庄内の低山、金峯山・鎧ヶ峰・母狩山。展望と花々を楽しむ山歩き

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山形県・庄内平野の西側に連なる金峯山、鎧ヶ峰、母狩山。標高こそ低いものの、各所からは眼下に庄内平野、そして鳥海山、月山も望めます。展望と花々を楽しむ山歩きをご紹介しましょう。

写真・文=斎藤政広

櫛引からの山並み。左から母狩山、鎧ヶ峰、金峯山

櫛引からの山並み。左から母狩山、鎧ヶ峰、金峯山

庄内平野に立って周囲を眺めると、北に鳥海山があり、東にはゆったりと美しい月山が望めます。春から初夏にかけての時期、2つの山は残雪をつけて輝いています。庄内平野の西側には、双耳峰の母狩山(ほかりさん)から北へ、鎧ヶ峰(よろいがみね)、金峯山(きんぽうざん)と山並みが続いて平野部に落ち込んでいきます。鳥海山、月山が眺められる尾根筋に立つと、山への信仰心が生まれるのも自然のような気がします。

登山起点は、金峯山神社中ノ宮。ここまではマイカーやタクシーを利用しますが、趣きのある杉並木の参道をたどって歩いてくるのもおすすめです。準備を整えて出発。中ノ宮の前を通り、参道に入っていきます。

起点となる金峯山神社中ノ宮

起点となる金峯山神社中ノ宮


途中、切り通しになっている箇所を進みます。山頂までには、八景台など展望の開けた休憩ポイントがあり、南方面には双耳峰の母狩山が望めます。山頂間近、湯田川・母狩山方面や展望広場への分岐を見て、ひとまず石畳の道を直進、金峯山神社に向かいましょう。

切り通しのある参道

切り通しのある参道

山頂部に鎮座する金峯山神社

山頂部に鎮座する金峯山神社


その後、また分岐に戻って山頂の展望広場へ。鶴岡の市内が一望でき、眼下には水田が広がり、天気がよければ遠くに美しい鳥海山が望めます。

広々とした展望広場でひと休み

広々とした展望広場でひと休み


展望を楽しんだ後は、湯田川方面への分岐に戻り、鎧ヶ峰を目指します。かたわらにユキザサなどが顔を出す、なだらかなトラバース道をたどり、ブナの木々を眺めながら気持ちよく歩を進めましょう。

湯田川・母狩山方面へのトラバース道

湯田川・母狩山方面へのトラバース道


金峯山から鎧ヶ峰、母狩山への道は概ねブナ林の気持ちのよい尾根道が続き、鎧ヶ峰付近からは美しい月山が望めます。

鎧ヶ峰付近からの眺望。月山が美しい

鎧ヶ峰付近からの眺望。月山が美しい


鎧ヶ峰から母狩山へはさらに往復3時間近く要し、かなりの長丁場となります。時間と体力に余力のない場合は無理せず、鎧ヶ峰から引き返しましょう。鎧ヶ峰まででも十分楽しめます。

さらにその先、母狩山北斜面からの眺望。鎧ヶ峰から金峯山の山並みと、奥に鶴岡市街

さらにその先、母狩山北斜面からの眺望。
鎧ヶ峰から金峯山の山並みと、奥に鶴岡市街


さてここからは、春から新緑の葉が大きくなる初夏の時期、道中に咲く可愛らしい東北独特の花々をご紹介しましょう。

オオバキスミレ

オオバキスミレ

サワハコベ

サワハコベ

オオバキスミレは主に日本海側の多雪地に生育します。日本の特産種で種類も多く、大きな葉に特徴があらわれます。ときに群落で咲いています。サワハコベは林下のやや湿った所に咲いています。地味ですが、近づいてのぞいてみると愛らしい姿です。

チゴユリ

チゴユリ

ユキザサ

ユキザサ

チゴユリの和名は稚児ユリで、その姿が恥じらいを持って可愛らしく下向きに咲いているところから由来しています。やや下向きに林下で咲く花が多いのですが、ここでは上向きに咲いている花に登場願いました。よく見てやってください。

ユキザサは山地の林の中に生える多年草で、ブナの山道の腐葉土が沢山あるようなやや湿り気のある斜面などで見かけます。出会えた喜びに応えてくれるようにやさしく迎えてくれる、白い花です。

ウゴツクバネウツギ

ウゴツクバネウツギ

ムラサキヤシオ

ムラサキヤシオ

名前の頭に秋田の旧国名、「羽後」がつくウゴツクバネウツギは、東北地方から新潟県にかけての日本海側に分布しています。そのため、アルプスや関東方面が中心の植物図鑑には出てないことが多いのですが、牧野日本植物図鑑には載っていて、ようやくここで出会えました。

ムラサキヤシオはブナ林の林下に点々と咲いて、よきハイライトになっています。春から初夏の時期には、森の中の吸蜜源としてチョウやハチたちがよく吸蜜に訪れています。

最後に、山歩きで出会う2種類のチョウをご紹介しましょう。

ウスバシロチョウ

ウスバシロチョウ

サカハチチョウ

サカハチチョウ

この時期、春の女神ギフチョウは姿を消し、かわって登場するのが、年に一回の発生スタイルのウスバシロチョウです。太陽が大好きなチョウで、アゲハチョウの仲間なのでウスバアゲハと呼ばれることもあります。山麓でよく見られます。

サカハチチョウは、イラクサの仲間を食草にしているタテハチョウ科のチョウで、暖地では年に3回ほど発生します。東北地方では年2回の発生でしょう。季節型があり、春型と夏型で羽のデザインが大きく異なります。写真は春型のデザイン文様。 白い花などに吸蜜に訪れている時は、ことのほか美しさが際立ちます。

MAP

コースタイム:(鎧ヶ峰往復)約4時間15分 (母狩山往復)約7時間5分

プロフィール

斎藤政広(さいとう・まさひろ) 

横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。

今がいい山、棚からひとつかみ

山はいつ訪れてもいいものですが、できるなら「旬」な時期に訪れたいもの。山の魅力を知り尽くした案内人が、今おすすめな山を本棚から探してお見せします。

編集部おすすめ記事