紅葉たけなわの栗駒山の天空の縦走路を行く

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紅葉の名所が居並ぶ東北の山々のなかでも、栗駒山は、山全体が極彩色の色に染まる全山紅葉の山として知られています。標高1627mの山肌全体がブナ、ミズナラやカエデなどの広葉樹林に覆われ、赤、橙、黄金色に彩られ、まさに「神の絨毯」と呼ばれる美しさです。そんな天空の縦走路を周回するコースを紹介します。

文・写真=奥谷 晶

朝方、栗駒山の稜線は霧に包まれ、冷たい風が吹いているようです。須川コースは火山性ガスの危険のため通行止めになっています。今回は、全山見渡す紅葉を楽しむため、須川温泉から産沼(うぶぬま)を経て栗駒山山頂から秣(まぐさ)岳に連なる尾根筋を周回するコースを選びます。

源泉の蒸気がもうもうと沸き立つ須川温泉の登山口から出発し、名残ヶ原へ入ると、早くも木道が続くはるか先の山肌一面に紅葉の世界が広がっています。

源泉の蒸気わきたつ須川温泉登山口
源泉の蒸気が吹き出る須川温泉登山口
名残が原から見る色づく広葉樹林
名残ヶ原から色づく広葉樹林を見る

三途の川を渡り、緩やかに登っていくと、産沼です。霧が立ちこめる中、池塘の水面には赤や黄色の紅葉の木々が映り、幻想的な世界が広がります。

産沼の池塘に映える紅葉
産沼の池塘に映える紅葉

さらに緩やかに登っていくと稜線に出ますが、ガスが濃く視界がありません。白く立ちこめる霧の中から栗駒山山頂標識が現われます。周りに大勢の登山者が集まって霧が晴れるのを待っています。風が冷たく、じっとしているのが辛いほどです。

しばらく待ちましたが、やむなく、ゆっくりと天狗平から天馬尾根へと歩を進めることにます。すると霧が次第に薄れ、雲の隙間から青空も見え始めました。前方に広がる紅葉の峰々がヴェールが剥がれるように姿を見せ、まさに「神の絨毯」のごとく、極彩色の絵巻物を見せられるかのように浮かび上がってきます。

「神の絨毯」のごとき極彩色の紅葉の山並み
「神の絨毯」のごとき極彩色の紅葉の山並み

黄色く色づいた高原のかなたに姿を見せる「モン・サン・ミシェル」と呼ばれる丘は、まさに紅葉の海原に浮かぶ島のようです。振り返ると栗駒山から東栗駒山にかけて厚かった稜線の霧が晴れていくドラマチックな情景が広がっていました。

白銀高原に浮かぶ紅葉の「モン・サン・ミシェル」
白銀高原に浮かぶ紅葉の「モン・サン・ミシェル」

名残を惜しみながら天馬尾根に別れを告げ、須川湖に向かって尾根を下ると、正面にはきれいな三角形の秣岳が現われます。色とりどりの紅葉のパッチワークを身に着けています。須川湖を真下に見ながら秣岳登山口に下り立つころには、すっかり晴れ渡って、栗駒山から東栗駒山の全山紅葉を見ることができました。

極彩色の見事なパッチワークをまとう秣岳
極彩色のみごとなパッチワークをまとう秣岳

MAP&DATA

栗駒山地図

コースタイム:須川温泉~名残ヶ原~産沼~栗駒山~秣岳~須川温泉 :約5時間25分

ヤマタイムで周辺の地図を見る

この記事に登場する山

岩手県 宮城県 / 奥羽山脈中部

栗駒山 標高 1,626m

  みちのくのくりこま山の朴の木の   まくらはあれど君がた枕  平安中期の古今和歌集六帖にも詠まれた栗駒山は、仙台の真北、宮城、岩手、秋田の県境に位置する古い火山。浸食が著しく地形も複雑だ。  全国に数ある駒のつく山は、雪形から名付けられたものが多い。この山も5月になると南東の宮城県側に飛翔する天馬の姿が見事に浮かび上がる。岩手県側では須川岳とも呼ばれているが、こちらは須川温泉(酢川、強酸性の湯)に由来すると思われる。  灌木と草原のたおやかな山稜、豊かな残雪と随所に見られる高層湿原、高山植物の多いことなどとともに、すべての登山口、下山口に温泉があるのも特徴の1つ。  1時間ほどもあれば登れるコースから、5時間以上のコースまで10本以上のコースがある。交通の比較的便利な須川温泉から登頂し、広大なブナの原生林の中を、山深いランプのいで湯、湯浜温泉へ下山するコースがお勧め。  秋のドウダンツツジやウラジロヨウラクなどの目の覚めるような紅葉は、特筆に値する。  3~4月は、山スキーに絶好の山。スロープは初心者向だが、独立峰ゆえ天候に要注意。 ※ 平成20年岩手・宮城内陸地震で、周辺道路や登山道が荒廃していて通行できなかったり、困難だったりする箇所があります。栗駒山登山を計画されている方は、現地関係機関にご確認の上、お出かけ下さい。

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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