荒涼した火山も華やぐ季節。ミヤマキリシマに染まる阿蘇・高岳へ

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荒涼とした火山も、ミヤマキリシマの季節にはピンク色に華やぐ、阿蘇(あそ)・高岳(たかだけ)のコースガイドを紹介。

文・写真=池田浩伸

熊本県のシンボルといえば阿蘇山です。写真やパンフレットであの雄大な景色を見たことがある人は多いことでしょう。世界有数のカルデラに根子岳(ねこだけ)・高岳・中岳(なかだけ)・杵島岳(きしまだけ)・烏帽子岳(えぼしだけ)の5つの火口丘がそびえ、これを総称して阿蘇山と呼びます。

阿蘇は、ダイナミックな山岳景観で知られる世界的にも有名な観光地でもあります。四季を通じて登山を楽しめる阿蘇山ですが、初夏の九州の山域でしか見ることができないミヤマキリシマが咲き乱れるころが最も華やぐ季節となります。

砂千里入口
砂千里入口

阿蘇山上ターミナルの駐車場から、外国人旅行者も多い火口見学の観光客でにぎわうなか、有料道路脇の公園道路を砂千里(すなせんり)ヶ浜の入口まで登ってくると額に汗が滲みます。途中には、噴火警戒レベルが上昇したときの迂回路となる皿山コースの分岐点があります。入山前に噴火警戒レベルを調べることも大事です。

砂千里ヶ浜コースは、木道に沿って進むのですが、ガスで視界が悪くなければ砂千里ヶ浜の中を歩くこともできます。砂千里ヶ浜を挟んで第四火口とその奥には中岳の巨大な火口壁の連なりが迫ります。

砂千里ヶ浜の東の端まで来たら、目前に立ちはだかる赤茶けた溶岩壁の急坂登りが始まります。足場が悪いのでゆっくりと慎重に南岳へ向かって登っていきます。

溶岩壁はまるで年輪のような地層でできていて、粘度の異なる溶岩が何層にも積み重なった成層火山であることを教えてくれます。

南岳直下の火口が見下ろせる場所
南岳直下の火口が見下ろせる場所

南岳の稜線に上がると大パノラマが広がり、緩やかなアップダウンの道を中岳まで進みます。風向きによっては火山ガスが流れて来ることがあるので注意が必要です。

噴煙を上げる第一火口を見下ろせる中岳からは、大きな火口が並び月面のクレーターを思わせる景色が広がっています。周囲は草木もない荒涼とした岩稜帯なのに、山麓には緑の絨毯が広がる阿蘇ならではの山岳景観は見飽きることがありません。

噴煙を上げる中岳第1火口と草千里ヶ浜、烏帽子岳(左)
噴煙を上げる中岳第一火口と草千里ヶ浜、烏帽子岳(左)

月見(つきみ)小屋の分岐を過ぎてジグザグに登ると大パノラマの高岳山頂です。くじゅう連山や祖母(そぼ)・傾(かたむき)山地など九州の名峰が勢ぞろいです。

さらに尾根を進んで、仙酔尾根の分岐を過ぎればクライマーだけが立てる虎ヶ峰(とらがみね)・鷲ヶ峰(わしがみね)の岩峰を見下ろしながら溶岩隆起でできた天狗の舞台と呼ばれる場所に近づきます。

阿蘇高岳

この付近から大鍋(おおなべ)と呼ばれる火口跡付近へと、ミヤマキリシマの大群落が広がっています。ミヤマキリシマの枝をかき分けるように進み、天狗の舞台の基部を巻いて舞台に上がりましょう。大群落を見下ろせる絶好のポイントです。

東峰からは根子岳のギザギザ尾根が間近です。

天狗の舞台の手前付近が最も美しく。花に埋もれてしまいそうだ
天狗の舞台の手前付近が最も美しく、花に埋もれてしまいそうだ
東峰からは、ギザギザ尾根の根子岳が近くに見える遠くには祖母山

大鍋まで下り天狗の舞台を振り返ると、登山者の姿が赤紫の絨毯の上の舞台に立つ演者のようにも見えます。

避難小屋の月見小屋を通り、月見小屋分岐まで登ると往路に合わさりスタート地点まで戻りました。

大鍋まで下りて見上げる天狗の舞台

※登山の際は気象庁の「火山登山者向けの情報提供ページ」を確認しましょう。

MAP&DATA

ヤマタイムで周辺の地図を見る

コースタイム:阿蘇山上ターミナル(古坊中登山口)~砂千里登山口~砂千里ヶ浜分岐~南岳分岐~中岳~月見小屋分岐~阿蘇東峰~高岳~中岳~南岳分岐~砂千里ヶ浜分岐~砂千里登山口~阿蘇山上ターミナル:5時間35分

この記事に登場する山

熊本県 / 阿蘇・くじゅうとその周辺 阿蘇山

阿蘇山・高岳 標高 1,592m

阿蘇火山は周囲100kmとも120kmともいわれるカルデラを抱く複式火山の総称で、そのカルデラの規模は世界一といわれる。その中央火口丘の最高峰が高岳、1592mである。語呂合わせで「肥後国(ひごくに)」と呼び、標高が覚えやすい。 阿蘇郡、一の宮町・高森町にまたがり、西の延長上で火山活動中の中岳と接し、東は日ノ尾峠を挟んで根子岳がある。輝石安山岩からなる成層火山で、地形は複雑急峻、南に火口跡があり、その東に天狗ノ舞台と呼ばれる溶岩丘や東峰があり、西には高岳本峰がある。 さらに東峰から北に延びる岩稜は鷲ヶ峰、竜ヶ峰、虎ヶ峰と呼ばれ、ツベツキ谷、松ヶ尾谷、赤ガレ谷の浸食が激しい悪谷を従え、かつてはアルピニストを志すクライマーで賑わっていた。しかし岩場がもろく、人気は下降した。 南の火口跡は大鍋とも呼ばれ、その中に月見小屋がある。その南は溶岩壁が切れ落ちて、水汲谷の深い渓谷となっている。 高岳登山基地である仙酔峡には、一の宮町宮地から車道が延びて、かつては先鋭的な登山者が集まる山小屋があった。しかし、登山観の変化、交通の発達で宿泊者が減少し、取り壊されてしまった。 現在では遊歩道、あずまや、駐車場などの建設により、家族連れや一般観光客のレクリエーションの場となった。仙酔峡にはミヤマキリシマの群落があり、5月下旬には一斉に花を咲かせ、ツツジ祭りが開催される。このため、ますます本格的な登山者の数は減り、季節のよい時期にのみ登るハイカー、ファミリー登山者の山となった。 西は、噴煙上げる中岳と接し、高岳山頂からの登山は、まさに月面漫歩の感すらある。 東峰を除いて、山頂一帯に植物はなく、展望雄大、西に中岳、杵島岳(きしまだけ)、往生岳(おうじょうだけ)、烏帽子岳、東は根子岳、南外輪の奥に九州山地、祖母・傾山地、大崩山塊、北に九重連峰、津江、雲仙方面と360度さえぎるものはない。 一般登山コースは、仙酔峡から中岳を経て高岳へ2時間。仙酔峡から仙酔尾根を登っても2時間だ。他に南、高森側から日ノ尾峠を経て高岳、白水村から高岳のコースもあるが登山者は少ない。 バリエーションルートとして、仙酔峡、鷲見平、関門、虎ヶ峰、鷲ヶ峰、ナイフリッジ、東峰の岩壁コースの他、赤谷、松ヶ尾谷、ツベツキ谷などの沢登りコースがあるが、沢登りは水流が少なく、冬季、結氷した滝のアイスクライムのゲレンデとして人気が高い。夏場は高岳北面は風化が激しく注意を要する。

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

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