トレッキングポールの正解は「軽さ」だけではない ブラックダイヤモンド/パーシュートFLZ|高橋庄太郎の山MONO語りVol.106
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、ブラックダイヤモンドの「パーシュートFLZ」です。
文・写真=高橋庄太郎
まずは雪のない山へ
このようなパーシュートFLZを手に、僕は冬の山を歩きに行った。

今季は雪が少ないうえに、このときは気温も高く、まるで秋のような雰囲気だった。なにしろ歩いていると汗をかき、半袖でも寒くない。
ともあれ、初めに感じたのは、ストラップの使いやすさだ。

近年は幅が細く、厚みも抑えたストラップを使用するメーカーも多いが、パーシュートFLZのストラップは幅も厚みもあり、安心感がある。ただ、厚みがある分だけ雨が降っていると水分を含みそうだが、今回のテストは快晴時。その点は確認できなかった。
グリップは、握ったときの手の平の形に合わせたエルゴノミックデザイン。たしかに握りやすい形状だ。

僕の手は一般よりも少し大きめだが、グリップのサイズには過不足がなく、ちょうどいい。

ストラップに手首を通し、思いっきり体重をかけても握った両手に違和感はなかった。

横から斜め後方に先端を突いて歩くと推進力が生まれ、ぐいぐいと歩いていける。

下り坂ではグリップのヘッド部分を握り、少し長めにして使ってもいい。

ただ、パーシュートFLZのグリップのヘッドはそれほど大きくはない。一般的な大きさの手の方にはちょうどよさそうだが、僕の手にはもう少し大きいほうが適している感じもあった。

歩いていて少し気になったのは、バスケットのサイズだ。

上の写真のように砂利っぽい場所や岩の上、硬い土の上では問題ないのだが、柔らかな土の上や泥だと深くめり込んでしまうことがある。もう一回り大きいほうが使いやすいかもしれない。以前のブラックダイヤモンドにはこれよりも大きいバスケットが付属していたのだが、パーシュートFLZにこのサイズのバスケットを使っているのは、おそらくトレッキングポール全体の軽量化のためだろう。
とはいえ、先端のチップを覆うようにゴム製のプロテクター(キャップ)がつけられているので、普通に歩いている分には、植物の根を傷つける恐れは少ない。

プロテクターの内側には金属のリングがはめられてあり、これが金属チップに引っかかって脱落を抑えている。実際、今回のテスト時にプロテクターが外れて紛失するようなことはなく、使っていて安心感は高かった。
パーシュートFLZは、2本ペアで重量は500g(S/Mサイズ)と軽量だ。それもただ軽量なだけではなく、重量バランスがいい。

先端部分にも適度に重量があるので、前後に振るときに振り子のような自然な動きが生まれ、力を使わずに済むのである。だから、長時間使っていても腕が疲れにくい。これがグリップ部分に重量が集中し、先端部分が軽すぎるトレッキングポールであれば、意外と力を使わねばならず、疲労感が出てくるのである。

バスケットのサイズだけはもう少しだけ大きいほうがよさそうだが、パーシュートFLZのトータルでの使い心地は良好であった。
ひとつだけ注意したいのは、シャフトの接合部分をできるだけ汚さないようにすることだ。

この部分は加工精度が高く、ぴったりと接合するのは先述した通りだが、そのために土やほこりが付くと、はまりにくくなる。また、はまったのはいいが、外れにくくなることもあった。土などが付着した場合は、接合する前に拭き取っておくとよい。
積雪の山でフィールドテスト
次は雪中での使い心地をお伝えしたい。

先に述べたように、パーシュートFLZには大型のスノーバスケットが付属している。
上の写真の小さなバスケットが通常使用時のもので、大きいバスケットが雪中用だ。

バスケットを取り替えるット(下)、もう片方を大型スノーバスケット(上)に変更して、雪を突いてみた画像である。

通常のバスケットのほうはどこまでも突き刺さっていくが、大型バスケットのほうは途中で止まる。この画像だけでも大型バスケットの機能性がよくわかるはずだ。
特に表面の雪が柔らかな積雪期は、大型バスケットでなければトレッキングポールは深く突き刺さって体重を支えきれない。すると、せっかくトレッキングポールを持っていっても、ほとんど使い物にならないのだ。

大型スノーバスケットを別売りにしているメーカーも多いが、あらかじめ付属しているパーシュートFLZならば、急に雪山へ行くことになったときでも慌てて用意する必要はなく、確実に雪山でも使える。

そしてこの大型バスケットを使ってみることで、僕はこのバスケットのひとつの特徴を再確認した。パーシュートFLZのバスケットはきれいに“回転”するのである。

これがどう機能的なのかというと……。
トレッキングポールを無雪期に使うと、多くのときは先端のプロテクターが土に接するだけで、小型バスケットが土に触れる頻度はあまり多くはない。それに対し、大型バスケットは雪に触れる頻度が高い。要するに、大型バスケットは常に雪に圧迫されていることになる。

すると、螺旋状のミゾでトレッキングポールに取り付けられている大型バスケットは、次第に緩んでくることがあるのだ。それを避けるために、バスケットが固定されているトレッキングポールは、定期的にバスケットを締め直す必要が出てくる。僕自身、いつの間にかバスケットが緩み、最終的にはトレッキングポールから脱落して失くしかけたことが何度かある。
だが、パーシュートFLZの大型バスケットは上まで回し入れれば螺旋状のミゾからフリーになり、あとは雪で圧迫されてもただ回転するだけだ。だから、絶対に脱落することはない。これは無雪期用の小型バスケットでも同様だ。
他社のトレッキングポールにもバスケットが回転するタイプはあるのだが、パーシュートFLZほど完全に上へ抜け、きれいに回転する構造にはなっていない。そのためにバスケットがミゾの上で半固定され、結果的に脱落しやすくなっているトレッキングポールも多いようだ。
ところで、素手で持ったときには使いやすかったパーシュートFLZのグリップは、雪山ではそうとも言い切れなかった。今回の僕は、写真撮影のために指先が露出した薄手のグローブをメインに使っており、そのときはとくに支障はなかったのだが、厚手のグローブに変更すると……。

グリップが小さいために、握りにくくなってしまった。グリップの最上部と下部にある突起との幅が9cmほどしかないので、厚手のグローブをした手が収まりきらないのである。上の写真でも小指が少し浮いているのがわかるはずだ。手が小さい人であれば問題はないだろうが、平均よりも手が大きいような人は、注意したほうがよさそうである。
しかし、長さの調整に使うフリックロックプラスはグローブをした手でも操作しやすく、好印象。

レバーが赤く、一目でどこにあるのかもわかりやすかった。シャフトの色も含め、雪山では視認性の高さは重要である。
まとめ:重量バランスがよく、安定感が高いトレッキングポール
総じていえば、パーシュートFLZは雪のない場所でも、雪がある場所でも使いやすいトレッキングポールであった。

気になる点があるとすれば、厚手のグローブをしたときに手がはみ出る可能性があるグリップのサイズだろうか。とはいえ、手の大きさは人によって異なり、手が小さめの人にはベストサイズかもしれない。
反対にとりわけ気に入ったのは、全体の重量バランスだ。僕が思うに、トレッキングポールというものは単純に軽ければいいわけではない。重量バランスがよければ、トレッキングポールは振り子の力で自然に前へ突くことができ、自分の力で前へ運ぶ力を最低限にできる。超細身で超軽量のトレッキングポールも販売されているが、個人的には軽すぎるとトレッキングポールを振る力をコントロールしなければならず、むしろ使いにくいことがある。強度も低くて折れやすいので、正直なところあまり好きではない。その点で言えば、パーシュートFLZくらいのほうが疲れにくく、安定感が高いのである。
トレッキングポールというものは、見た目だけでは良し悪しがわかりにくい山道具のひとつだ。グリップが自分の手に合っているかどうか、振ってみたときに重く感じないかどうかは、人それぞれの面もある。ぜひショップで実物を手にして試してみていただきたい。
今回のPICK UP
ブラックダイヤモンド
パーシュートFLZ

| 重量 | S/M=500g(実測値)、 M/L=532g(実測値) |
|---|---|
| サイズ | S/M=110~125cm、 M/L=125~140cm |
| 価格 | 25,740円(税込) |
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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