、後世に伝えることが会の趣旨です」

事務局長の菊地宏治さんは、山の魅力を誇らしげに語る。

山開きの6月、高山植物のパトロールをするメンバー
山開きの6月、高山植物のパトロールをするメンバー

会が四半世紀にわたり続けているのが、高山植物のパトロール。1990年代後半に相次いだ盗掘を受けて始まり、毎年10回近く実施。盗掘のほか、生育状況や踏み荒らしの有無を記録し、道へ報告する。

夕張岳ヒュッテの管理も担う。2007年の市の財政破綻後に一時解体が決まったが、会が建て替えを名乗り出た。旧小学校校舎の廃材を活用し、メンバー自らの手で山小屋を再建。現在も増築やメンテナンスを継続中で、登山シーズンには管理人も配置している。

「年間約2000人が登山に訪れる山なので、安全に楽しんでもらいたい。その思いがほとんどですね」(菊地さん)

今、登山者が楽しんでいる夕張岳の自然や風景は、会の活動がなければ失われていたと言っても過言ではないだろう。

小中学生を招いて登山や星空観察などを行なう交流会
小中学生を招いて登山や星空観察などを行なう交流会

★日本山岳遺産認定地 詳細:夕張岳[ 北海道 ]ユウパリコザクラの会(2012年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

山と溪谷2023年3月号より転載)

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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