連載最終回「ヤマビル雑学いろいろ」 ~子どもたちの好奇心を実験へ~

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これまで4回にわたり、子どもヤマビル研究会が研究してきたことを発表させていただきました。2011年から、子どもたちの好奇心そのままに、楽しい実験をいろいろしています。それぞれは単独の実験ですが、十分、小学生らしい研究ですので、最終回は少し羅列的に書いてみます。(写真:フィールドワークの昼食は、ピクニック気分)

 

実験1:ストッキングは、ヒル対策になるのか?

ストッキングはヤマビルに有効なのか。これを実験するため、女性用のストッキングを腕にはめて、ヒルをつけてみます。

ヒルは、何とか中に潜り込もうとしますが、網目の方が細かく、入り込めません。最近のストッキングの生地は二重構造になっていて、生まれたての8mmくらいのヒルでも、なかなか入り込めません。

ストッキングの網目にブロックされたヒル


ただし、くるぶし付近の「生地のつなぎ目」あたりは、目が粗くなり、そこから侵入されたケースはありました。あとは、ストッキングのゴムの部分から入り込んだりします。ストッキングは完ぺきではないですが、かなりの抑止効果はある、と言えるでしょう。

1mmの網戸の網目には、口を入れて吸血した

 

実験2:塩は本当にヒルに効くのか?

昔から「ヒルには塩」とよく言われています。本当に塩はヒルに効果があるのか、調べてみます。

まず、ヒルに直接、塩を振りかけると、浸透圧によって体からどんどん水分を出してしまい、やがて黄色い体液を出すと動かなくなります。その個体を水で洗っても、生き返ることはありません。

では、どのくらいの食塩水の濃さでヒルは死ぬのかを調べてみました。

食塩水の濃さの違いによってどんな動きがあるでしょうか?


2%の食塩水、2.5%の食塩水、2.7%の食塩水にヒルを数匹ずつ入れました。すると、2%の食塩水からは、ヒルが大急ぎで飛び出してきました。2.5%になると底の方でうずくまって、やがて死にました。2.7%になると、すぐに体が硬直して動かなくなり死んでしまいます。食塩水の濃度はここが生存限界のようです。

なお、塩を足首につけていても、ヒルがそれに触れた時には効果がありますが、近寄らせないための「忌避剤」にはなりません。また、水にぬれると薄まってしまい、効果も持続しません。

 

実験3:吸血の仕方を調べました

ヒルは、私たちに強烈な力で吸いつき皮膚に傷をつけます。そこからにじみ出てきた血を吸います。血が凝固しないように「ヒルジン」という物質を出して、1~2時間、吸い続けます。

私たちは、実験材料として「満腹になったヒル」が欲しいときは、自然に落ちるまで吸わせておきます。途中で離したい時は、引っ張って取るか、爪でこそげるようにして外します。

蚊や蜂と違って、ヒルには針があません。口の所にある、のこぎり状の突起で皮ふに傷をつけて、滲み出てくる血を吸うのです。

蚊の吸血/ヒルの吸血


無理にはがすと歯が残るとか、吸盤が皮膚の中に残るとか言われていますが、そのようなことは起こりません。唇のような部分が硬くなりノコギリ状の突起になっていて、陰圧をかけて皮膚に擦り傷をつけます。滲み出た血を吸うのです。

ヒルの口(左側のすじが唇の一部です)


ヒルにやられたら、傷口には「ヒルジン」がいっぱい付いているので、流水でしっかり洗い流します。その後、ばんそうこう等で、圧迫止血を2時間くらいします。かゆみ止めの軟膏を塗っておくと、かゆくなりません。

 

実験4:ヒルの皮膚はどのくらい強いの?

ヒルにやられたことがある人は、かなり憎しみを込めて地面で踏みつぶした経験があると思います。でも、吸った血を吐き出すだけで、一向に死にません。道路に置いて石でたたいた人もあるでしょう。でも、簡単にちぎれたりしません。ヤマビルの皮膚は、ものすごく強い皮膚なのです。

あるとき、みんなで話し合っているとき、これでロープを作ったら無敵だね、と言う子がいました。

そこで、みんなでヒルを引っ張って、強さを測ってみることにしました。4人が二手に分かれて、一匹のヒルを引っ張り合いしました。

ヒルの引っ張り合い


でも、ちぎれません。数値化しようと、秤で張力を計ることにしました。適当なものがなかったので、近くの小学校から「てこ実験器」を借用して、2kg重まで引っ張れるようにして、試してみました。

てこ実験器で引っ張る


体内の臓器は壊れましたが、外側の皮膚は伸びただけでちぎれませんでした。それ以上は、ヒルを秤に結びつけるひもが抜けて、計ることができなくなりました。計測結果では、ヒルは2kg重以上の張力でも、切れないということが分かりました。

ヤマビルの皮膚はすごく強いです。この分子構造を解明して合成できれば、きっと最強の繊維やロープができるでしょう(いま、研究員の一人がひそかにそれを狙っています)。

 

実験5:手のひらや足の裏は吸血されない!!

研究員たちは、躊躇なく、素手でヒルをつかみます。そして、手のひらに乗せて「かわいいね」なんて言いながら、観察しています。ヒルは、手のひらから吸血することはありません。

手のひらにヒルを乗せて遊ぶ研究員


一方、足については、指の間がよくヒルにやられるのは知られていますが、足の裏の被害は聞いたことがありません。単に足の裏は、吸いにくいからなのでしょうか。

試してみましょう。

わっ、くすぐったい


研究員の足の裏にヒルを乗せてみると、滑り落ちてきたり、うまく乗れても全く吸血しようとする気配を見せずに、指の間をめざしたり甲の方に回り込んだりします。多分、皮膚が厚いので、吸血できないことを知っているのだと思います。

 

実験6:ヒルで魚が釣れるのか

6月初め、渓流釣りの名人に釣りに連れて行ってもらいました。ちょっと悪戯心が起きて、針にヒルをつけて釣ってみることにしました。10cmくらいのアマゴが30分で10匹くらい釣れました。ヒルは、最終的に、魚の餌食になるのではないか、と推測しました。

ヒルを餌にアマゴを釣りあげました


余談ですが、針につけたヒルが、なんと川底の小石を吸いつけて上がってきたことがありました。

笑っちゃいますね。

小石を吸い付けたヒル

 

*****

 

今回、このコラムページで「子どもヤマビル研究会」の活動の一部を紹介させていただきました。

この研究は、3年くらいで終わるだろうと思っていたのですが、とても奥が深く、中断時期を挟んだものの、もう8年目を迎えました。私(代表世話人・樋口)の生涯をかけての研究になりそうです。子ども研究員が興味を持って、さらに新会員が次々加わってくれることを望んでいます。

本コーナーをご覧いただき、たくさんのご意見や励ましをいただき、ありがとうございました。また、機会があれば、この続きを発表したいと思います。

プロフィール

子どもヤマビル研究会

「子どもヤマビル研究会」は、三重県の鈴鹿山脈の麓で、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している団体です。自然や生き物が大好きな小・中学生数名が集まり、身近な自然を観察し、そのしくみを解き明かしていく中で科学する心を身に付け、将来の科学者を志す子を育てたい、身近にいるヤマビルを使って、科学の手法を会得し、自然の不思議さ、偉大さやを理解して、自然に対する畏敬の念を育んでもらいたいという、子ども主体のとてもユニークな研究団体です。

活動はブログでも公開しています ⇒子どもヤマビル研究会

活動が書籍になりました ⇒『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』

「子どもヤマビル研究会」によるヒルの生態研究

「子どもヤマビル研究会」は、自然や生き物が大好きな小中学生数名が集まって、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している。 登山者にとっては、苦手、嫌い、気持ち悪い「ヤマビル」でも、その生態を知れば、苦手意識が減り、いざという時にも冷静に対処できるのでは、という思いから、これまで研究してきた成果を伝えていく。

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