冬の夜、北八ヶ岳のいつもの場所で写真を撮る

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写真から浮かび上がってくる感情と記憶について、写真家の花岡凌さんによるエッセイ。

文・写真=花岡 凌

写真と記憶

写真を見返したとき、その時の感情や考えていたことが蘇ってくる経験はないだろうか。私は、自身の経験からそういったことがあると確信している。また、自然の中で撮影に没頭することで感情の整理がつくこともあると思う。

煮詰まったとき、気持ちが落ち着かないとき、写真を撮りに行く。

普段は、この時間にここへ行けばこんな写真が撮れるのではないかと、あらかじめイメージを膨らませながら撮影に向かうのだが、こういったときは何も考えず、いつもの場所で写真を撮る。思い立ったら行くことにしているので、季節も時間も天候もバラバラなため、思いもよらない景色に遭遇することがある。そこが好きだ。

冬のある夕方、どうにもならない気持ちを落ち着かせるため、北八ヶ岳にあるいつもの場所へ写真を撮りに行くことにした。

充分な装備を持って夕暮れの中、車を走らせる。 駐車場に着くと美しい夕焼けが見えた。山頂まで、ここから約2時間の道のりだ。

カメラを首から下げ、ヘッデンをつけて、雪が積もった暗い樹林帯の中をゆっくりと歩く。

いつの間にか月が出てきて辺りを明るく照らし始めた。気がつけばヘッデンもいらないほどに明るい。今日は満月だった。 いつも素通りしている立ち枯れた木が、やけに魅力的な影を雪面に落としていて、夢中になって写真を撮った。

山頂に到着すると雪に覆われた南八ヶ岳の峰々が見えてきた。 月明かりに照らされて鈍く光っている、日中では見ることのできない景色だった。

今日、写真を撮りにきてよかったな。この景色を見ることができてよかったな。 そんなことを思いながら下山をした。

そして家に帰った時には不思議と気持ちの整理がついていて、「まあ、なんとかなるか」と思ってしまうのである。

しばらく経ってから見返すと、この時はしんどかったな、こんなことで悩んでいたなと写真には写らない当時の記憶が蘇ってくる。 そんなときが、写真を撮っていてよかったと思う瞬間の一つでもある。


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プロフィール

花岡 凌(はなおか・りょう)

写真家。1993年長野県下諏訪町生まれ。2019年に北極冒険家・荻田泰永さんが主宰した北極冒険行に参加。それを機に写真家・柏倉陽介さんに師事し、写真の道に進む。現在、長野県を拠点とし自然に関わりをもつものを中心に撮影を行なう。

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