銀色に光る背中をもつゴリラが、モテと信頼を集める理由

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

すべての生物にとって「生きること」は結構大変だけど、それだけで素晴らしいこと。 ザトウクジラは、なぜソングを歌うのか? ヤギの交尾が一瞬で終わる切実な理由とは? ヒトはもともと難産になりやすい? 求愛の悲喜こもごもから交尾の驚くべき工夫、妊娠・出産の不思議、環境に適応した多様な子育ての方法まで、めちゃくちゃ面白くて感動する動物の繁殖のはなしを集めた『クジラの歌を聴け』(山と溪谷社)が発刊されました。本書から、一部を抜粋して紹介します。

 

 

名前の由来は「毛深い部族」

日本では数年前、動物園のオスゴリラの〝イケメン〞ぶりが脚光を浴びた。火付け役となったのは、愛知県名古屋市にある東山動植物園で飼育されているシャバーニという名のオスゴリラである。

SNSにアップされたシャバーニの写真が「男前だ」「格好いい!」と話題になると、一気に拡散され、女性ファンが東山動植物園に殺到する事態になった。私もテレビやネットニュースでシャバーニを見たことがあるが、渋いイケメンぶりに驚いた。

今風のイケメンというより、昭和の映画スターのような彫りの深い顔立ちに、優しい眼差し、加えて筋骨隆々のたくましい体つきにクールな佇まいとくれば、それは人気が出て当たり前だ。

ゴリラは、霊長目ヒト科ゴリラ属に分類される。分類名のゴリラは、ギリシャ語の「毛深い部族」という意味のgorillaiに由来する。

人間のゲノムの塩基配列と類似性が高いといわれるチンパンジーであるが、人類の祖先とチンパンジーの祖先は、約1000万年前にゴリラと同じ共通祖先をもっていたことが知られている。そのためか、人類の遺伝子の15%はチンパンジーよりもゴリラに近いという研究成果も報告されている。

ゴリラは概して、オスがメスよりも体サイズの大きい性的二型を示す。オスの体長は約180センチメートル前後でメスは160センチメートル前後、体重に至ってはオスは180キログラムにまでなるのに対し、メスは100キログラム前後であり、オスはメスの2倍になる種もいる。

 

シルバーバックの威力

オスゴリラは、身体の大きさだけでなく、生後13年ごろから背中の体毛が銀白色となり、これは「シルバーバック」と呼ばれる。成熟したオスの象徴として茶色から黒色の体毛の中でひときわ目立つ背中となり、生後18年ごろには後頭部が突出する性的二型も現れ、求愛アピールに使われる。

ゴリラの求愛行動はさまざまで、シルバーバックや後頭部の張り出しを見せつけ、「男は黙って背中で語れ」タイプ以外にも、ドラミング(胸をたたく)、鳴き声を発する、自分の糞を投げるなども知られている。

ゴリラの場合、メスからも求愛アピールすることが知られており、オスに近づいて顔を覗いたり、身体を寄せたりして意中のオスにアピールする。

シルバーバックは、ゴリラの求愛アピールや、オスの象徴を語るうえで欠かせないものであるとともに、別のアピールもある。より大きく立派なオスの背中は、子どもたちの遊び場にもなるという。

ゴリラの育児は、生後1年までは母親が一人で担うが、それを過ぎると、群れの中の別のメスと共に、オスも積極的に育児やしつけに参加するようになる。

そのため、立派なシルバーバックをもつオスは、イケメンでもあり、イクメンにもなる。さらに、シルバーバックは、群れの統制をとるために、仲間同士のいざこざの仲裁に入ったり、他の群れから仲間を守るために戦ったりと、理想のリーダー的存在に成長する。

体毛が成熟にともない白くなる現象は、他の動物でも見られる。たとえば高齢のイヌやラッコなど、雌雄関係なく顔の毛が白くなり、一目で老齢個体だとわかるようになる。

これに対してゴリラのシルバーバックは、性的に成熟したオスの背中だけが銀白色になるため、おそらく男性ホルモン(テストステロンなど)が関与していると考えられる。オスゴリラが二次的性徴に達し、男性ホルモンが分泌されると、背中の体毛からメラニン色素が失われて見事な銀白色になる。

「なぜ背中だけなのか?」というと、おそらく最も面積の大きい目立つ部位だからだと推測される。森林や草原で目立つためには、身体の広い部分や高い所を目立たせることが一番効率的である。

広い背中が銀白色になっていれば、身体の大きさも誇示でき、オスとしての威厳もアピールできる。実に理に叶っている。

 

※本記事は、『クジラの歌を聴け 動物が生命をつなぐ驚異のしくみ』(山と溪谷社)を一部抜粋したものです。

 

『クジラの歌を聴け 動物が生命をつなぐ驚異のしくみ』

全員、生き残るための工夫がすご過ぎる

イルカはあえて逆子で産む!
ウマの“たまらん顔”は興奮の証!
ラッコの愛情表現は痛すぎる!
ヤギの交尾は一瞬で終わる!

海獣学者が解きあかす すばらしき繁殖戦略


『クジラの歌を聴け 動物が生命をつなぐ驚異のしくみ』
著:田島 木綿子
価格:1760円(税込)​

Amazonで購入 楽天で購入

 

 

note「ヤマケイの本」

山と溪谷社の一般書編集者が、新刊・既刊の紹介と共に、著者インタビューや本に入りきらなかったコンテンツ、スピンオフ企画など、本にまつわる楽しいあれこれをお届けします。

クジラの歌を聴け

ザトウクジラは、なぜソングを歌うのか? ヤギの交尾が一瞬で終わる切実な理由とは? ヒトはもともと難産になりやすい? 求愛の悲喜こもごもから交尾の驚くべき工夫、妊娠・出産の不思議、環境に適応した多様な子育ての方法まで、めちゃくちゃ面白くて感動する動物の繁殖のはなしを集めた『クジラの歌を聴け』(山と溪谷社)が発刊された。本書から、一部を抜粋して紹介します。

編集部おすすめ記事