阿蘇根子岳でヤマボウシの花と展望を楽しむ
山麓には牧場が広がりなだらかながら、山頂へ近づくと急峻な岩が連なる根子岳。阿蘇山を構成する阿蘇五岳の一座です。
写真・文=池田浩伸
※2023年7月19日現在、大雨の影響で崩落の恐れがあるため、大戸尾根ルートは通行不可となっています。最新情報は熊本県HPでご確認ください。https://www.pref.kumamoto.jp/site/kenhoku/178909.html
ずいぶん昔、山を始めたころに読んだ一冊の本に阿蘇山のことがこう書かれていました。
「『阿蘇』の山名は、アイヌ語の『アソオマイ(火を噴く山)』に由来すると言われている。太古には、丸い形の山容の大きく高い山だったが大規模な噴火活動によって九州の半分ほどが形成されたと推定される。大噴火によって中央部が陥没したために大火口原が生まれ、現在ではここに多くの人達の営みがある。
巨大カルデラを標高1000m前後の外輪山が囲み、そのカルデラの中央を二分して東西に走った連峰が阿蘇五岳であり、中岳は今もなお絶え間なく噴煙を上げている。雄大なスケールと美観から、この典型的な複式火山はグレートアソの名前が世界的になった」
阿蘇は、九州中央部にそびえる世界最大級の火山であることは知っていましたが、この本を読んでからは、いつか登りたい山から、すぐにでも登りたい山に気持ちが動きました。阿蘇五岳が広大な草原にそびえ立つ山容は、釈迦涅槃像に例えられる事もその時に知りました。
何度か登っているうちに、釈迦涅槃像を遠望すると、お釈迦様の顔の部分にあたる険しい鋸刃のような尾根の連なりと、天を突き刺す鉾のように屹立した天狗峰の特徴的な姿の根子岳が、気になる山となりました。
険しい山容は、阿蘇山の中で最も古い時代の火山で崩壊が進んでいることが理由だそうです。荒々しい山容を持つ一方で全山が緑に覆われ新緑や紅葉など季節ごとの美しさに惹きつけられていました。そして、夏の楽しみが、梅雨の終わりころに咲く白いヤマボウシの花です。
大戸尾根コースで根子岳へ
今回もポピュラーな大戸尾根コースを登りました。
大戸尾根駐車場から、ゲートを越えて牧野のコンクリート道を進み、登山届ボックスがあるところから上部の牧草地へ上がります。
放牧された赤牛が近寄ってこないか身構えながら牧草地を進んでいくと、「根子岳山頂」の道標があり、有刺鉄線の間を抜けると、尾根の取り付きです。
登山道はほぼ真っすぐに山頂へと続く急登です。雨の後は滑りやすくて登山者を悩ませる黒い阿蘇火山灰土ですが、これも阿蘇の大地の息吹の一つだと慎重に登ります。「保安林」の白い看板を過ぎる辺りから、自然林に変わりいったん傾斜が緩みます。振り返ると、お目当てのヤマボウシの花越しに祖母山や傾山方面の展望が広がります。しばらく登ると露岩が立ちはだかる大岩をハシゴで乗り越します。
やがて、左に「至根子岳東峰」の傾いた標識が現れ、地獄谷と複雑に派生した尾根の頂点にそびえ立つ天狗峰を見ながら絶景の尾根歩きです。前原牧場との分岐付近では、阿蘇の草原などに自生するマツモトセンノウの橙色をした清楚な花が緑の中に映えていました。
ここから、一登りで根子岳東峰です。展望雄大で阿蘇北外輪山と九重連山、南外輪山と祖母傾山群、遠く九州脊梁山地までの360度のパノラマが広がっています。圧感は、天をも突き刺す根子岳天狗峰です。後ろにどっしりとした、阿蘇高岳・中岳を従えるかのように見える圧倒的存在感で迫ります。
見飽きることのない展望を楽しんだ後は、往路を戻ります。
山麓には立ち寄り湯も多く、道の駅「あそ望の郷くぎの」は阿蘇山を一望する場所にあり、ソフトクリーム片手に、夕日に染まる山々を眺めるのも楽しみの一つです。
プロフィール
池田浩伸
佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。
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