「いつもの米」と「メスティン」があれば防災になる!? 使い勝手を極めた「究極のメスティン」で楽しく備える防災

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使い勝手を極めた「究極のメスティン」の開発ストーリーと防災アイテムとしてのメスティンの魅力を、株式会社アングルの代表・堀秀則さんにうかがった。

構成=山と溪谷オンライン


メスティンといえば、かつては「ややツウ向けの飯ごう」という存在だったが、2018年ごろからじわじわ人気が出始め、2020年にはキャンプブームにマッチし一躍大人気となった不思議な経緯のアイテムだ。ブームの際にはさまざまなメーカーからメスティンが販売され、100円均一ショップなどにも並ぶようになった。

そんなブーム期にメスティンに出合い、のめり込み、こだわりのメスティンを自ら開発。現在では防災アイテムとしてのメスティンの普及にも尽力している、株式会社アングルの代表・堀秀則さんにお話を聞いた。

株式会社アングルの代表・堀秀則さん

会社のすぐ近くにある、堀さんがメスティン開発に使用しているというビルの一室に案内してもらった。今日はお話を聞きつつ、実際にメスティンで炊いたご飯もいただける、ということで、目の前には炊飯中のメスティンが並ぶ。

炊飯中のメスティン

堀さんが開発したメスティンは、「イムコ」と「d+」(ディープラス)のふたつのブランドとして販売されている。どちらのメスティンも性能は同じだ。

堀さんが開発した「究極のメスティン」は、使い勝手をとことん追求している。

まずは全面のマーブルコーティング。これは焦げ付き防止だけでなく、拭くだけで汚れをきれいに落とすことができ、後片付けがカンタンにできることも考慮されている。アウトドアだけでなく、洗い物の水や資源が貴重な災害時にもうれしいポイントだ。

炊飯中のメスティン

さらに、フタの開閉のしやすさや、米をすくいやすい丸みのある角、ハンドルのロック機能、炊飯に必要な水がひと目でわかる目盛りクリップなど、細部までこだわっている。「気配りを乗せたモノづくり」という言葉のとおりの細かさだ。

そして、そのメスティンを使って「誰でも簡単に炊飯できるように」と作られたものが「自動炊飯シリンダー」だ。このシリンダーをアルコールストーブにセットすれば、アルコール燃料を使って、炊飯に理想的な火力と時間になるように設計されている。セットした後はほったらかしにしておけば勝手においしいご飯が炊ける、というわけだ。

自動炊飯シリンダー
自動炊飯シリンダーとアルコールストーブ

自動炊飯シリンダーの試作品も見せてもらった。初めは手作りでテストをしていったと言う。

「これは銅のパイプを買ってきて作ったものです。これはランプのパイプを削り出したもの。黒もいいかなと思ったけど、メッキが剥げちゃってダメだな、とか」

自動炊飯シリンダーの試作品

開発時の思い出を楽しそうに話す堀さん。現在も、より便利さを追求した新商品を開発中らしい。

そんな話をしている間に「ジリリリリ・・・」とタイマーが鳴る。準備していたご飯が炊けたようだ。蒸らしも終えていただくことに。フタを開けると、ふわっと湯気が立ち上り、なんともおいしそう。

炊き上がったご飯

「まずは塩で食べてみてください」と勧められ、塩をぱらりと振りかけてさっそくひと口。おいしい!

具材と一緒に炊いたパエリアと、堀さんの奥さんお手製のカレーもいただく。お米がおいしくてどんどん進む。自宅の炊飯器で炊いたご飯よりおいしい。

食事をいただきつつ、引き続き堀さんからメスティン開発のお話を聞く。

株式会社アングルは、元々は企業などのノベルティやオリジナルグッズ制作が本業だ。しかし、新型コロナウイルスの影響で2020年に仕事が激減。

「そんなとき、YouTubeでたまたま見た動画でメスティン調理をやっていて、おいしそうだなぁと思って、自宅でやってみたんです」

それからみごとメスティンにドはまりした堀さんだが、だんだんと使い勝手に気になるところが出てくる。だったら自分で作ればいいんじゃないか、とメスティン開発をスタートした。

棚いっぱいに並んだメスティンとストーブ

ノベルティ開発でも、クライアントのニーズに合わせたモノづくりをしてきた堀さん。他社から販売されているあらゆるメスティンを試し、使用感を細部までとことん追求した。そして2021年3月には「究極のメスティン」が販売開始された。

堀さんが同時に力を入れたことが、「防災アイテム」としてのメスティンの普及だ。

なぜ防災?という質問に返ってきたのは、「ぴったりだったから」というシンプルな答えだった。メスティンと米と水、そして燃料があれば、炊飯ができる。

災害時の備蓄としてはアルファ化米がある。アルファ化米は急速乾燥した米をお湯や水で戻して食べるもので、登山者にもなじみ深い。炊飯の必要がないため、災害時の備蓄にはぴったりで、自治体などの備蓄米もアルファ化米が採用されていることが多い。しかしながら、デメリットもある。その一つは、消費期限が近づくと廃棄されてしまうこと。廃棄ではなく無料で配られる場合もあるが、通常の米に比べて味が落ちるという固定観念のせいか、あまり喜ばれない。

「いつもの米」を食べられるということは、有事の際にはうれしいことだろう。備蓄としてアルファ化米を用意するのではなく、いつもの米を多めに常備しておくだけでいい。日々消化していくものなので、消費期限切れも気にしなくていい。

「防災のためにやらなきゃ、と身構える必要がないところがいいんです。いつものお米があればいい」

2022年に立ち上げたブランド「d+」は「どこでも」「だれでも」「Disaster Prevention(防災)」の頭文字をとって名づけられた。明るいグレージュの色味は、アウトドアだけでなく日常でも使いやすく、女性や子どもにも親しみやすいデザインを意図したものだ。マーブルコーティングされたメスティンは、炊飯だけでなく、小鍋やフライパンとしても使いやすい。

2022年に立ち上げたブランド「d+」

昨年2023年から発売を開始した「おうちキャンプ炊飯セット」は、自宅で子どもがキャンプのように楽しく炊飯の方法を学べるように、と命名された。燃料には防災時の備蓄として安全性が高いデュアルヒート缶と、固形燃料がセットになっている。

「おうちキャンプ」というアイディアは、堀さんがアウトドアではなく、自宅でメスティン調理の楽しさに目覚めたことも、背景にはあるようだ。

社内に子どもを招いてメスティン炊飯の実演も行なっているという。

「研いだ米と研いでいない米を食べ比べてもらって『最近のお米は研がなくてもおいしい』という発見してもらったり、楽しく遊んでおいしいご飯を食べ、災害時に役立つ技術も身につけてもらえればと思っています。私は『遊食』と名付けているんですけど」とはにかむ堀さん。

日本は災害大国とも呼ばれ、いつ、どんな災害が起きるかわからない。日々の暮らしとともに防災を継続的に続けていくには、災害時のために、と気負わずに、遊びながら、それくらいの意識がちょうどいいのかもしれない。

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