子どもヤマビル研究会が世界初のヤマビルの産卵シーンの撮影に成功!
これまで、ヤマビルの数々の研究で世の中を驚かせてくれた「子どもヤマビル研究会」(三重県)がついに長年の悲願を達成しました。それは「ヤマビルの産卵の瞬間を観察する」こと。2023年6月28日に動画の撮影に成功しました。通称ヒル研のコーディネーター樋口大良さんに聞きました。
写真=子どもヤマビル研究会、文=神谷有二
――そもそも、どうしてヤマビルの産卵を記録しようと思ったのですか?
わたしたち子どもヤマビル研究会は、「ヤマビルの一生」をひとつのテーマにして研究をしています。森の中では、体長6mmぐらいの生まれたてのヒルをよく見ますし、吸血もされます。そのまま大きくなって、子孫を残す時期に飼育して産卵させることは2015年から何度も成功していました。もちろん交尾(交接)シーンもたくさん見てきましたし、卵も毎年10個くらいは確認しています。2020年には卵塊からヒルの幼生が誕生してくる瞬間を見ることができて、あと、見てないところは「産卵の瞬間」だけだったのです。直径1cmもある卵が、あのヒルのどこから産まれて来るのかが最大の疑問でした。
――今回、撮影に成功したわけですが、これまでの試行錯誤をお教えください。
昨年は、碓井研究員(当時中学3年生)は3日も徹夜してがんばりましたが、産卵は観察できませんでした。東大でヤマビルの研究をされていた故山中征夫先生も「ヤマビルはデリケートな生き物だ」、と言っておられましたが、ヒルは普段と雰囲気が違うと、産卵しなくなるようです。その通りで、去年は産卵しそうな日をタ―ゲットに選んで、ライトをつけて撮影準備をしたケースのヒルは、数日後に全滅してしまいました。
今年は、急に環境を変えることなく、吸血した時からカメラの周りに置き、環境にならしてきました。順にカメラの前に飼育ケースを並べて、24時間防犯カメラを利用して、夜間は赤外撮影を続けました。防犯カメラ2台、GoPro1台体制で撮影していましたが、結局、実際に撮れたのは、それ以外のカメラでした。
今回カラー撮影ができたのは、昼間の産卵だったという偶然が重なったからです。この産卵シーンを撮ったカメラは、USB式の実体顕微鏡撮影ができるCCDカメラです。
6月28日の昼過ぎ産卵が始まっているのを見つけて、大急ぎで、カメラを持って約1時間。一連の行為を終了してヒルが泡の外に出て来るまで撮り続けました。
でも、本当の世界初の画像は別なんです。
――え、どういうことですか?
実は6月18日に、防犯カメラのタイムラプス撮影で産卵の瞬間が写っていたのです。深夜から撮影したもので、赤外線カメラでの撮影だったので、白黒で見にくくてピントもきちんと合っていなかったのです。でも、世界初の動画が撮れたとみんなで喜びました。
もっとちゃんと撮影したいと、それ以後も継続して撮影していて、今回につながったのです。
――今回、成功した秘訣はどこにありますか?
気長に待ったことでしょうね。でも、実際は、本当に偶然撮れたというのが正解です(笑)。ただ、今までの経験から、卵塊は朝見つかることがほとんどで、産卵は夜もしくは明け方に行なわれると思っていました。それが、15時頃から始まったので、ちょっとびっくりでした。
――ヒル研メンバーの反応はいかがでしたか?
中学生の間にぜひ見たいと言っていた産卵シーンの観察を、果たせず高校生になった碓井研究員。どうしてもこれが見たいのでヒル研は続ける、と7年目に入りました。6月28日は、学校なので研究所にはいなかったのですが、ちょうど下校時刻だったのでLINEで実況中継を少ししました。電車の中でそれを見た彼の第一声は、「やっと撮れたか。よかった」でした。自身の目で観察できなかった悔しさよりも、ようやく観察できて安堵したようでした。
受験勉強中の中学3年生の服部研究員は、ZOOMで「これでヒルのライフサイクルが解明できた。このことを僕らの力でやり遂げたということは、すごいことだと思う。それに加えて世界初というのはすごいとしか言いようがない」
昨年入った3人は、鶏にヒルを付けて吸血させるのを手伝っていたので、世界初の研究に立ち合えてうれしい、僕たちのしたことが役に立ったと思うとうれしいと喜んでいます。
――今後の挑戦・課題はありますか?
私たち「ヒル研」としては、産卵動画を撮るのが目的ではなく、あくまで研究の一環としての撮影です。この段階をクリアしないと次に進めないのです。ヒルのライフサイクルを解き明かそうとがんばってきて、今日は私たちの考えが正しかったことをこの映像は教えてくれた訳です。だから世界初と大騒ぎをするのではなく、研究員は今までの研究の裏付けができたことを喜んでいます。これからみんなでこの映像を見ながら、さらに研究を重ねていきます。まだまだ調べたいことはいくつかあります。
――ありがとうございました。これからも研究がんばってくださいね。
ヒルは木から落ちてこない。
ぼくらのヤマビル研究記
著 | 樋口 大良著 子どもヤマビル研究会著 |
---|---|
発行 | 山と溪谷社 |
価格 | 1430円(税込) |
プロフィール
子どもヤマビル研究会
「子どもヤマビル研究会」は、三重県の鈴鹿山脈の麓で、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している団体です。自然や生き物が大好きな小・中学生数名が集まり、身近な自然を観察し、そのしくみを解き明かしていく中で科学する心を身に付け、将来の科学者を志す子を育てたい、身近にいるヤマビルを使って、科学の手法を会得し、自然の不思議さ、偉大さやを理解して、自然に対する畏敬の念を育んでもらいたいという、子ども主体のとてもユニークな研究団体です。
活動はブログでも公開しています ⇒子どもヤマビル研究会
活動が書籍になりました ⇒『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』
「子どもヤマビル研究会」によるヒルの生態研究
「子どもヤマビル研究会」は、自然や生き物が大好きな小中学生数名が集まって、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している。 登山者にとっては、苦手、嫌い、気持ち悪い「ヤマビル」でも、その生態を知れば、苦手意識が減り、いざという時にも冷静に対処できるのでは、という思いから、これまで研究してきた成果を伝えていく。