ヤマビルが集まる場所と理由は? 御在所岳より藤原岳の方が、ヒルが多いワケ

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鈴鹿の山々をフィールドに研究を続ける「子どもヤマビル研究会」。今回の疑問は、ヒルの多い山と、少ない山の違いや、ヒルがどこからどのように運ばれてくるのか。子どもたちが観察・実験・検証を重ねていきます。(写真は「僕たちの実験場は、あの藤原岳の向こう側」と指差す研究員たち)

 

同じ鈴鹿の山なのに、ヒルの多い山と少ない山があるのはなぜ?

毎夏、名古屋で開催される夏山フェスタで、来場者にヤマビルの生態について話をする機会があります。

そこで、「同じ鈴鹿の山なのに、ヒルの多い山と少ない山があるのはなぜ?」という質問を受けました。わたしたちも、研究会のたびにヒルを捕りに行きますが、ヒルは、鈴鹿の山々のどこにでもいるわけではありません。

夏山フェスタでヒルの説明をする研究員


まず、大まかにみてみると、藤原岳と御在所岳では、断然、ヤマビルは藤原岳の方が多いです。その違いの一つに、山を形成している岩石が違うことが挙げられます。藤原岳は石灰岩質ですが、御在所岳は花崗岩でできています。このことに着目して、次のような実験装置で検証しました。

藤原岳の石灰岩の砂と、御在所岳の花崗岩の砂を水槽に入れて、中央に仕切りをします。その上に、それぞれの山で採ってきた落ち葉を置き、そこに、ヤマビルを50匹ほど入れて、どちらが好きかを選んでもらう、という実験です。

実験に使った水槽装置


そして、乾燥しないように毎日、藤原側は藤原の水を御在所側は御在所の水をスプレーしました。すると、2日後には、圧倒的に藤原側にヒルは集まりました。

仕切りを越えて好きな方に移動するヒル


ヒルは、石灰岩質の方が好き(または、花崗岩質が嫌い)、という結果になりました。

それぞれの川の水の水素イオン濃度を測定すると、藤原岳から流れてくる水はPh8.3、御在所の水はPh6.2程度で、ヒルは、アルカリ性の水を好むか、または酸性の水を嫌うか、のどちらかだとわかります。(この研究成果は、2018年10月、藤原岳自然科学館で発表し、奨励賞をいただきました)

では、藤原岳付近の山に入れば、どこにでもたくさんヒルがいるかというと、決してそうではありません。林道や登山道、獣道を調べていくと、ヒルが集まっているところと、まばらなところ、全くいないところがあります。

私たちは、地質図を手掛かりに、谷の上の方に石灰岩層が露出している場所を見つけました。そして、地元の人から、ここに行けば必ずたくさんヒルがいる、という林道を教えてもらいました。駐車場から500mほど登ったところに、たくさんヒルがいる場所を見つけました。そこの岩石は、砂岩が多いですが、石灰岩もかなりの割合で混ざっています。

毎回、そこに行けば50~100匹のヒルを捕ることができます。そこを「ヒル捕り場」(約15m×2m)と名付けました。

ヒル捕り場


ヒル捕り場の様子を詳しく観察すると、コンクリートの林道の谷側にはヒルがいません。しかし、山側にはたくさんのヒルがいます。研究員たちがこのことに気付いて、なぜ、崖の下側にしかいないのか? という疑問を持ちました。

このヒル捕り場には、3本の獣道(写真中青線)が下りて来ています。ヒルは、赤丸のところでたくさん捕れます。獣道にヒルが多いと言われる理由です。

今年は、高温で、雨が全く降らない日が何日も続いたことがありました。そこで、ヒル捕り場(約15m×2m)で、1時間かけて、全部のヒルを取り切って帰りました。すると、次の日にヒルを捕りに行っても、全くヒルは捕れません。その次の週も晴れが続き、ヒルは1~2匹捕れるくらいでした。

数日後、短時間に大雨が降りました。すると、ヒル捕り場にはヒルが現れ、50匹ほど捕れました。付近をよく観察していると、昨夜降った雨が獣道や崖の方から林道に流れ出し、谷の方に流れ落ちていくところがありました。

水の働き(黄色の線)によって、谷側の腐葉土がたまっているところ(赤丸の場所)に、10匹ほどのヒルがいました。普段、ほとんどヒルがいない場所です。

林道の谷側に押し流されてきた葉や腐葉土がたまったところ


水の働きでヒルが流れてくる、と確信を持った研究員たちは、水の流れを利用して、上流からヒルを流してみました。すると、水の中を流れたヒルが(黒い線)、土や腐葉土のたまっているところ(赤い丸)にたどり着き、水からはい上がって来るのを見つけました。

水の流れにヒルを入れて、その様子を観察する


でも、そのあと晴れが続き、またヒルはいなくなりました。

次に台風が来て、かなりの雨が降りました。すると、予想通り、ヒルはたくさん現れて、40匹ほど捕れました。

同時に、私たちは、研究日ごとに監視カメラを設置して、夜間の動物の行動も調べました。この間、7日ほどでしたが、動物はほとんど来なくて、シカが2頭、タヌキが1匹、数分間ずつ遊びに来ただけでした。このことから、動物がヒル捕り場にヒルを拡散しているとは思えませんでした。

監視カメラに映ったシカ

 

ヤマビルを運んでくるのは、水の流れではないか?

雨の降っている日に、ヒル捕り場から登山道を登ってみました。途中、水の流れた跡(青線)に杉の葉などがたまっているところ(赤丸)が何か所かありました。そこには、ヒルが数匹ずついました。

さらに上の方に登っていくと、少し平らなところに出て、ヒルがたくさんいました。生まれて間もない1cm足らずの小さいヒルから5cmくらいの大きなヒルまで、たくさんいました。

獣道や登山道を雨水が流れ落ちていくとき、葉っぱなどと一緒にヒルも流れ落ちてくる。だから、獣道の下の所にはヒルが多いのです。これらのことから、ヒルが運ばれてくるのは、雨の働きではないか、と考えています。

私たちは、ヒルがたくさん現れるところを「ヒルスポット」と呼ぶことにしました。平らなので、雨で全部のヒルが流れ落ちていくこともなく、周囲は樹木が茂り、浸み出す水も適当にあり、ヒルにとっては絶好の棲み処と言えます。ここなら、動物も時々訪れてくれるでしょう。

ヒルスポットの写真


しかし、このような場所は山の中のあちこちにあるので、上の方のヒルスポットから、下の方に流れ落ちて、新しいヒルスポットを作ったりしてヒルが拡散しているはずです。

また、山を登って行くと、あるところからヒルがパタッといなくなるところがあるのに気付きます。つまり、そのあたりが、ヒルスポットの中でも一番高い所、ということになります。村の長老に聞くと「昔はあの山の頂上付近にヒルがいたけれど、今はだんだん下りてきた」と言っていました。

ヒルが集まるヒルスポットは、長い年月をかけて、だんだん下に降りてきていることになります。ということは、ヒルの拡散は、この藤原の山中では動物より水の力の方が大きいと考えられるのです。(このことは、2019年10月、藤原岳自然科学館で発表し、奨励賞を受けました)

そうなると、ヒルはヒルスポットでどのように過ごしているのか? という疑問が出てきます。

ヒルは、どこかで増殖しないと、間もなく絶滅してしまいます。このヒルスポットがヒルの棲み処と考えると、棲み処・食糧・生殖の問題を調べてみる必要があります。

棲み処は、葉の裏や腐葉土の中、砂の中などが考えられています。飼育瓶でヒルを飼っていると、底の砂にもぐっていく姿をよく見ます。

砂の中にもぐっていくヒル


でも、寒い冬、地面の中にどのようにもぐって生き延びているのか、まだ、よくわかりません。土を掘り起こしてみたけれど、ヒルを見つけることはできませんでした。今後の課題です。

また、山の麓の集落でもたくさんヒルが出ている、水が流れていないところにもヒルがいる、という情報もたくさん届きます。もちろん動物による拡散を否定している訳ではありません。人による拡散もかなりあると思います。ヤマビルの生態についてはまだまだわからないことが多いので、これらの理由については、今後の研究で明らかにしていきたいと思っています。

 

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今まで4回にわたり、この場を借りて、私たちの研究成果を報告させていただきました。まだ、これから研究を重ねていくと新しい発見かありそうです。

次回は、今まで単発的に試してきた、楽しいお話をいくつか挙げてみたいと思います。お楽しみに。

プロフィール

子どもヤマビル研究会

「子どもヤマビル研究会」は、三重県の鈴鹿山脈の麓で、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している団体です。自然や生き物が大好きな小・中学生数名が集まり、身近な自然を観察し、そのしくみを解き明かしていく中で科学する心を身に付け、将来の科学者を志す子を育てたい、身近にいるヤマビルを使って、科学の手法を会得し、自然の不思議さ、偉大さやを理解して、自然に対する畏敬の念を育んでもらいたいという、子ども主体のとてもユニークな研究団体です。

活動はブログでも公開しています ⇒子どもヤマビル研究会

活動が書籍になりました ⇒『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』

「子どもヤマビル研究会」によるヒルの生態研究

「子どもヤマビル研究会」は、自然や生き物が大好きな小中学生数名が集まって、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している。 登山者にとっては、苦手、嫌い、気持ち悪い「ヤマビル」でも、その生態を知れば、苦手意識が減り、いざという時にも冷静に対処できるのでは、という思いから、これまで研究してきた成果を伝えていく。

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